メイリア:決意
私は代々錬金術師の家系に生まれた。 子供の頃から錬金素材に囲まれて育ったから錬金術に興味を持ったのは当たり前だった。
そして魔植物で遊ぶのも好きだった。 子供だった私は普通の植物でも魔力で成長させられると思い込んでいて、雑草を成長させ遊んでいたら両親に腰を抜かされた。
その時初めて、普通の魔族にはできない事、私だけのユニークスキルだという事を知った。
スキルには技名を付けたけど、アーニャが喜ぶから絶対に無詠唱で使おう……。
昔おじいちゃんに言われた言葉がある。
「錬金術は人を助けるための素晴らしい学問だ。 生き物を殺すためじゃないからね?」
その日から私は興味本位の動物実験をやめた。 自分で人体実験をするようになった。
何度も死にかけて、その度に両親や祖父母に心配をかけたけど、「私も昔そうだった」と笑っておしまいにされた。
それもどうかと思うけど、とりあえず理解者に恵まれて育った事は幸運だった。
そして今私は殺虫剤を作製している。
ただの「生き物」と思っている人族に何も思わないし、研究時間を割いてまで殺す趣味は無い。 でも「人」は助けるべきだ。
……果たして人族は「人」なのだろうか。 おじいちゃんの言った「人」とは魔族の事でないのか?
その答えはまだ分からない。
だけど人界で人族と関わって、中身は私達魔族と何も変わらない事に気付いた。
人族が「人」なのかどうか、それは私の中だけなら私に決める自由がある。 だから念のため殺虫剤を作製した。
「人」を見捨てたと後悔しないように。
ニーナは純粋に人族を助けたいみたいだ。 本人は「人界征服のため」と言って自覚がないけど、魔王様ですら動かした。
魔王様は争いを好む方ではない。 人族に親しみを感じている、というかむしろ何か懐かしんでいるようにさえ思える。
魔王様とニーナの2人は人に愛されるべくして生まれてきたように感じる。 友達のいなかった私には眩しい。
だからいつもニーナが私の事を気にかけてくれるのがすごく嬉しい。 ニーナの反応が面白いからイタズラしたくなるけど。
人を理由にするのはずるいけど、ニーナが喜ぶなら殺虫剤を完成させよう。 魔王様に利用して頂けるなら完璧な作戦をお届けしよう。
「メ、メイリアさん、実験中ですか?」
いつもビクビクどもるニーナは、しゃべるのが苦手な私に似ている気がして親近感がわく。 部屋のドアを開けて迎え入れた。
「……大丈夫……どうしたの?……」
「メイリアさん、魔王様に大変な事を頼まれちゃって……ごめんなさい! 大規模な話だって事を忘れてました! おおお手伝いしましゅ!」
「……今日はまだ検証があるから費用の計算は大丈夫……さっきエルドラドに張った結界だけお願い……」
「わっ! わかりました! あ、メイリアさんとルルさんが今日からお店に出ないのはみんなに言っておきますね!」
「……ありがと……」
ニーナが退室し、そうだ、とルルさんの部屋へ。
「メイリアちゃんどうしたの? またニーナちゃんの眼の事かしら? うふふ」
「……いえ……ニーナの出生を探る事と同じ、とルルさんに言われてからやめました……私が興味本位で調べる事じゃない……」
「そうねぇ……じゃぁ今日は何かしら? 殺虫剤?」
「……はい……」
ルルさんに、魔王様から研究の許可をもらった事、ルルさんと広域展開魔術式構築のためお店を休んでいい事を伝えた。
「なるほど……魔術式は書き出せる?」
「……書き出せますが……ユニークスキルなので頭の中だけで勝手に構築している部分は書き出せません……」
「とりあえず書ける部分だけでも」と言われ、書いた紙をルルさんに差し出した。
「……広域展開の術式に改変することは出来そうだけど……メイリアちゃん……貴方の負担がものすごく増えるわ。 大事な部分がメイリアちゃんでしか構築できないもの……」
つまり範囲が広くなる分だけ私の頭が割れるという事だ。 でも物理的な爆発まではしないだろう。
「……大丈夫です……」
「大丈夫じゃないわ……」
「……人界征服のためです……」
「……ふふっ、メイリアちゃんもニーナちゃんに似てきたわね。 とりあえず私は魔王様の指示通りやりましょう。 でも最終決定は魔王様に委ねるわよ?」
「……ありがとうございます……」
自室へ戻った。 さて、人体と土壌への害が無いか調べなければ。
土と一緒に野菜を食べたから今のところ急性毒性は無さそうだ。 分かってたけど。
キャロルさんのひいおじいさんが調べた虫に有効な素材の中で、キキューは選択毒性植物、つまり飛蝗やトカゲなどにしか毒性が無く、人体や土壌へは毒性が無いと記述があった。
おじいちゃんの師であるキャロルさんのひいおじいさんの資料なら信頼できる。
……一番の懸念は、虫害を起こした飛蝗での実験が出来ない事。
異常な繁殖力を持つ飛蝗は恐らく突然変異種だ。 もしキキューに耐性があったら……?
怖い。 アレイル国民を安心させてから騙し討ちするようなものだ。
魔族の私が飢饉を利用してより残酷に人族を殺した、という事になるかもしれない。
そうなれば今後人界でのディメンション系列店出店は無理だろう。 力づくで出店は出来ても人族は寄り付かない。 魔王様のご意志に反する。
……それでもやる。 やると決めた。
誰のツテでも使う。 人と話すのが苦手なんて言っていられない。
まずはキャロルさんに相談しに行こう。
錬金術は人を助ける。 それを証明するために私の錬金術師生命を懸ける。
Q.E.Dでフィニッシュ。 華麗に決めてみせる。




