メイリア博士の人体実験
2階層に移動して、農作業をしていた犬の獣人、コナーさんに実験してもいい場所を聞いてみた。
「……実験する……場所教えて……」
「じ、実験ワン?」
「あ、あのっ! 飛蝗を殺す殺虫剤がですね……」
こみゅしょうの私達2人のお話を根気よく聞いてくれたコナーさんには感謝しかない。
「まだそんなに畑を作ってないし、とりあえず端っこならいいんじゃないかワン? 人と土に影響のない殺虫剤なら俺らも欲しいワン」
「……検討する……小麦の種も欲しい……」
種をもらい2階層の端っこに移動。
メイリアさんの指示通り、メイリアさんごと土の下まで含めた四角い結界を張った。
実験だから、殺虫剤が他の土に広がらないようにするためらしい。
「あ、ホントに飛蝗とかいますね」
「……成体より幼虫が重要……あ、いた……」
メイリアさんが何かの粉を撒いてじっとしゃがんで観察してる。 そして種も撒いてた。
「メイリアさん、なんで種を撒いたんですか?」
「……取り急ぎ小麦と野菜を魔力で成長させて汚染の確認もする……」
「なるほど……メイリアさんは本当に先の事まで考えててすごいですね。 というか、魔植物だけじゃなく小麦も成長させられるんですか? 農家に引っ張りだこですよ!」
確か魔植物に分類されるものしか魔力で成長出来なかったはず。
「……内緒のユニークスキル……ちょっとだけならできる……見て、幼虫死にそう……」
「えっ⁉ ……ホントだすごい! 幼虫っていってもイモムシじゃないんですね」
「……うん、小さくて飛ばないのが幼虫……大きいのが成体……。 ……成体には効き目が弱いけど動きが鈍くなってる……」
「なるほど……ホントですね」
そしてメイリアさんが土に向かって魔力を放出すると、にょきにょき小麦と何かが生えてきたよぅ!
「……っはぁ……はぁ……」
「メ、メイリアさん大丈夫ですか?」
「……うん……このスキルは頭が割れるほど痛い……時間操作系だから……」
「えっ時間操作⁉」
ものすごいちーと使いがここにも……。
息遣いが落ち着いたメイリアさんが生えてきた葉っぱを引き抜くとにんじんが採れた!
って……顔がある! ひぃ怖い! 魔植物⁉
と思った瞬間、メイリアさんが土が付いたままのにんじん(?)にかぶりついたっ!
待って⁉ 自分で人体実験⁉
そして顔が付いてるけどそもそも食べられる野菜なのっ⁉ メイリアさん土まで食べてるよぅ! ひぃ!
「……あとは持ち帰って調べる……ニーナありがと……あ、この結界ってしばらく張ったままにできる? ……」
「……えっ⁉ あ、はい大丈夫ですよ、結界は得意なので」
メイリアさんに眼球を取られないよう、寝ている間も結界を張り続ける練習をしていた賜物とまでは言えない……。
「そういえば殺虫剤の原材料は何なんですか?」
「……キキューっていう花の一種……」
「あ、虫が寄り付かない草とかありますよね。 そういうのかな?」
「……うん……でも全然足りない……」
アレイルの穀倉地帯に撒くには……って意味だ。
その後はメイリアさんが結界内の飛蝗の成体や幼虫を小さなビンにぎっしりと採集していた……ひぃい! 気持ち悪いよぉ!
成長した小麦とにんじん(?)と土も採集、毒性が無いか調べるらしい。
さらには結界の外の元気な飛蝗の成体と幼虫も採集していた。
……メイリアさんもリサさんと同じく徹夜コースだろうな。
あ、部屋の中で調べるんだよね……? 私の部屋に入ってきませんように。
メイリアさんを結界から出した。
「そういえば、メイリアさんが出入りできる結界じゃないと不便ですね」
「……あ……」
「……どどど、どうしよう! え~と……なんかメイリアさんだけオッケー! って感じにして!」
結界に話しかけてむ~んと念じてみた。 ……私何やってるんだろう。
するとメイリアさんが結界の中と外を行き来した……ええ……ちゃんと出来てるし。 謎。
「これ、結界解除されてたり……?」
そう言いながら結界に入ろうとしたらガツン! とおでこを打った。
……痛い……生みの親は私なのに……薄情な結界だ、しくしく。
メイリアさん! そんな残念そうな顔でこっちを見ないで!
「け、結界は大丈夫そうです。 ……えっと、あ! メイリアさんしばらく研究するんですよね? お店はお休みしたらどうですか?」
「……魔王様に許可をもらう理由が無い……」
「……お話ししてみませんか? 魔王様がアレイルをどうするのかお考えだけでも聞いてみましょう」
昨日魔王様に鍛えられた交渉術で頑張ってみよう! メイリアさんがこれだけ頑張っている理由は分からないけど、なんか何となくなんか分かる気がする。
「……ありがと……」
「早速魔王様を呼びますね!」
今勢いでお話ししないと私がへっぴり腰になりそう!
「……え? ……」
『魔王様魔王様、エルドラドでメイリアさんと3人でお話できませんか?』
『あん? なんだ? 俺は魔王城の書類仕事が溜まってんだよ。 あー逃げてぇ』
『あ、じゃあいいです。 飛蝗の殺虫剤の試作が出来たけどいいです』
『……おいリオル! 人界征服の急用だから行って来る! またな!』
ひぃ! 話しながら念話しないで! 声に出しながら念話すると大音量で聞こえるんだよぅ!
そして近衛隊長のリオル様……お疲れ様です。
「よう! なんだなんだ? 殺虫剤?」
魔王様が転移なさって来た!
「ぎゃぴっ! は、早いですね魔王様」
「お前が呼んだんだろ」
「そんなに書類仕事が嫌だったんですね。 それとも殺虫剤の件が気になりましたか?」
「……ニーナはその減らず口テクニックを昨日の交渉で生かしてほしかったぜ」
「……魔王様……勝手に殺虫剤の研究をしてすみません……」
「ま! 魔王様! メイリアさんは趣味でですね!」
「……別に謝る事じゃない。 んで?」
メイリアさんが幼虫の入ったビンを魔王様に見せた。
「……先ほど実験してすでに幼虫は死滅しています……あとは人体と土壌に害が無いかの確認だけです……」
「ほう……」
「ま、魔王様……アレイルの虫害はやっぱり放っておくしかないですか?」
「…………」
ひぇ! 魔王様の無表情は綺麗なお顔なだけに怖いよぅ! ……でも。
「魔王様っ! アレイルを征服するのは魔王様ですっ! 虫けらなんかに征服させませんっ!」
「……フッ」
あ、魔王様が笑った!
「あ、あのですね、飢饉でいっぱい餓死するとアレイル国民はホストクラブで遊ぶ余裕なんてなくなるので、あの、その……」
「クックッ……そうだな。 アレイルを征服するのは俺様だ!」
魔王様……っ!
「メイリア! 必要な量を作るのにどれくらいかかる?」
「……メイン素材のキキューという花をかき集めないといけません……アレイルの穀倉地帯全域をカバーすると仮定して……材料が揃えば魔界の国立錬金施設で2ヶ月あれば………」
「花はどれくらいで調達できる?」
「……魔界もオルガも今の時期だと春キキューが十分に成長するまであと3ヶ月はかかるかと……収穫も時間がかかります……」
「半年かかるか……」
「……やるなら幼虫のうちに叩かないといけません……孵化する春に間に合わない……」
「あっ! メイリアさんの魔法でキキューを成長させられないですか?」
「……ニーナ……私ちょっとしか出来ない……」
「あん? 何の魔法だ?」
メイリアさんが魔王様に成長促進魔法を説明した。
「魔力が足りないのか? 広域展開が難しいのか?」
「……両方です……」
「ルルに魔術式構築を相談しろ、人体間の魔力供給なら俺が出来る。 ……薬剤散布はオルガ国にさせるか。 メイリア! 費用の見積もりをニーナと作れ!」
「……はい!……」
「まっ! 魔王様! メイリアさんの研究のためにお店のお休みを!」
「メイリアにもルルにもたまには趣味の時間をやる。 ニーナはオマケだ。 決戦日には出ろよ?」
「むぅ! でもありがとうございます!」
……あれ? 何で私こんなに嬉しいんだろ?
あ、メイリアさんの役に立ったからかな? えへへ。
ニーナが睡眠中結界を維持する練習をずっとしていた事に作者もビックリw
真面目で素直で可愛い(おバカだなぁ)




