製本所!
3週目3日目、今日も朝から魔王様に呼び出された。
今度は製本所に連れて行けと。 ナイトさん達の姿絵を製本するらしい。 本にして売るのかな?
ブブゼさんに念話して製本所の場所を聞き、全員分の姿絵を持って魔王様とぽてぽて製本所へ。
「よーう! ブブゼの紹介で来た魔王だ!」
魔王様っていつも偉そうな感じじゃなくてフランクだな。 もっと魔王様の覇気とか出してもいいと思うんだけど。 あ、でも覇気だけで人族は死んじゃいそうだな。
なんて事を考えていたら奥からキリッとした感じの女の人がやって来た。 なんとなくクラリゼッタさんの雰囲気に似てて怖いよぅ!
「本当に角が生えている……コホン! 初めまして、ベロニカよ」
ベロニカさんは私達魔族相手に緊張しているみたいだ。
「俺はアーデルハイドだ! ちょっと2冊だけ製本してほしいんだよ。 ニーナ」
2枚ずつ用意していた全員分の姿絵を魔王様へ渡すと、そのまま魔王様がベロニカさんへと渡した。
「たった2冊? ……ちょっと待って⁉ バレットじゃないっ! アイツぅ~! 生きてたのねっ⁉ もう一度殺しに行くわ!」
ぎゃぴっ! バレットさんの知り合い⁉
「ははは! バレットの元カノか?」
魔王様がそう言うとベロニカさんはハッ! と気を取り直した。
考えてみれば……この街で一番元カノが多いのはバレットさんかもしれない……。
「……なんでもないわ。 それにしても……こんなに美麗な姿絵の本なら沢山売れるわよ⁉ なぜ2冊なのかしら?」
「あん? うちの店で使うだけだから2冊で十分なんだよ」
お店で使うの? 売るんじゃなくて?
「噂の恋物語のお店よね?」
「おう! ベロニカも来てくれよ! バレットも指名出来るぞ、ははは!」
「冗談はよしてちょうだい。 とにかく、これはもったいないわ! 試しに100冊製本して本屋に売ってはどうかしら?」
もうすっかりベロニカさんは魔王様と打ち解けている。 魔王様のこみゅりょくってやつを私にも分けてほしい。
「えーめんどいな……でも宣伝になるか……売れなくても店で捌けるし」
「そ、そうよお店の宣伝になるわ!」
なんだかよく分からないけど沢山製本する方向へと話が進んでいる。 製本を決める前に先に金額交渉をした魔王様はさすがだ。
「よしニーナ! この件はお前に任せた! 100冊作って本屋に売れ!」
「ぎゃぴっ⁉」
「ブブゼに追加で印刷依頼かけとけ、仕事が出来てよかったな! ははは!」
「……かしこまりました」
くぅ! またまたぐうの音も出ないっ! やっとブブゼさんの巨体に慣れてきたのにベロニカさん、そして本屋さんともやり取りするのかぁ……初めての人とお話しするのは苦手だよぅ!
「増刷の管理もニーナに任せる。 ブブゼへの値引き交渉と本屋への売値交渉頑張れよ?」
ひぇ! ニヤリと笑った魔王様に挑発された! こここ、交渉なんて無理だよぅ!
「はひ……がんばりましゅ……」
でも答えは「はい」か「イエス」しかない。 私の能力を試されている……うわーーーん! 怖いよぅ!
そしてとりあえず2冊だけ製本を依頼し、細かなやりとりをしてから製本所を後にした。
「魔王様、次はどこへ行くんですか?」
「ニーナ前に本屋で本買っただろ? 本屋へ連れて行け。 先に売値交渉だ!」
「早速行くんですね……かしこまりました」
そして本屋さんへ到着。 クイッとアゴで入口を指した魔王様の目は「お前が先に行け、交渉しろ」と言っている……。
「あ、あのぅ~……」
おっかなびっくり本屋さんの扉から顔だけ出す。
……あれ? 返事が無いよぅ! 仕方なく中へ入ってお会計カウンターまで進む。 しくしく。
あっ、店主のおじいさんがいる!
「あ、あのっ! 本をここで売ってくだひゃ!」
「おや、魔族のお嬢ちゃんいらっしゃい……! 後ろにいる方はもしかして……」
「ま、魔王様です。 あっ! 私はニーナといいます……」
お仕事なら自己紹介は大事だ!
「おお……。 私はボンドだよ。 そ、それで今日も本を買いに来たのかい?」
「い、いえ……あの……本を売りたくて」
「うん? この間買った本を売るのかな?」
「いえ……えっと……うちの恋物語のお店のイケメンさん達の姿絵をですね……」
「……イ、イケメン? 姿絵?」
「ッダァーーーーーッ! まどろっこしい! 2人とも全然話が進まねぇな!」
「ひぇ!」
「ひぃ!」
私とボンドさんの声が重なった!
「もういい! 俺が姿絵を取って来るからちょっと待ってろ!」
「ろ!」を言い切る前に魔王様が転移してしまった。
「あわわ……魔王を怒らせてしまった! 殺される!」
「だ、大丈夫ですボンドさん! 怒ってません! 魔王様も私達も人族に危害を加える事はないです! 私がうまくお話しできなかったのがいけなかったんです!」
「本当かい? 大丈夫なの? ……とりあえずお茶を入れようかね。 そこにある椅子に座っているといい」
カウンターのそばにあった椅子にちんまり座ると魔王様が転移して来た。
「ほれ! 姿絵を持ってきたぞ! 交渉再開だ! ニーナ、俺に給料交渉した時みたいに気合い入れてやれ!」
ハッ! そうだ! 相手を魔王様だと思ってやればいいんだ! ようし、人界征服のために頑張って高く売るぞ!
深呼吸をして頭の中を整理し、お茶を持って来てくれたボンドさんにズラリと並べた姿絵を見せる。
「これはうちのお店のイケメンさんの姿絵です。 これを100冊製本するのでここで売ってほしいんです。 おいくらで買い取っていただけますか?」
ボンドさんも空気を読んだのか真剣な顔になった。
「……この枚数じゃあ本にしては薄いねぇ。 1万ディルでも売れるかどうか……」
まずい……17枚の姿絵だけで1万7千弱、さらに製本代があるのにっ! 3万は欲しい!
「き、昨日うちのお店で販売した姿絵は全部で158枚です。 1枚1000ディル、合計売上15万8千、冊数にすると9冊分です、一日でこれだけ売れる姿絵なんです! 3万ディルでお願いします!」
「えっ⁉ そんなに売れたのかい? う~ん……でも3万ディルだと高いなぁ、売れるかなぁ」
あ、ちょっといい感じ! あと何かないかな……高くても売れるって納得さえしてもらえればいいんだけど。
ボンドさんはお茶を両手で持って飲んでいる……。
「あっ! うちのお客様がお店で使う金額は1回5万ディル以上が多いです! お店のお客様に、製本してここで売っているって宣伝するのできっと買ってくれます! みなさんお金持ちなんです!」
「なんとっ⁉ 酒場で5万ディルも使うのかい⁉」
「一晩で400万ディル使った方もいらっしゃいました……」
お姫様だけど。
「…………」
あ、ボンドさんが時間停止してる。
「あとあと、実際に見る鑑賞用、保存用、お友達に貸したりする布教用でお一人3冊買う方もいます、絶対!」
アルディナさんなら私の期待を裏切らないはずだ。 なんだろう……あの3人の異常な安心感。
「あ、あの、ボンドさん?」
「……ああ! すまないね。 そうかい、すでにこれが製本されるのを待っている人がいるんだね。 それなら3万ディルで売ってみてもいいかもしれない。
私の取り分は5000ディルで、2万5千ディルでどうだい? でもいきなり100冊は怖いなぁ、20冊からなら……」
う~ん、そっか、ボンドさんの取り分もあったんだった。 しかもいきなり100冊250万ディルでは買い取れないよね?
どうしよう……2万5千ディル20冊で魔王様納得してくれるかな?
チラリと魔王様の顔色を伺うと、ニヤニヤと私とボンドさんを見ているっ! ひぇ! 何々⁉ 逆に怖いよぅっ!




