ちょっとダンジョン経営しようぜ
「ダンジョンを……作った……んですか?」
思わず呟いた。
洞穴は禍々しい雰囲気を醸し出している……。
「ガッ……闇が共鳴している……だと⁉」
アーニャはスルーだ。
「ま、魔王様のユニークスキルですか?」
お兄ちゃんが聞いた。
私達は子供の頃から魔王様を見てるけど知らなかったようっ!
「……そうだ」
「スゴいわぁっ☆」
「魔王様のユニークスキルを見られるなんて! 人界に来てよかった!」
「……素材の宝庫……」
コーディさんが涙を流し喜び、メイリアさんは素材を思い浮かべニヤニヤしている。ルルさんは驚いていないから知ってたのかな?
「ダンジョンって作れるんですね……さすが魔王様」
「ええい! 恥ずかしいからもう言うな! とにかく、このダンジョンを管理して経営するぞ」
魔王様が私の言葉で恥ずかしがった。ユニークスキルは自慢してもいいのに。
「はい! 魔王様! どうしてダンジョンを管理するの?」
アーニャがピョンと跳ねながら挙手した。
「ダンジョンの入口に店を構える。そしてやってくる人族の冒険者にポーションや地図を売ったり、ピンチの時には救出する商売をして、徐々に人族の信頼を得るという作戦だ! そして同時に人界の金も稼いで系列店の資金にしよう」
さすが魔王様です! お店を通して人族に魔族を信頼させ、資金調達まで! フフフ……何だかとっても人界征服っぽい!
「ホストクラブだけでなくダンジョン経営まで! 財務管理ならお任せ下さい!」
「魔王様の経営能力は素晴らしいです!」
コーディさんとお兄ちゃんが興奮している。
「でも人族は来てくれるかしらぁ? アタシ達の罠だと思われないかしら?」
ラウンツさん……お店に立つのかな?
「それな……とりあえずやってみよう」
他に策も無いので、魔王様の言う通り手探りでやってみることにみんなが賛成した。
早速その場でルルさんがダンジョン入口に構えるお店を設計し始める。
魔王様とメイリアさんは、裏口に付ける扉とメイリアさんの錬成台を魔界に発注してくると転移して行った。
その間は他の五人、私とお兄ちゃん、アーニャ、ラウンツさん、コーディさんで少しダンジョン内を探索して地図を作ることになった。
──────────────
洞穴からダンジョンを覗き見ると、草木が茂っているようだ。どんな魔物が出てくるのかなぁ……。
「ダンジョンなんて初めてだよぅ……」
「子供はダンジョン入っちゃいけないからな、ニーナだけ未経験か」
お兄ちゃんは魔王軍だからダンジョンに行ったことがある。
「魔界のダンジョンは魔物が強くて楽しかったわぁ!」
ラウンツさんも近衛隊だから行った事があるんだな。
「僕も未経験ですね! 新任からずっと財務部ですから。楽しみです!」
財務部だけど肉体派のコーディさんは楽しみらしい。うぅ……私の味方がいないよぉ!
「早く入ろうよ!」
アーニャに急かされみんなで洞穴に入り下っていくと、外と同じような森が広がっていた。
やけに明るいなと思って上を向いたら、太陽みたいな謎の光球がある……不思議だ。
「ニーナ、魔力感知してみてくれよ」
「あ、うん」
私は魔力感知も得意だ。よし! 頑張って地図を作って魔王様のお役に立つぞ!
「……あ、あれ? 魔物らしき魔力はたくさんあるんだけど、なんか弱すぎないかな?」
「って聞かれてもな、俺らの魔力感知はニーナほど高性能じゃないし。……とりあえずどんな魔物がいるか探そうぜ」
そう言ったお兄ちゃんに背中を突っつかれ、私が先頭になって近くの魔物に近づく。
「あ、ゴブリンです」
「ゴブリン……」
「ゴブリンね……」
「魔界では絶滅寸前の弱い魔物ですね……」
「むしろレアだよね!」
ゴブリンは私達を見ると両手を上げて一目散に逃げていった。
「あっ!」
「……俺達が強すぎて逃げたな」
「逃げたわね……」
「フッ……私の封印から漏れ出た邪気に恐れをなしたね!」
「ま、まぁ! 人族にはちょうどいいのでは⁉」
コーディさんが弱すぎるダンジョンに謎のフォローを……。確かにゴブリンほど弱ければ、人族に罠だと思われないかもしれない。
その後は第一階層をくまなく探索して地図を作った。ゴブリンしか見なかった。第二階層も探索したけどまたゴブリンだけ。
第一階層とほとんど変わらなかったので、地図が出来たら一旦地上に戻ろうという事になった。
「あ、ニーナちゃん! お店の設計図が出来たから土魔法お願いよ」
「ルルさん……早いですね」
「こんなちっちゃいのなんてすぐよ。転移陣を隠すようにそこの上に造ってくれるかしら?」
邪魔な木をラウンツさんの大剣で切り倒してもらって、切株は土魔法で土を盛り上げてから空間魔法で引っこ抜いてあっちへポイだ。
ルルさんに手渡された設計図を元にズモモッとお店を造る。
前面はカウンターになっていて、裏口は扉がはめられるように穴が空いていた。
「お、店ができたな」
「まっ! 魔王様、どうしたんですか?」
「ん? 扉を持ってきたぞ」
メイリアさんと一緒に帰ってきた魔王様が、亜空間から取り出した木製の扉をコーディさんに渡しながら私に言った。
「えぇっ⁉ そんなにすぐ出来るわけないじゃないですか」
「うん、だから城の物置小屋の扉を拝借してきた」
また盗んでる……!
「ルル、この扉に合わせて穴の大きさの修正よろしく!」
「わかったわ」
「……錬成台……持ってきた……」
メイリアさんが私のローブの袖をくいくいと引っ張りながらそう言った。
「えっ⁉ どこから?」
「……自宅……家の方は新しいものを発注する……」
フットワークが軽すぎるよ!
扉や錬成台の設置はコーディさんが手伝うみたい。
木を切り倒しているラウンツさんに魔王様が話しかけた。
「ラウンツ、中はどうだった?」
「第二階層まで地図が出来たわぁっ! 中は外と同じような森ね、でもゴブリンしかいなかったわよぉ?」
「えっ! マジ⁉ 森でゴブリン⁉ やったぞ!」
魔王様がすごく喜んでる。お兄ちゃんが首をひねりながら魔王様へ聞いた。
「魔王様、なぜお喜びなのでしょうか?」
「あ、すまん取り乱したなレイスター。弱い魔物のいる森が俺の作りたかったダンジョンなんだよ」
「コーディさんが人族にはちょうどいいと言っていました。だからですか?」
「あ、ああ……それもあるな。まぁ他の理由はおいおい話すよ」
? 何だろう。まぁ悪いことじゃなさそうだしいっか。
その後、魔王様が「特別選抜トーナメント‼ 人界征服の第一歩は誰の手に⁉」と書かれた木製の看板を二つ亜空間から取り出した。
……例の拳によるお話し合いで使われたんだろうな……。
この文字を削って「ダンジョンはじめました」と書いて人族に宣伝するらしい。念入りに消さなければ。
「ルル! 人族救出用の魔道具作ってくれ!」
魔王様が魔道具製作の得意なルルさんに何かお願いしてる。
「どんなものかしら?」
「例えばスイッチを押したら、この店で救援信号を受け取れるようなやつとかどうだ? 位置情報も送られるようになってると便利だな」
「なるほど……その信号を受け取ったら私達が救出しに行って、人族の信頼を得るという事ね? 早速作るわ」
「そそ! よろしく!」
そ、そんな高度な物すぐに作れるの⁉
お昼休憩を挟んで、夕方には一通りお店が出来てしまった。……つまり商品もすべて揃っているという事である。
ルルさんは家中の魔道具素材を亜空間に入れて人界に来たらしい。メイリアさんも同じく錬金素材とポーションを……。
出来上がった金属製の救援魔道具は親指位の大きさだった。紐が通せるようになっていて、首にかけておくこともできる。
スイッチを押すと、事前にルルさんが込めた魔力が、お店にある受信用の魔道具に届くようになっているらしい。
私達はその受信用魔道具を使って冒険者の所へ辿り着けるとの事。
「よし! これで準備は出来たな! ニーナ! 明日の朝、看板を街の入口に立ててこい」
「ぎゃぴっ! 魔王様、なんで私なんですか⁉」
「ニーナは見た目が弱っちいから他のやつより警戒されにくいし、結界が強いから適任だ」
「一人なんて怖いですよぅ……」
「お前が怖いのは人と喋ることだろ? そのコミュ障を治せ。魔王命令だ!」
「ひぇ!」
出た! 魔王命令! 「こみゅしょう」が何なのかは分からないけど、要は人に慣れろって事かな。トホホ……。
「が、頑張りましゅ……」
2021/11/6改稿。




