はみゅう~♡
印刷屋さんと仕立て屋さんへ行った翌日、2週目の営業が始まった。
「ねぇねぇニーナ! めっちゃフリフリリボンの子たちが来てるよ!」
「ん? …………すごいね」
バックヤードのカーテンからチラ見すると、豪華なお人形さんみたいなフリフリお洋服を来た女の子が2人。
頭のてっぺんからつま先までリボンが付いている……。 全身ピンクと全身黒で双子みたいだ。
「あのあり得ないほど子供みたいなはみゅはみゅ声どこから出してるのかな⁉ 2人揃って究極のブリッコだね!」
「はみゅはみゅって……うん、素なのか演技なのか気になるお客様だね」
「あっ! アレンくんネフィスくんが呼ばれたよ! さっすがナンバー!」
初回では席に着いてほしいナイトさんがいた場合、内勤さんにお願いすればタダで呼ぶことが出来る。 ナイトさんの指名に繋がりやすいからだ。
初回の2時間だけでは全てのナイトさんとお話出来ないので、内勤さんからお客様にリクエストを聞きに行く事もある。
ただ、他のナイトさんにもチャンスが与えられるように、呼んだナイトさんは少ししたら内勤さんにより席を抜けさせられる。 初回の席は争奪戦なのだ!
アレンさんがピンク、ネフィスさんが黒のフリフリの横へ座った。 初回のお客様の席では普通向かいの丸椅子に座るんだけど……呼ばれたからいいのかな?
「初めまして。 『恋の無限螺旋階段へエスコートします』アレンです! プリンセスのお名前をうかがっても?」
「きゃはっ! なにそれかっこいい〜! みゅうはぁ〜ミュリエルだよっ☆ か弱いお姫しゃまだからぁナイトきゅんに守ってもらわないと死んじゃうのぉ〜☆」
おおう……ちょっと初めての人種だ、頭痛がする。
「……プリンセスに選ばれるなんて光栄です。 ……カゴに入れて僕だけのプリンセスにしてしまおうかな?」
アレンさんがぷす、とピンクのミュリエルさんのほっぺをつついた。
「はうぅ……」
ミュリエルさんがチョロいのかアレンさんがすごいのかよく分からないけどこうかはばつぐんだ!
アレンさん、あのはみゅはみゅ空間によく合わせられるな……。
「あっ! ずるいよぉ〜しゅりもぉ♡」
「黒のプリンセスはお預けだ」
「えぇ〜! きゃふぅ……しょぼんでしくしくなのぉ〜……」
黒い子がネフィスさんに泣く仕草をした。 絶対涙出てない、こんな棒読みの「えーんえーん」に何の効果が……?
「慰めてやるから名前教えろ」
「シュリエルだよぉ〜! えへっ♡」
「……双子か?」
「そうだよっ! ぷいぷい~っ♡」
「お、おう……」
シュリエルさんが両手のピースで自分のほっぺをむにゅっとした。
ぷいぷい……一体何の意味がある単語なの? アーニャが言う厨二病台詞みたいなものかな? 定期的にはみゅらないと体の中に巣食う何かが暴走するのかも。
アレンさんネフィスさんはもろに弱体化魔法を受け、精神力をごっそり持っていかれてる……ナイトさんって大変だな。
「はみゅエルちゃんの会話を聞いてると鳥肌が止まらないね! 氷魔法かな⁉」
「アーニャはすぐ名前を合成するね、錬金術師になれる日も近いかもね。 そして氷じゃなくて弱体化魔法だと思うよ……」
「はみゅう~♡」
アーニャが両こぶしを頭の上に持ってきて、首をかしげながら下がり眉で鳴いた。
「…………」
そのアヒル口を引きちぎってやりたい。
しかし相変わらずアーニャのモノマネは上手い。 あの2人は「はみゅぅ~♡」なんて言ってないけど……一言であの2人を体現してる、さすがだ。
「ははは! 電波が来たな! おもしれー! はみゅう〜! ぶはは!」
魔王様までお客様で遊んでるっ! でんぱって何っ⁉
「そういえばシュリエル達は何でうちの店を知ったんだ?」
ネフィスさんシュリエルさんのほっぺを掴んで自分の方へ向かせてる……。 いつもこういう事やってるな……。
「むい~離ちてぇ~……ママがプレオープンに来たんだよぉ♡ しゅり達も行きたいって言ったんだけどママとパパがダメって言ってたからナイショだよっ?」
「ああ……そういえばお二人に似たご婦人がいらっしゃっていましたね。 プレオープン以来お見かけしていないですが。 確かブノワ商会の────」
「ブノワ商会⁉ 一番デカイ商会じゃねぇか!」
アレンさんの言葉を遮ってネフィスさんが驚愕している。
プレオープンにご招待したのはヒュドラを買い取れるくらい大きな商会の奥様やお嬢様だったんだけど、ナイトさん達はあんまり知らなかったのかな? 職業を聞くのはナイトのタブーその2だし。
ミアさん指名のアンナさんがお金持ちなのは大店のお嬢様だからなのだ。
「そうだよぉ~! みゅう達もお店を任されてるの! えっへんなのだ☆」
「その若さですごいですね。 何のお店かうかがっても?」
「みゅう達が着てるお洋服だよぅ☆ みゅうとしゅりがデザインしたの~可愛い~☆」
「可愛くない?」って聞くのかと思いきや、じ、自分で可愛いって言い切ってる……いや可愛いけど。
「マジかすげーな!」
「アレン、ネフィス」
あ、バレットさんが二人を抜きに来た。
「おいシュリエル、今日俺を指名しろ」
「はにゃ? どちて?」
「もう別の席行かなきゃなんねんだよ」
「ええ~! まだ何もお話ししてないよぉ!」
「だから指名しろよ、まだ慰めてやってないぞ? 俺は約束を守る男だ」
ネフィスさんのオラ営がこじつけすぎるよぅ!
「はみゅう……」
あ、シュリエルさんホントに「はみゅう」って言った! アーニャすごい!
思わずアーニャを見たらドヤ顔で「はみゅう~!」って言われた……。 イラッとしたから無言で肩パンしとく。
「ミュリエルさん、指名すると飲み直しになって正規料金になりますが、次回の指名は変えられますよ? 今日は僕に貴方の時間をくれませんか」
アレンさんもキラキラ笑顔で静かにグイグイ行ってる! 太客になりそうだもんね!
「うにゅ? ならいいよ! いくらか知らないけど☆」
キラリと目を光らせたバレットさんがすかさず2人にシステム説明をした。
「えー! 安ぅい☆ みゅう今日はアレンきゅんのお姫しゃまになりゅう!」
「しゅりもネフィスきゅんのお姫しゃま~♡」
チョ、チョロい……! いや、お金持ちなだけかな。
「オナッシャース! 素敵な姫からご指名頂きましたァ!」
「「「アザーッス!」」」
アレンさんネフィスさんがまんまとお金持ちのお客様をゲットした事に他のナイトさん達は気付いていない。
初回争奪戦はひっそりと幕を閉じた。




