Side story:ララとセシル5
計算してみよう、セシルくんのナイトとしての価値を。
まず初回、セシルくんとは少ししかお話しできなかったけど、あの豪華な空間にいるだけで2時間1万以上の価値はあったと思う。
次に今日のデート…………なにあのギャップ! 卑怯! いつもと違う色気漂わせた後の「やだ」って可愛すぎ! ハイ10万!
そして今日のお会計4万3千。 楽しかった上に、毎回仕事のアドバイスがもらえる……もぉおおお! 安い! 認めざるを得ないっ!
追加チップでハイ5万! 香水は一生分買い溜めする!
さらに念話! 嬉しい! 毎日念話してくれて毎週デート出来たら……ああああああ! お財布ごとあげるっ!
無理っ! 計算できないっ! こんな公式習ってないよ!
……はぁ、ダメだ、舞い上がっちゃって冷静になれない。 もっとちゃんと落ち着こう。
セシルくんはお仕事だからデートしてくれたんだろうし念話もしてくれる。
私がお店のお客さんに念話するのと同じような事だ。
……別にセシルくんの彼女になりたいとかそういう気持ちは今のところ無い。
セシルくんが最初に言っていた通り、恋をしたことが無い私に「女の子が見たい夢」を見せてくれればそれでいい。
私が女の子として「私」になれる時間を買うだけだ。
セシルくんの価値を計算するのは計算機が暴走して無理だから、じゃあ逆に、月にいくらまでなら払えるかを考えよう。
……最低限の生活費を差し引くと、100万は手元に残る。 将来この仕事で食べていくことが出来なくなった時のために貯めたお金はもうすでに結構ある。
でも遊びに使うのにさすがに100万は無いかな……数十万なら……。
うん、セシルくんが見せてくれる夢に払える上限は大体分かった!
もう寝よう! 明日もセシルくんから念話が来ますように……ふへへ。
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それから毎日セシルくんから「おはよう」「仕事行って来るね」「お疲れさま」の念話が届くようになった。
常連のお客さんには「なんか今日はサービスいいな、何かあったのか?」と聞かれたけど「貴方が来てくれたからだよ」と誤魔化した。
昨日は3日振りにディメンションへ行った。 うう……3日しか我慢できなかったよぉ、ヤバイかも。
そして今日はセシルくんがお休みの日。 貴重なお休みのはずなのにデートに誘われた! 私は夜から仕事があるけどいつもより長く一緒にいられるかも……? どうしよう! 期待しちゃう!
新しく買ったワンピースを着て待ち合わせ。 あ、今日のセシルくんの格好もカッコイイな。
セシルくんは私に気付くと笑顔で走って来た。
「ララお待たせ! 今日も可愛いね。 あ、アップも似合うよ!」
ううっ……欲しい言葉を必ずくれるセシルくんはズルい! そうだよ! 今日はセシルくんのために髪をアップにしたんだ!
そしてご飯屋さんへ行ってプライベートモードのセシルくんと楽しく過ごす。 別に恋人同士のデートなんかじゃないけど、「私」が輝いている気がする。
「ねぇララ、時間があるから僕の部屋へ行かない?」
「へぇっ⁉」
セ、セシルくんのお家⁉ 行きたい! でも「男の家に行くって事はそういう事だ」ってカリンちゃん達が言ってた……。
「あ、何もしないよ? カリンちゃんにバレたら怖いし! ふふっ。 何か甘いもの買って家で食べながらお話しようよ」
あ、セシルくんならそうだよね、真面目だもんね。 ちょっとガッカリしてしまった私が恥ずかしい!
そして露店でお菓子を買ってからついにセシルくんのお家へ……。
あ、セシルくんの香水の匂いがする。 同じ香水なのに私が付けるとなぜかセシルくんと匂いが違うんだよね、何でだろ……。
家の中は整理されてて綺麗だなぁ。 セシルくんの性格を表している。
「僕が呼んだのに、いざ初めて女の子を招くと恥ずかしいな」
セシルくんが照れながら言った。
初めて⁉ 私が⁉ 嘘だぁ……だってセシルくん女の子の扱い上手いもん。
……だが! もはやそんなのどうでもいい! 夢だけ見させて!
「ホント? 嬉しい!」
「あ、うち椅子ひとつしかないんだった。 ベッドに腰掛けてて、僕は紅茶を入れてくる」
椅子がひとつ……さっきの言葉信じる!
言われた通りベッドにちょこんと座ると、紅茶を入れ終わったセシルくんも隣に座った。
……何か言ってもまた「ララの隣は僕の専用席」って言われるんだろうな。 もういちいちツッコむのはやめよう。
ローテーブルに広げられた紅茶とお菓子でまた楽しくお話しする。
ああ、おうちデートだ! セシルくんのプライベート空間に私がいる!
「ねぇララ、その髪型どうなってるの? 後ろ見せて」
「ん? いいよ」
ひゃぁ! セシルくんに背中を見せたら後ろから抱き着かれた! 腰に手が! また首筋にセシルくんの顔が!
「……ララの匂いがする」
「セ! セシルくんと同じ香水だよ!」
「ん~でもララの匂いがする。 いい匂い」
恥ずかしいよー! 顔が熱い! 汗が! 汗が出るっ! 特に脇がヤバイ!
「脇汗がバレない作戦」を考え始めたらセシルくんにくるりと上半身を回転させられた。 セシルくんの顔が近い! ってかこの体勢キツイ!
「あっ!」
セシルくんから顔を離そうとしたらバランスを崩し、仰向けにベッドに倒れてしまった。
「……誘ってるの?」
にじり寄って来たセシルくんが私の真上から目を細めて笑い、艶っぽい顔で挑発してきた……その顔はダメェ!
「ち、ちが、ちが! セシルくんが!」
「僕のせい? それはそれは申し訳ございません」
「ひゃ!」
ほっぺにキスされてるぅ!
でも唇じゃない事にちょっとホッとして薄目を開けたらほっぺにキスしたままのセシルくんとバッチリ目が合った。
何で目ぇ開けてるの⁉
「っ! ん……」
にゃああああああ! キスうううううう‼ 違うと見せかけてからのキスうううううう‼
……お菓子の甘い味と紅茶のほろ苦い味がする。 これが本当の私のファーストキス……そう思うと嬉しくて涙が出てきた。
泣いている私に気付いたセシルくんがそっと唇を離す。 私の涙がセシルくんの頬に付いている。
セシルくんは私をじっと見た後、またキスをしてきた。 何度も、何度も、絡ませて。
セシルくんの指と私の指も絡まる。
「知ってた? 指の間もキくんだよ!」 カリンちゃんの言葉がリフレインする。
麻薬に溺れるように頭がとろけていく。
ふわりふわりと飛びそうな意識に身を任せ、幸せを嚙み締めた。
どれくらい時間が経ったか分からないくらいキスをしていた。
でも「そろそろ仕事の時間かな?」というセシルくんの言葉により幸せな時間は終わりを迎える。
当然のように手を繋ぎ、うちのお店まで送ってもらう。
何か話したいけれど、今の気持ちを言葉にしたら途端に陳腐になってしまう気がして……せめてセシルくんの顔を目に焼き付けておきたいと思った。
私の視線を浴びたセシルくんは涼しい顔で前を向いたまま。 ……でも繋いでいた手が恋人繋ぎへと変わる。
そしてついにさよならの場所、うちのお店へ着いた。 そっと手を離し、お互いに「またね」と手を振って私が中へ入る。
まだぼんやりしている頭のまま自室へ戻り、すぐに下着を着替えた。
そこには「私」の中の雌が「堕ちてしまった」と吐露した印が付いていた。
ララとセシル ~Fin~




