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Side story:ララとセシル4

 カリンちゃんにせっつかれて、キキと一緒にバタバタとディメンションへ急いだ。

 貴族は馬車で行くらしいけど、私達はお店同士が近いこともあって徒歩で行く。

 ……今は走ってるけどね! 汗かいちゃうよー! 髪がバサバサになるー!


 はぁ……はぁ……。 入口前に着いたらみんな手鏡で最終チェック。

 カリンちゃんがちょっと躊躇(ためら)ってからドアホンを押した。


 お店に入ると今日は魔族の従業員が席へ案内してくれた。

 改めて思うけどホントに魔族のお店なんだな。 何だかコッソリ悪い事をしている気がして、それもまた私を甘美な世界へと誘惑する。


 魔族の男の子に「ご指名はございますか?」と聞かれ、キキは「ネフィスくん!」と言った。 じゃ、じゃあ私も……。


「セシルくんで……」




 すぐにセシルくんとネフィスが私達の席へ来た。 ……あれ? ルフランじゃなくてヴァンが一緒だ。


 セシルくんが今日は私の隣に座った。 あ、指名したからだ……セシル君が今日言ってた言葉の意味がやっと分かった。


「ララさん! こんなすぐに会えるなんて思っていませんでした。 早く会いたかったので嬉しいです」


 セシルくんの笑顔が今日一番輝いてる!

 「こんなすぐに」ってのは昨日振りって意味じゃなくて、さっき振りって意味だ。 2人だけの秘密の暗号みたいで楽しい。


「あ、迷惑じゃなくてよかった」


「まさか」


 ふふっと2人で笑い合う。


「カリンちゃん元気ないな! 俺が笑わせてやろうか?」


 ニセイケメン魔法使いヴァンがカリンちゃんに話しかけた。


「……ルフランは?」


 ……どうやらルフランはまだ怒ってるらしい。 ルフランてホントにカリンちゃんのこと好きなのかな?


「キキ……昨日のお仕置きは覚悟して来たんだろうな?」


「は、はいっ……」


 あー昨日のキキのせいでカリンちゃん達ケンカしてるからね。 まぁキキが悪い訳じゃないんだけど。

 キキは悪い男によく泣かされてるから納得の指名だ。 なんでこういう上から目線の男が好きなんだろ?


「ララさん、昨日のお客様の反応はどうでしたか?」


 あっ、せっかく会えたんだからセシルくんと楽しもうっと!


「セシル君の作戦はバッチリ! バカなフリしたらお客さん喜んだよ! 次はね、臭いお客さんの対処法を考えてほしいんだけど……」


「ああ、それは死活問題ですね。 湯浴みとかはするんですか?」


「お店ではしないよ、営業中ずっとお湯を沸かしてる訳にもいかないからね。 いいお客さんは綺麗にしてからお店に来てくれるんだけど……。

 たまにわざと汚いまま来る人がいてさ。 あんまりひどい人はママが断ってくれるんだけど、いざ相手をする時に脱いだら……って人もいてキツいんだよね。

 多分、支配欲的な? もうそういう遊び方の一種なんだろうね」


「なるほど……それはかなり辛いですね。 うーん……」


 流石のセシルくんもすぐには思い付かないみたいだ。


「……あっ! ララさん火魔法と水魔法は使えますか?」


「えっ? う、うん。 魔法も学校で勉強したから初級なら使えるよ」


「うちの店のおしぼり、気持ちよくないですか?」


 何となくセシルくんの言いたいことが分かってきた。


「うん、あったかくて気持ちいいよね。 このお店で初めておしぼりなんて知ったよ、トイレに行く度に渡されるから贅沢(ぜいたく)だなぁって思ってた」


 トイレの後におしぼりを渡されて、最初は何に使うのか意味が分からなかった。


「実はおしぼりは内勤が火と水の魔法で湿らせてるんです。 ララさんもお湯さえ魔法で作れれば、『気持ちいいから』って理由でお客様へ自然に使えませんか?」


「……すごい! それならサービスに思われるから自然だね! 何で今まで思いつかなかったんだろ!」


「もし氷魔法も使えれば夏場はつめしぼもいいですよ! 冷たいおしぼりの事です。 僕たちは酔った時によくつめしぼを顔や首に当ててます」


「えー! 風邪の時だけじゃないんだ! ちょっと帰ったら練習してみる! ありがとう!」


 セシルくんはホントにすごい! 仕事の相談相手にはピッタリだ! うちのお店の女の子に相談しても、みんなのグチ大会が始まって何も建設的な話が出来ずにいつも終わっちゃうから……。




「あ、カリンちゃん、代表から伝言。 今回こんな状況だから特別に指名替えしていいってさ。 客から永久指名解除はできないけどルフランが了承したから代表判断でオッケーだって」


「…………え?」


 ヴァンの言葉にみんな一斉に2人を見た。 これは口を挟んじゃいけない雰囲気だ……。

 ヴァンの話を聞き終わったカリンちゃんはトボトボと先に帰って行った。 え……なんか気まずい。


「ね、ねぇセシルくん、永久指名って何?」


「ああ、一度永久指名したら今後そのナイトしか指名出来ないという事です。 でもダンスができるのとナイトと同じ香水が買えるのは永久指名したお客様だけですし、ナイトもお客様を大事にするのでお互いメリットはありますね」


 香水⁉ セシルくんの⁉ 欲しいっ! いつでもセシル君の匂いに包まれていたい! はいはい! 永久指名します!


「え、永久指名したい……な」


「えっ? ……僕?」


「そうだよ……?」


 セシルくんの顔がビックリしたまま固まってる! 何々⁉ 永久指名しちゃマズかった⁉

 と思った瞬間、セシルくんの顔が悪戯(イタズラ)な笑顔に変わった。 もうっ! お店でその顔はズルいってば!


「ありがとうございます、初めて永久指名を頂きました」


「えっ⁉ 初めて?」


「はい。 本当に嬉しいです!」


「私も嬉しい! ……あの、それでね、さっき言ってたセシルくんの香水、私も欲しいなって……」


「じゃあお揃いですね。 1万ディルですが大丈夫ですか?」


「うん大丈夫。 香水は普通の値段なんだね……」


 お酒はビックリするほど高いから、逆に謎の値段設定に思える……。


「お願いします!」


 セシルくんが内勤を呼んで耳打ちしたらすぐに香水を持って来てくれた。

 さっそく香水の匂いを()いでいたらネフィスが話しかけてきた。


「何だよセシルこっそり永久指名入れやがって、計算か?」


「違いますよ、フロアへ叫ぶのが恥ずかしいだけです」


「ねぇねぇララ! その香水何~?」


 キキに永久指名の話をしたら悩み始めた。

 ネフィスが「おいキキ永久指名しろ、もっと構ってやる」ってまた上から目線で言ってるけどなんでキキは嬉しそうなの⁉ だからいつも男運が無いって言われるんだよー!


 時間を忘れておしゃべりを楽しんでいたら、セシルくんに出勤時間は大丈夫かと聞かれ急いで帰った。 完っ全に忘れてた!




 そしていつも通りお店でお客さんの相手をし、私にとって長い長い1日が終わった。


 ちょうど仕事が終わった時間にセシルくんから「お疲れさま」の念話が来た。 嬉しい。

 自分の部屋へ戻り、湯浴みをする。 今日の楽しかった思い出だけが残るように、いらない記憶は汚れと一緒に消した。


 セシルくんの香水をつけてベッドへ横になるとセシルくんとの楽しい時間がぐるぐると頭を駆け巡った。


 ……でもちょっと冷静になって考えてみる。 今日使ったお金は4万3千ディル、それだけ楽しかったから後悔は無い。

 けれど……セシルくんはお仕事だよね? 私と同じ……。


 ムクリと起き上がり、机へ向かう。

 計算してみよう、セシルくんのナイトとしての価値を。




次回ラスト

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― 新着の感想 ―
[良い点] わ、我に返ってしまうのか!? セシルくんのナイトとしての価値を計算って! でもNo,5になれた理由ですもんね。 ひゃー、どきどきします!
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