Side story:ララとセシル3
「セ、セシルくん、私の格好で入れる?」
「何言ってるの? ララはお嬢様にしか見えないよ?」
サラッとそういう事言わないで! 顔が熱い!
「というか僕もこんな格好だし。 とにかく大丈夫だから」
するりと手を繋がれ店内へ入った。
ちょ、私の手汗がすごい事に! 恥ずかしい! そしてセシルくんは顔に似合わず手が大きい。 やっぱり男の子なんだな。
店内へ入ると4人用のソファ席を案内された。 って……。
「なんで隣に座るの⁉ 普通向かいじゃない?」
「え? ララの隣に座っていいのは僕だけだけど?」
い、意味が分からないけどマーキングされたことだけは分かる!
その後は美味しいステーキを食べて楽しくおしゃべりした。
セシルくんが話す他のナイト達の話は面白い。 セシルくんは頭がいいからナイトからよく相談されるらしい。
「そういえばなんでセシルくんはお店の中だと敬語なの?」
「あーそれはね、職業病かな……」
「職業病?」
「うん、実はこのお店で働いてた」
「えっ⁉ でも店員さんは何も反応しなかったよ?」
「うん、もう僕はただのお客さんだからね。 しかも飛び切り可愛い子と一緒ならなおさら。 ここの店員はお客様のプライベートに踏み入るようなことはしないよ」
ちょいちょい褒め言葉を挟んでくるのやめて!
「……高いお店だとそうなんだね」
「作法や言葉遣いに関しては厳しかったね。 だから仕事中は今までのクセが出ちゃうのと、恋物語の騎士も丁寧な言葉遣いだからとりあえず敬語なら失礼は無いかなって思って」
「そうなんだぁー。 あ、お化粧直ししてきていい?」
ちょっとトイレ! 楽しくてトイレ行きたくなかったけどそろそろ限界!
トイレから戻ってきて少しおしゃべりしたらそろそろ出ようかってなった。 ……一体いくらするんだろ? セシルくんと手を繋いで出口へ向かう。
「ご馳走様でした、また来ます」
「お待ちしております」
店員さんがセシルくんに向かって一瞬ニヤッとした! くぅ! 反応してるじゃん!
そしてそのまま出口へ。
「あれ、お会計は?」
「ないよ? あ、もうすぐ僕の出勤時間だからララの家まで送るよ」
……トイレに行ってる間に払ってくれたんだ。 本物のイケメン魔法だ! ヴァンとは違う!
「あ、ありがとう……」
ああ、もう私のお店に着いてしまう。 あっという間だったな。
お店の手前でなぜかセシルくんはわき道にそれた。
「ねぇララ」
その声で隣を見るとセシルくんが真面目な顔になっている。 私は壁を背に立たされ、セシル君が真正面からジリジリと顔を近づけてくる。
何々⁉ ステーキ代ならちゃんと払います!
「昨日店で僕が向かいに座ってたのと、今日横に座ってたの、どっちが良かった?」
「へぇっ⁉」
上からニヤリと笑ったセシルくんが色っぽい! 男の子なのにっ!
そんな事より顔っ! 近い! 香水のいい匂いがするっ!
「ナイトの中で誰が一番良かった?」
セシルくんだよ! でも今それどころじゃない!
「僕でしょ?」
はいそうです! と思った瞬間にキス⁉
……っと思ったら首筋に顔をうずめられた。
「なんか言って?」
首筋に吐息が! 待って! 待って! 心臓の音が聞こえちゃう! 恥ずかしいから離れて!
「は、離れてぇー」
「やだ」
これが頭が真っ白なる状態かぁ……と意識が遠のく。 ……ってどうしたらいいの!
しばらく抱き合ったまま、最後にセシルくんが言った。
「ララの隣は僕の専用席だから」
やっと解放された! また手を繋いでうちのお店の前まで歩く。
「じゃあまたね」
「う、うん、またね。 今日すごく楽しかったよありがとう」
セシルくんは笑いながら手を振ってくれた。 ……なぜ動かないの?
こ、これは私が中に入るまでずっといるパターン?
ああ! 誰かにデートの仕方を教えてもらっとけばよかった! そんなこと教科書に書いてなかったよ!
私も手を振りながらそそくさとお店に入った。
ドアを閉め、ふぅと一息つく。 ……これが恋物語にあった「まだ心臓がうるさい」って場面だ! なるほど!
……ハッ! カウンターにいたママがニヤニヤと私を見ている! 何も言わないでっ! でも分かってるんだろうな、恥ずかしいよー!
急いで部屋に戻りベッドへダイブするとセシルくんの香水の香りがフワッと舞った。
……っあああああああ! セシルくんの全てがズルいよぉ‼ これがギャップ萌えってやつ⁉
しばらくベッドでジタバタして、セシルくんの言葉を思い出してはまたジタバタするという事を一通り繰り返してハッ! とひらめいた。
私の初デートは今日だ! 誰が何と言おうと私がそう決めた!
『ララさん、僕は今出勤しました。 今日は楽しかったですね』
わっ! セシルくんから念話だ! 思わず姿勢を正し髪を手ぐしで整える。 お店にいる時は念話でも敬語になるんだな。
『うん! ほんと楽しかったよ!』
……あっ、もしかしてお店に来てって言われるのかな……?
『よかったです。 お店の準備があるのでまた念話しますね、では』
あれ? 特に何も言われずアッサリ念話が終わった。 まあいいや、今はセシルくんの匂いが消えないうちに堪能したい。
プライベートのセシルくんを見れたのは私だけ……えへへへへ。 ニヤニヤしちゃう!
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しばらくセシルくんの余韻に浸っていたり、不思議と湧き上がってくる妄想にふけっていたりしてたらカリンちゃんが私の部屋に来た。
「ねぇ……ルフランに念話無視されてるんだけど、今日一緒にディメンション行ってくれないかな?」
「え? まだルフラン怒ってるの?」
「うん……」
「行くの私だけ?」
「キキも行くよ。 ミミリンとマリンは今日は行かないって」
ミミリンとマリンは昨日の2人のケンカでお腹一杯なんだろうな。 私もそうだけど……でもさっき会ったばっかりなのにもうセシルくんに会いたい。
き、気持ち悪いって思われないかな? でもお店に行くなら喜んでくれるよね? 多分。
「そっか、じゃあ3人で行こう」
「……! ありがとっ!」
カリンちゃんの笑顔は綺麗だ。 羨ましいなぁ。
「じゃっ行こっ!」
「えっ⁉ 今から⁉」
「だってもうディメンションの営業時間だよ? 早く行かないとうちのお店の開店に間に合わない!」
いつの間にそんな時間が経ってたの⁉ ってかこのまま同じ服で行くの⁉ 恥ずかしいよー!
さりげなくディスられたヴァンw




