Side story:ララとセシル2
親へのグチのついでに仕事のグチもセシルくんに話し始めたら、急にキキが叫んだ。
「あ、マリンが昨日食べたのこの人でしょ!」
キキがアッシュと呼ばれていたグレーの髪のナイトを指差す。 ああそういえば昨日トイレに行った時にマリンの部屋から声が聞こえたな。
マリンとアッシュは否定してる、バレたら何かマズいのかな?
「キキ、どういう事……?」
あ、ヤバい、カリンちゃんが怒ってる。
「マリンの部屋から声がしたからさ! この人が前に言ってたお気に入りの童貞くんでしょ⁉」
「やだなー、僕、残念ながらマリンちゃんとは何もないよー!」
多分バレるとカリンちゃんが暴れる予感がする!
「キキ、人違いじゃない?」
キキ、頼むから私の言葉で空気読んで!
「帰る時見たし! グレーの髪は珍しいからバッチリわかったよ!」
ああもうー。
「はぁぁぁあああああ⁉ ルフランどういう事っ⁉ なんでマリンは良くて私はダメなワケッ⁉」
カリンちゃんがグラスをぶち投げた! ママに怒られてからうちの店ではやらなくなったから忘れてた!
「うちの店はそういうの禁止だよ、カリン落ち着いて?」
ルフランいわくここはそういうお店じゃないらしい。
「禁止も何も実際ヤッてるじゃん! やっぱり私のコト客としてしか見てないんでしょっ⁉」
ルフランがカリンちゃんをなだめながらアッシュを問い詰めるとアッシュがゲロった。
「お願い! みんな内緒にして!」
「う、うん! 内緒にするから安心して! カリンも落ち着こ?」
ミミリンがそう言っている間にキキへ視線を送ると、ようやくやらかした事を理解したみたい。
「納得いかない! ルフラン! 私ともして!」
あちゃー! カリンちゃんがルフランとケンカしだした! まぁカリンちゃんとヤらない男なんていないもんね、カリンちゃんのプライドが許さないんだろう。
「あーーー! そうかよ! カリンに俺の気持ちは伝わらないんだな! 一生お前の体に群がる男だけを相手にしてろ!」
ルフランはどこかへ行ってしまった。 初めて来たのに刺激が強すぎるんだけど……。
「あのルフランが怒った……カリンちゃん、これマジだって……」
キキとお話してたネフィスっていうナイトが深刻な顔をしている。 ま、巻き込まれたくない。 やっぱり来るんじゃなかった!
「ちょっと……なんでルフランが怒るのよ? 怒ってるのは私なんだけど⁉」
「気持ちがすれ違ってますね」
セシルくんがカリンちゃんに話し始めたらカリンちゃんが考え込みだして大人しくなった……すごい! 私達ならカリンちゃんのグチを延々と聞くしか対処法が無いのに!
「よし! 飲みなおそうぜ! ルフランも頭が冷えたら戻って来るだろ! あ、ミミリンちゃん俺の新しい魔法見る?」
ヴァンっていうナイトが「イケメン魔法! 水も滴るいい男!」と言いながらグラスの水を被った!
ええー⁉ 恋物語の騎士はこんな事しないよっ! でもめっちゃ面白い! 思わず爆笑しちゃった。
「セシルくん、ヴァンって面白いね! 久しぶりにこんなに笑ったよ」
「よかったです。 ……ララさんの笑った顔、すごく好きです。 僕は面白い事を言えないからヴァンが羨ましいです」
いきなり「好き」って単語が出てきて思わずときめいてしまった! お客さんから何百回も言われてるのに何でだろ?
「わ、私はセシルくんとお話してて楽しいよ? さっきの続きだけど、お金持ちのお客さんの話についていけるように一生懸命勉強してるんだけどね、なぜか話を切り上げられちゃうんだ。 努力が足りないのかな?」
「……お客様はどんな話をするんですか?」
「えっと、仕事の話だね。 どういう風に儲けたとかその秘訣とか」
「……なるほど。 それは実は武勇伝を自慢したいだけのお客様では?」
「武勇伝?」
「そうです、男はカッコつけたい生き物ですから。 単純にララさんに『すごい!』って言われたいだけなんじゃないでしょうか。 遊んでいる時に真剣に仕事の話をする男はいません」
「あ……確かに……真面目な話をしてから『じゃ、ヤろっか』ってならないよね……」
「ふふっ、そうですね。 ララさんは真面目で頭が良すぎる。 一度バカなフリをしてみたらどうですか? お客様に知識をひけらかせてから褒めるだけできっと満足しますよ」
「目からウロコが落ちたよ……。 やっぱり男の考えてる事は男に聞くのが一番だね!」
「役に立ったならよかったです。 次は普段のララさんの事を聞きたいな。 あ、明日デートしませんか?」
「明日デートしませんか」だけ耳元で囁かれた! ひゃっ! 吐息が!
てかデ、デート⁉ 男の子と出かけるなんていつぶり⁉
「……? ダメですか?」
繊細な造りの顔をしたセシルくんが真っすぐに私を見つめてきた。 恥ずかしいからやめて!
「あ、ご、ごめん。 ビックリしただけ」
「なんだよかった。 じゃあ明日お昼前に待ち合わせでいいですか?」
「え? あ、うん」
また耳元でっ! 思わず返事しちゃった!
……あ、あれっ? いつの間にか決定事項になってる! ……まあいっか。
「セシル」
ナイトじゃない従業員がセシルくんを呼んだ。 セシルくんは他の席へ行かなければいけないらしい。
「時間切れになっちゃいました。 他のナイトとも楽しんでくださいね、ご馳走様です」
えー! もっとお話ししたかったのに!
そのあとお話ししたナイトはみんなチャラチャラしていてなんとなくつまらなかった。
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そして翌日。 今日は早起きして急いで準備をした。
……お昼前って何時よっ⁉ 昔買った服の中で2番目にお気に入りのワンピースを着て、いつもより丁寧にお化粧をしたけどまだ朝だ。
そわそわと部屋を歩き回ったり鏡を何回も見たりしてたけど、そんな自分に恥ずかしくなって髪型が崩れないようベッドへそっと横になった。
男の子とデートなんてあの時以来だ。 ……いや、あれはデートって言わないか。
家を飛び出してから、住み込みできる今のお店で働くことになってある覚悟をしなければいけない事に改めて気づいた。
……処女を捨てる相手だけは自分で選びたい。
お客さんを取らされる前に、と急いで店にある服を借り、街をウロウロしていたら若い男の子にナンパされた。
正直好みじゃなかったし、ナンパしてくるやつに処女を捧げるなんて嫌だったけど白馬の王子様なんていないのが現実だ。
だから妥協した。 気持ち悪いおじさんに当たる可能性があるくらいなら自分で選択したほうがマシ、と自分に言い聞かせて。
終わった後は何の感想も無かった。 歩きづらいなってくらい。 男の子は私が初めてだった事に感動してたけど知らない、さようなら。
お店に戻ったら、不自然な歩き方をしている私を見てママは一言だけこう言った。
「気持ちはわかるよ。 とりあえず最初の客には初めてって言ってみな」
一瞬、ママにすべてを見透かされている心地悪さがあったけど、すぐにママのぶっきらぼうな優しさに気付いてなんだか嬉しかった。
そしてその日初めて客を取った。 ママが優しいお客さんを紹介してくれたから思っていたより怖くなかった。 お客さんは喜んでくれた。
そんな事を思い返していたら、セシルくんから念話が来てご飯屋さんで待ち合わせをすることに。
待ち合わせ場所へ行くと普段着のセシル君がいた。 細身のズボンにシャツ、飾り気のない格好だけどイケメンが着るとなぜかオシャレに見える……。
「ララ! 楽しみにしてたよ!」
「あ、う、うん! 私も!」
いきなり呼び捨てにされてビックリしたぁ!
「じゃあご飯食べに行こ。 オススメのお店があるんだ」
口調もタメ口になってる! こっちが素なのかな?
セシルくんに連れられて来たお店は高級そうなお店だった。 ええ! 私なんかが入っていいの⁉
続きます。
セシルがなぜナンバー5になれたのかお楽しみください。




