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人界進出さくせん (地図有り)

 会議室にはいつものメンバーと、人界で初の系列店を取りまとめる財務部の先輩がいた。

 例のお話し合いで決まったうちの一人だ。


「財務部のコーディです! よろしくお願いします! 人界初出店の座を何とか勝ち取りました……ッ!」


 コーディさん……角は輝きを失い、赤い髪がボサボサだ。さっきまで引き継ぎしてたんだろうな……。


「アラッ! いい男ネッ☆」


 コーディさんが大きな体を震わせる……! 財務部で勝ち上がった肉体派だからラウンツさんのお眼鏡にかなったみたい。オメデトウ。


 みんなの自己紹介が終わったら魔王様が地図を広げて話し始めた。

 魔界は地図の左下にある領土全域、地図の左上から右下にかけてある大きな領土が人界だ。魔界と人界は海で隔てられている。


挿絵(By みてみん)


「よし、人界進出の作戦を話すぞ。まずはここ、人界最南端の国オルガに行こう。ここに攻め込んだ事は無いから出店しやすいと思う……多分。んで、人族には商業ギルドっていう商売を取りまとめてる機関があるからそこで普通に許可を求めてみる。アッサリ許可を貰えればラッキーだ。これが作戦1だな」


 ほうほう、って事は……。


「断られたらその商業ギルドってのを焼き払えばいいんですね!」

「違う違う! はぁ、何でニーナはすぐ魔法をぶっ放したがるんだ……そんな事したら余計に出店出来ないだろ、客も来ない。ちょっとみんなに認識を改めてもらうか」


 あぅっ! 確かに焼き払ったら許可が貰えないし怖がられたらお客様も来ない……いけないいけない。


「いーか、力を見せつけて人族を支配したいっていう魔族の本能はわかる。だがな、人族なんて簡単に消し炭にできるぞ。弱い者いじめして楽しいのか? もしかして人族の臓物(ぞうもつ)を引きずり出して喰いたいとかって思ってる?」

「ままっ! まさか! そんな悪趣味ありませんよぅっ!」


 魔王様、なんて残酷な発想を!


「確かに弱い奴相手に戦ってもつまんないな」

「弱い人族より、強い魔族とか魔物と戦った方が楽しいかも!」


 お兄ちゃんとアーニャは楽しいかつまらないかが基準らしい。


「だろ? 人族とはとりあえず友好関係になって、えーと、ホストクラブを通して手中に収めればいいよ……うん」

「人族と仲良くすればいいのネッ⁉ アタシに任せてっ☆」


 そこってラウンツさんに任せていいのかな⁉


「にしてもあれか、強いやつと戦ってガス抜きもした方がいいかもな……」

「……魔物の素材欲しい……」


 メイリアさんがポツリと(つぶや)いた。


「わかったわかった、とりあえず作戦1を試すぞ! ダメならその時にまた指示する」


 その後、人界では野宿する事になるかもしれないから野営の準備をしておくように、人族に警戒されないよう店で働く時の服で来るようにと言われて解散となった。早速明日人界へ出発するらしい。


 急すぎるよぅ! てか、ほとんど作戦らしい作戦聞いてないよぉぉおおお⁉




──────────────


 今日はついに人界進出の日だ。朝から城の会議室に集まった。スーツを着たコーディさんも一緒だ。


「みんな準備はいいな? じゃあ行くぞ」


 と言われてすぐに森に転移させられた。

 ぎゃぴ! まだみんな返事してなかったよ⁉


「もう人界? 何か空気が違うよ!」

「人界だアーニャ。そこに石版があるだろ? ルルが昔俺達と人界へ来た時に設置した転移陣だ」


 足元を見ると、魔術式が描かれた平べったい石版がいくつも敷いてあった。ルルさんも人界に攻め込んだんだな。


 あれ? ルルさんって一体なんさい……と思ってルルさんを見ると、私の視線に気付いたルルさんの笑みがこれ以上ないくらい深まる。

 ……これを考えるのは緩やかな自殺行為だ、ワタシケイサンデキナイ。


「転移陣は人界各国の主要都市近くに設置してあるわ。ここはオルガ国の城下街オルガ都市の近くよ」


 ルルさん、人界中飛び回ったんだ……。すごいなぁ。


「とりあえず警戒されないように丸腰で徒歩で行くぞ。俺は顔が割れてるかもしれないからここで待ってるわ」

「ひぃ! 魔王様来て下さらないんですか⁉」

「ははは! 残念だったなニーナ! ニーナの範囲結界でとりあえず死ぬ事はないから行ってこい! リーダーのラウンツがまず人族と話をしてみろ。攻撃するなよ?」

「……ひゃい」

「アタシに任せてっ☆」


 魔族は攻撃魔法が得意だけど、結界みたいな防御魔法はあまり得意じゃない。出来る人でも自分一人分の弱い結界が精一杯だ。

 その点、私はなぜか生まれつき結界魔法も得意だった。強度にこだわらなければ魔界全域に張れるかもしれない。


 そんなこんなで、私が範囲結界を張りながら魔王様を置いて街へ向かうことになった。

 ぽてぽてと歩いて一時間ほど、高い壁の近くまで来たところでお兄ちゃんがみんなの疑問を口にする。


「街が壁で囲われてるのか? なんでだ?」

「人族は国同士戦う事があるから、街や城を守るためにあるのよ。あと魔物対策かしら。魔界ではそんなもの必要無いからあなた達は初めて見たのね」


 人界に詳しいルルさんが説明してくれた。


「確かに魔族なら魔物に攻められる前に撃退しちゃいますもんね」


 そんな事を話しながら歩いていたら壁の上に人影がたくさん現れ出して何だか騒がしい。

 大きな筒状の金属の塊が私達の方を向いている気がする……。


「ル、ルルさん……あれってもしかして魔道具ですか? こっちを攻撃しようとしてません?」

「……魔道具の砲台ね。 多分金属の弾でも飛んでくるわ」


 ひぃいいい!


「お、おいっ! 魔族か⁉ 何しに来た!」


 人族が壁の上から拡声魔法で話しかけてきた。みんな立派な黒い角が生えているというのに失礼な、どこからどう見ても魔族だよぅ!


「アタシ達、この街でお店を出したいだけなのよぉっ! 魔族だけど攻撃したりしないわぁ!」


 ラウンツさんが身体をくねらせ叫んだ。


「魔族だ!」

「しかもオカマの魔族だ!」

「どういうことだ⁉」

「なぜオカマなんだ? 訳が分からない!」

「とりあえず国王様に報告だ!」


 ……拡声魔法じゃないのに丸聞こえだよ……そしてラウンツさんの存在で人族が余計に混乱してる。


 しばらくしたらフルプレートアーマーの人が来て、あの沢山の金属の筒から何かが発射された!


「ぎゃぴぃいいい!」


 何かがたくさん結界に着弾してドゴゴゴォーーーーーーーン‼ と大きな音を立て、辺りに土ぼこりが舞い上がった。


「やったか⁉」

「バッ、バカ! それを言うなよ!」

「あーほらー魔族ピンピンしてるぞ」


 ひぃ……怖かったぁ。結界はビクリともしないけど、不意打ちとか大きな音は苦手だよぅ!


「アタシ達に攻撃は効かないわぁっ! 反撃もしないから誰かお話しできる人を呼んでちょうだぁい!」

「くっ……しばし待て!」


 フルプレートアーマーの人がそう言ってどこかへ消えた。この街の偉い軍人さんかな?


 ルルさんとメイリアさんが地面にお絵描きしながら魔術式談義をしていたり、アーニャとラウンツさんがこの街にイケメンがいるか楽しみだねと言っていたり、コーディさんが私とお兄ちゃんにホストクラブについて質問したりしているうちに、やっとさっきの軍人さんが壁の上に現れた。


「お前達が本当に害をなさないか判断がつかん! だがこの国を落とすつもりならすでにやっているだろうから猶予(ゆうよ)をやる! 街の外で、お前達が無害だという事をなんとか示せ!」


 えぇ……そんなのどうしたら信じてくれるのぉ?


「ルルさんどうしたらいいのかしらぁ?」


 ラウンツさんが頬に人差し指を当てながらルルさんへ振り返った。


「魔王様の考えた作戦2でいくわ。とりあえずそれで話を受けて」

「オッケーよぉっ!」


 再びラウンツさんが人族に向かって身体をくねらせ叫ぶ。


「アナタ達の言う通りにするわぁっ! 街の外で何かするから見に来てちょうだぁい☆」


 バチン☆ とウィンクしたラウンツさんを見て、壁の上の人達は震え上がっていた……。

 なんて強力なユニークスキルなんだろう。これは人族への攻撃にならないのかな? 審議が必要だ。




「じゃぁ魔王様にパーティ念話するわね」


 パーティ念話とは、最初に念話する人が指定した人全員で念話が出来る。ただし、魔術式を頭の中だけで理解できるくらい頭が良くないと出来ないので、メンバーの中ではルルさんとメイリアさんしか出来ない。

 今回はルルさんがパーティ念話を展開してくれた。


『魔王様今よろしいかしら?』

『お、ちょっと待て。ああ! モフモフに逃げられたっ!』


 魔王様……何してるの。


『すまんすまん、で、どうだった?』

『街に入る前に攻撃されたわぁ。でもアタシ達が街の外で、人族に害をなさないって証明出来ればいいって言ってたわ☆』


 ラウンツさんが簡単に報告する。


『そう来たかー。わかった、こっちに戻って来い』




 今度はみんな身体強化で走って魔王様の元へ戻った。


「お疲れ。はぁ、作戦2でいくぞ」


 何だか魔王様は嫌々だ、どうしたんだろう? と思ったら魔王様からすごい魔力を感じる‼


 森の中にズモモモモ……と洞穴(ほらあな)が出来上がった。土魔法?

 みんなポカンとしてると魔王様がこう仰った。


「ダンジョンを作った。ダンジョン経営するぞ」


 は? だんじょんをつくった???




~人物紹介~


ニーナ(15)

腰まである銀髪にオレンジの瞳

財務部新任→人界征服メンバー

赤ん坊の頃に魔王様に拾われ、レイスター家族に引き取られた

人見知りコミュ障


魔王様、アーデルハイド(?)

黒髪、魔眼を持っている

元伝説のホスト、異世界転生者

「ホストクラブ作ろうぜ!」


レイスター(16)

茶髪、ニーナの義理の兄

魔王軍第一部隊→人界征服メンバー


アーニャ(16)

水色のサイドポニーテール、黒い瞳

魔王軍第二部隊→人界征服メンバー

ニーナとレイスターの幼馴染

厨二病こじらせ、イケメン好き


ラウンツ(23)

金髪、ガチムチ、おネエ

魔王軍近衛隊→人界征服メンバー


ルル(?)

赤に近いピンクの巻き髪、おっぱい

マーメイドドレスを好んで着ている

魔道具や魔術式は魔界一→人界征服メンバー


メイリア(15)

エメラルドグリーンの前下がりボブ

錬金術師、土木部新任→人界征服メンバー

マッドサイエンティスト、ぼそぼそ喋る


コーディ(22)

赤髪、大きな身体

財務部→人界征服メンバー

ディメンション2号店、店長予定

財務部内の拳によるお話し合いで勝ち上がった肉体派


2021/11/6改稿。

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[良い点] いよいよ人界進出ですね! しかしそう簡単には上手くいかないようですね。 それで「ダンジョン経営」! 凄い気になる単語です!!
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