仕方ないんだ!
仕立て屋パウリーへ着いた。
「よう! 店長いるか?」
「まっ! 魔王様! 新しい発注ですな⁉ お待ちしておりました!」
「いや違う、ちょっと宣伝の話だ」
……パウリーさんに時間停止魔法がかかった。 女性用装備の発注じゃないからショックを受けている。
ともあれ、奥の部屋へ通された。
「あのさ、この店の宣伝ってどうやってる?」
「宣伝……ですか? お客様からのご紹介が多いですね」
「だよな。 この街で看板って言ったらただ店の名前とモチーフが書いてあるだけだ」
「? はい、それが看板ですから」
「あのさ、デッカイ看板に、この店の服を来た人間の姿絵を描いたら一発でこの店のウリが伝わるんじゃないか?」
「……視覚で直にアピールできるという事ですな⁉ 素晴らしい発想です!」
「そうだ! そのモデルにうちのイケメンナイトを使わせてやる!」
「男性ですか……」
パウリーさんはガックリと肩を落とした。 露骨すぎるよぅ!
「人族の女は知り合いがいねんだよ。 獣人はまだ人族を怖がってるから大々的に出したくない」
「そうですか……しかし、その看板に姿絵というのは画期的ですな! ですが大きな姿絵を描くなんていったいどれほどの費用が……」
「フッフッフ! なんと! 俺様の力で全て用意してやる! 費用は100万ディルでどうだ?」
高い! ユニコーンだよ! ……でもリサさんの絵なら100万でも安いかも。 ルルさんの結界の魔道具も付くし。
「100万ですか……」
「だが10着描けるぞ? 1着10万だと思えば安いだろ?」
えっ⁉ 10人⁉ それはリサさんが大変だよう! 100万が安く思える!
「確かに……」
「実はな、近々うちの店に姿絵を描いたデッカイ看板を設置する。 それを見て決めてもいいぞ?」
「おお、それなら……!」
話はとりあえずそれでいったん終わった。
「ちなみに魔王様……もう私達は男性用のベビードールを作ってばかりで! 他の物に情熱を注ぎたいのです! 従業員が瀕死なんです! 何かデザイン案をください!」
あ……ラウンツさん、本当に沢山発注してたんだ……。
「あん? 男性用のベビードール?」
パウリーさんが「ラウンツさんベビードール発注事件」の詳細を教えてくれた。 デザインの詳細まで聞きたくなかった。
「ははは! なるほどな! じゃあ獣人用に作れよ!」
「それならいくつかデザインを考えたのですが……どうも既存製品と変わらず……」
パウリーさんがデザインを魔王様へ差し出した。
「どれどれ……なんだこの穴はっ!」
ええ……魔王様なんで怒ってるのぉ⁉ ラウンツさん用なら怒ってもいいと思うけど。
「え? 尻尾用の穴ですが」
「バッカヤロウ‼ ここは穴じゃなくてスリットで決まりだろ!」
え?
「ス、スリット? ですがそれではお尻が丸見えに……」
「だからいいんだろ!」
は?
「いいか? 尻尾用の穴じゃあ寝返りを打っている間に生地がよれて尻尾が穴に引っ張られる、つまり着心地が悪い!」
ほうほうと私とパウリーさんが頷く。 魔王様、ちゃんと考えてるんだ。
「だからスリットにする! ケツが丸見えになってしまっても、それは尻尾の動きやすさのためだから仕方ない、そう、仕方ないんだ!」
出たっ! 魔王様の詭弁っ! 絶対お色気ベビードールを狙ってる! 期待を裏切らない裏切り!
「な……なるほど! それは仕方ないですな! はっはっは! さすが魔王様です! この案、頂いても?」
「おう! 俺は使い道無いからな、好きにしろ!」
「ありがとうございます!」
「あとそれ、前もパックリスリットにしろ」
「えっ⁉ そ、それでは前も丸見えに……」
「多分動きやすいだろ! 仕方ない! あっはっは!」
「……ははは! そうですな! 仕方ない!」
あ、完全に理由が崩壊してる。
そして魔王様は紙にベビードールを描き始めた……っちょ! 隠すべきところになぜ穴がっ⁉ おっぱいまでリアルに描かなくていいよぅ!
「……どうだ?」
魔王様がパウリーさんにニヤリと悪い笑みを……そしてパウリーさんは震えている。
「こ、こんな凶悪なもの……さすが魔王様です! 魔王様にしかない発想です! しかし実用性が……」
パウリーさん、ガレリーさんと同じような事言ってる……。
「実用性? フッフッフ……これで街の人口が増える! 街の発展のためだ、仕方ない!」
「……なんとっ! 確かに人口が増えますな! ははは! これは仕方ない!」
ええ……刺激が強すぎるよぅ! ラウンツさんが発注したらどう責任を取ってくれるのぉ⁉
もう帰りたいっ! 「仕方ない」って言葉の意味って何だったっけ⁉
その後も魔王様が次々と凶悪なデザインをお絵描きし、デザイナーさんやお店の従業員さんがみんなやって来て涙を流しながら魔王様を神と崇めている……。 こんな人界征服やだ。
「よし、そろそろ帰る。 ベビードールは好きにしていいが、看板の件は俺以外でやるなよ?」
「ありがとうございますっ! 看板の件、承知いたしました! 前向きに検討させていただきますっ!」
「じゃーなー!」
やっとエロ服教団のアジトを脱出できた。
「魔王様ぁ……ベビードールはもう諦めましたのでどうでもいいですけど、10人の姿絵で100万なんて安いですよぉ」
「いいんだ! ファッションモデルはナイトの宣伝になるからな! うちは原価をもらった上に宣伝までできる! パウリーは安く看板を作れる! お互いハッピーだ!」
「ファッションモデル?」
「おう! 洋服を着て宣伝する人の事だ。 イケメンが着れば何でもカッコイイ服に見えるから宣伝効果は抜群だぞー! そしてうちのナイトが街中の人に見られるわけだ。 みんな人気者になっちゃうなー!」
「なるほど……ディメンションの看板だけでなく街中にもナイトさんの看板が……すごいです魔王様!」
「だろ⁉ フフン! これでミアだけじゃなくナイトのアイドル化計画が進むぞー!」
「珍しくまともな計画を考えていたんですね!」
魔王様に上からジロリと見下された。 ひぇ! 口が滑ったよぅ!
そして今日のお仕事は終わったので、ディメンションの自室へ帰った。
……あれ? お休みなのにお仕事させられたっ! やっぱりブラックだよぅ! むきぃー! 魔王様に「漆黒の傀儡使い」って厨二的二つ名を付けてやるぅ!
続きを書いていたらパラレルワールドになってしまったので別で投稿。
会話だけですがほんのりBL注意。
読まなくても本編に影響ありません。
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