魔王様プロデュース
魔王様が、リサさんが描いたミアさんの素描をブブゼさんに渡した。
「おお、絵か。 ウチがやってるのは活版印刷って技術だよ。 絵なら金属板に線を浮き上がらせるように彫ればいいが……難しいぞ? ちなみに左右反転するから注意だ」
「かっぱん印刷? 魔界には印刷技術が無いんだよ、どんなだ? ちなみに彫りはどうとでもなるから大丈夫だ」
魔王様がそう言うと、ブブゼさんは印刷工房を見学させてくれた。
ペタペタという音はインクの音だったみたい。
一面インクで真っ黒な作業台で、ムキムキのお兄さんが両手に持った丸い何かを作業台にペタペタしインクを付けている。
丸い何かは顔の大きさ位あるよぉ! インクをこんなに使用するなんてダイナミック……。
そして一文字ずつ小さな文字が彫り上げられている金属を並べてさっき見た丸いものでインクを塗り、その上に木枠で固定された紙を置く、最後にハンドルが付いた大きな圧縮機のようなものでプレスして紙に金属文字のインクを付けるらしい。
圧縮機から取り出された紙にはきれいな文字がビッシリと……すごい。
「なるほどな。 白黒印刷しか出来ないか?」
「色インクでも出来ないことはないが……印刷ズレが起こるし印刷代がべらぼうに高くなる。 凸版、絵を彫った金属板の事だな、これも色ごとに複数必要だ。 どうしても色付けしたいものだけ手作業でやるのがいいんじゃないか?」
「そうか……よし! こんくらいの大きさの紙に白黒印刷したいから金属板を20枚売ってくれるか? 彫るのはこっちでやる」
魔王様がミアさんの描かれた紙を指差して言った。
「お、おお……わかった」
そして魔王様は印刷代などの細かい話をまとめ、購入した金属板を亜空間へしまい印刷屋さんを出た。
ちなみにナイトさんの名前、店名、住所などの文字だけは印刷屋さんにある金属の文字で刷ってもらうようお願いした。
「ま、魔王様ぁ、もしかしてナイトさんの姿絵をバラまくんですか? もったいないですよぅ!」
「アホか! そんな事するわけないだろ、写真名刺を道端に捨てられたホストの気持ちが分かるか⁉ 1枚200円もするのにゴミ扱いされたあげく通行人のさらし者になるんだぞ⁉ あんな経験をナイト達に俺はさせないっ!」
しゃしんめーしって何っ⁉ そして饒舌に語った魔王様は何かトラウマがあるみたいだ……。
「姿絵は店で客に売る! ナイトは絵になるからな、客は絶対周りに自慢するぞ。 勝手に広めてくれるって訳だ!」
「お金取るんですね。 魔王様はやっぱり魔王様でした、安心しました」
「どういう意味だ?」
魔王様にジト……と睨まれたけど気にしない!
「そういえば金属の写真名刺もあったな……」
? 何だろ……また魔王様がよからぬ事を考えてないといいな。
魔王様はディメンションまで戻るのが面倒だったのか、人のいない裏通りでドブグロへ転移した。
「おい! ドルム! いるか?」
ドルムさんがカウンターの奥からバッ! と顔を出した。
「なんじゃハイド!」
「仕事だ! ドワーフにしかできないぞ!」
「何っ⁉ 任せるんじゃ!」
うーん魔王様、ドルムさんの扱いも上手い。 ドルムさんは魔王様の「ドワーフにしかできない」という言葉にワクワクしている。
「あのな、リサが今こういう姿絵を描いてるから、この金属板に線が浮き上がるように彫ってほしいんだ。 それを原稿として印刷する。 金属の扱いならドワーフに頼むのが一番だろ?」
「む……なるほどの。 これはトッドにやらせよう、あいつは金細工も得意じゃからの」
あ、そういえばVIPのソファの金細工もトッドさんがやったんだった。 トッドさん意外と繊細な作業が得意なんだな。
「じゃリサに話しとくから、リサが書き終わったら俺が姿絵を描いた金属板を持ってくる。 リサが今描いてる看板が終わってからだけどな。
あ、あとさ、小さくて薄い金属版に姿絵を彫る事って出来るか? こっちの線は溝でいい。 100枚位作りたいんだけど」
魔王様が両手の親指と人差し指で小さめの長方形を作りドルムさんに説明している。 さっき言ってた金属のしゃしんめーしってやつかな?
「100枚……出来るが、一枚一枚金属板に絵を描くのか?」
「あー……そうだった。 じゃあさ、仮に金属板に姿絵を彫ったとして、その溝にインクみたいな色素を半永久的に定着することって出来るか?」
「インクか……インク次第じゃの。 だが金粉を溝に埋め込むのはどうじゃ? それなら土魔法でできるんじゃないかのう」
金粉を使うの!? やっぱり贅沢だよぅ!
「お! マジか! 金なら豪華になるな、いいぞいいぞ! じゃあこの件は考えておくからまた今度! とりあえずリサから金属版をもらったらまた来るな!」
「うむ、わかった。 魔族用の宿舎ももうすぐ出来上がるぞい」
「お! サンキュー! じゃあまたな!」
次はリサさんの所へ。 リサさんが左右反転した絵を金属板に描いて、それをトッドさんが彫る事を魔王様が説明した。
「わかったコン! 看板が終わったらすぐに取り掛かるコン!」
「おう! あとさ、100枚くらい小さい金属板に姿絵を描いてほしいんだけど量産する方法無いか? こっちの線は溝で彫ればいいから簡単なんだけど、量が多いんだよなー」
「そんなの金属ペンにリサの土魔法を付与して削りながら100枚描けばいいコン! ナイトを描くのは楽しいコン!」
えええ! いくら小さいサイズとはいえそんなに描けるのっ⁉ でもリサさんが生き生きとしてる。
「マジか! リサすげーな! ……100枚全部オリジナルか、フッフッフ」
あっ! 魔王様が黒い笑みを浮かべてる! これは要注意だ!
「じゃあこの話は最後でいいからまた今度な!」
「はいコン!」
「よしニーナ! あの仕立て屋に行くぞ!」
「えっ⁉ もしかして……エリーさんの装備を仕立てた所ですか?」
「おう!」
また女性用装備の発注⁉ お色気作戦とディメンションの宣伝に何の関係がっ⁉
再びディメンションを経由して仕立て屋パウリーへ。
「よう! 店長いるか?」




