魔族は関わ”れ”ない
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キャロルさんが本を開いてメイリアさんへ差し出した。
「このページでしょ? はい」
「…………」
メイリアさんが貪るように本に食い入る。
「なあキャロル、何が書いてあんだ?」
「殺虫剤の製法ってゆーか、その研究資料だよ魔王様。 ちな、成虫になると飛び回って大変だから幼虫のうちに殺さないといけないんだよねーマジ厄介。
んでー、人や土壌に影響を及ぼす薬品は使えないからひいおじいちゃんが研究してたんだ、その途中で死んじゃったけど」
ブンブンと大量に飛び回る虫の大群を想像したらぞわわっ! とした。 それは嫌だ! エタフォ案件だ! でも魔法を使ったら作物もダメにしちゃうかも。 だから殺虫剤の研究をしてたのかな?
「マジか! さすがキャロルの家系だな!」
「エッヘン! ……で、今メイリアが考えていることは『アレイルの虫害を止める殺虫剤を製造するにはどんな素材が必要で、どれくらいの設備と期間と費用がかかるか』だよ。 魔王様、動くの?」
えっ⁉ メイリアさんすでにそこまで⁉ そしてキャロルさんがメイリアさんの事をわかり過ぎてる! 実は仲がいいんじゃ……?
「……魔族がアレイルを助ける理由が無い。 どこが金を出すかの問題もあるし、俺らが殺虫剤を撒くとしたらむしろ侵攻だと勘違いされて混乱を招くぞ? 仮に殺虫剤をアレイルに渡しても、アレイルが使用するとは思えん」
そうだよね……。 飢饉になりかけてる所に私達魔族が殺虫剤を撒いたら毒攻撃と思われてアレイルは余計に混乱する。
「魔王様、やっぱり見かしらぁ? 魔王様がちゃちゃっとアレイルに話を付けて虫ちゃん達を殺せば、アレイルもオルガに戦争しないかもしれないわよぉ?」
「ラウンツ……言いたいことは分かるが、そう簡単に話が出来るとは思えん。
それに俺ら魔族が肩入れするって事は、アレイルが人界中から目を付けられるんだぞ? オルガはドワーフと獣人の保護っていう俺らと関わる大義名分があるが、アレイルには無い」
「そうだったわぁ……ごめんなさい、やっぱり魔王様はよく考えていらっしゃるわネッ!」
人族のためにも系列店出店のためにも魔王様の言っている事は正しい……けど……大飢饉になったら何万人が死ぬ? 魔族が侵攻するより人が死ぬんじゃ……。
「アレイルの背後に他国がいる可能性もある……そう簡単じゃないんだ……」
魔王様の眉間に皺が……辛そうなお顔……。 魔王様、悩んでる?
魔王様は昔、人界への侵攻を一撃でやめた。 人族が怖がって可哀そうだったぞって、冗談めかしてだけど言ってた。
戦争が嫌いなのかな? 例えそれが人族同士でも。
重い空気が流れている所へシアさん達獣人さんがやって来てそれとなくお開きになった。
「あ! 看板の件でリサの所に行くがみんな来るか?」
さっきとは一転、魔王様が明るくそう言った。
みんな行きたがったので魔王様に付いて行きエルドラドへ。 着いた先はリサさんのお家ではなく倉庫だった。
「リサー! やってるかー?」
「あ、ハイド様、下絵は終わったコン!」
倉庫には横長の大きなキャンバスのようなものがあった。 私の身長の2倍くらいの長さがある……。 ドワーフさんが作ったのかな? いつの間にっ!
そしてキャンバスの右にはアレンさん、左にルフランさんが描かれていた。 まだ白黒だけど2日足らずでもうここまで描き上げたの⁉
「オッケー、引き続きよろしく! ルル、メイリア、防水加工はどうなった?」
「メイリアちゃんが油性塗料を大量に仕入れてくれたわ。 私の結界の魔道具でカバーすれば完璧よ。 魔力供給はコーディのお仕事になるわね」
「サンキュー! 楽しみだな!」
「店長として看板を守りますよ!」
そしてみんなリサさんの下絵を見て口々に感想を述べた。
絵というか本物みたいだ……すごい。 完成が楽しみ!
今まで看板っていったら散々だったけど、リサさんの看板なら期待できる!
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翌日、今日は今週最後のディメンション営業日、つまりお給料日だ!
出勤して来たナイトさん達の「おざまーす」が、今日は「おざまぁーーーーーッスゥ‼」ってイキイキとしている。 どうやらみんな出勤前にギルドでお給料を確認して来たらしい。
「スゲェよ! 冒険者時代なんて食ってくだけで精一杯だったのによぉ! あ、ルフラン300万だろ⁉ 何買うんだ?」
ヴァンさん約90万だもんね。 半年暮らせる額だ。
「300万ちょい入ってたよ……大金貨3枚だけど、まだ数字しか見てないからなんだか実感が沸かないな。 とりあえず親にやるか……」
ルフランさんっ! 親孝行だ……。
「なあなあ! アレンは現金でもらったんだろ? 大金貨見せてくれよ!」
「うん、いいよ」
「うおーーースゲー‼ 大金貨なんて初めて見た! 俺も大金貨稼ぐぜ! がんばろーっと!」
「毎月100万ディルも夢じゃないってホントだったんだな!」
ナイトさんはみんなアレンさんの大金貨を見てやる気が出たみたい。 ものすごく興奮してる。
そしてみんなワイワイとお給料の使い道について楽しそうにお話し始めた。 よかったね。
そして営業が終わりアーニャに話しかけられた。
「ねぇニーナ、今日は貴族が少なかったね。 気のせいかな?」
「あ、そういえばそうだね」
「……クラリゼッタの影響か……」
魔王様がポツリとつぶやいた。 ええ……ディメンションのお客様が減っちゃうよぅ!
「おいニーナ! 明日の休み、印刷屋へ行くから商業ギルドマスターに紹介してもらっておいてくれ!」
「は、はい!」
印刷屋? 何のためだろう?
魔王様が営業後のプチミーティングのためフロアヘ向かうとこう言った。
「今からリサを呼ぶからナンバー3以外は残ってくれ、姿絵を描く。 あ、バレットも残れ」
え? みんなの姿絵を描くの? 看板には載れないよぅ?
いつの間にかリサさんが来て、残ったナイトさん達の素描をものすごい勢いで描いている……。 私達はお先に2階へ上がった。
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翌朝、商業ギルドマスターのワコフさんに念話して印刷屋さんを紹介してもらった。 魔王様が来るまで恋物語の本を読んで暇をつぶす。
『よう! ニーナ準備出来てるか? 行くぞ!』
あ、魔王様だ。 午前中に来たって事は夜寝たのかな? もうクラリゼッタさんがディメンションに来ないからアレンさん家の監視はやめたのかな。
部屋を出るとダイニングに魔王様がいらっしゃった。
「魔王様おはようございます、印刷屋さんへご案内します」
ぽてぽてと印刷屋さんのある職人街へ向かう。
「魔王様、何で印刷屋さんへ?」
「貴族の客への影響が出てるみたいだからな……宣伝だ! 一般人だけでも客を増やすぞ!」
「? よくわからないけどわかりました」
印刷屋さんへ着いた。 奥からはぺタペタという音が聞こえ、ムキムキのお兄さんたちが大きなハンドルを引いている。
「ようー! 魔王だ! 仕事の依頼をしたい」
魔王様が呼びかけると、ひょいとこちらを覗いたムキムキのおじさんがやって来た。
「おお、ワコフさんの紹介の。 俺はブブゼだ、ここを任されている」
ブブゼさんに椅子をすすめられ座る。
「早速だが姿絵の印刷を頼みたい。 印刷方法はどんなだ? どんな原稿を用意すればいい?」
魔王様が、リサさんが描いたミアさんの素描をブブゼさんに渡した。
まさか姿絵を巷に配布するの⁉ なんて贅沢なっ!




