来てほしくないのに来てほしい人
「代表……」
「アレンどうした」
「クラリゼッタ様から念話がきました。 もうお店には来れないと……」
ええっ⁉ やっぱり領収書のせいで……。 クラリゼッタさんがいざ来なくなるってなるとなぜか寂しい……複雑だ。
「アレの影響だな……じゃあ取り巻きの貴族も期待できないな」
「そうですね……。 クラリゼッタ様は最後に『姫様と呼ばれていた頃を思い出して楽しかったわ、さようなら』と仰ってくださいました」
……クラリゼッタさん、昔を懐かしみながら単純に楽しんでただけだったんだ。 性格はアレだけど不器用な人なのかも。
「そうか、ナイト冥利に尽きるな」
「はい。 今日からまた初回回りを頑張ります!」
「おう! 太客も大事だが、指名を沢山持ってるやつの方がこういう時に強いぞ! アレンならルフランに追いつけるだろ? 頑張れ!」
「はいっ!」
「あっそうだ」
魔王様がつぶやくと、アレンさんは神妙な面持ちになりフロアへ戻って行った。
『乗っ取リゼッタさんと勘違いされないように来るのやめたのかな⁉』
キッチンのジルさんに聞こえないよう、アーニャから念話が来た。
『そうだね……』
『乗っ取リゼッタさんの、来てほしくないのに来てほしい感は異常だね! 今日からカリンちゃんと誰で賭ければいいのー⁉』
『好きにしなよ……そして乗っ取リゼッタさんじゃないよう!』
『それにしてもアレンくん、貴族と繋がってるから物盗りが来たかもしれないのによくお店辞めなかったね!』
『あ、そ、そういえば……』
『俺がアレンに、物取りの狙いはアレンじゃなかった、クラリゼッタがもう来ないならお前は大丈夫だって念話したぞ!』
ぎゃぴっ! 魔王様が念話に割り込んで来たっ! 何でもアリなのぉ⁉ 魔王様の悪口も言えないよ! ……言わないけど。
『そうなんだね! さすが魔王様!』
『アレンは稼いでるからな! そう簡単には辞めないだろ。 でも他のやつが知ったら困るなー』
『そしたら私がまたスカウトを頑張るよ!』
『おう。 まあ俺も念のため何か考えとくか』
ピポン!
魔王様とアーニャの念話を聞いているうちにお客様が来店した。
「「「おかえりなさいませプリンセス‼」」」
「あ! お客さんだね! 集え、鎮魂歌────」
私も〈集音〉っと。 あ、ミミマカリンさんが悪魔をテイムして一番乗りだ。
「カリンちゃん、ルフランが二つ名もらったよ! 羨ましいぜ! あ、ルフラン自己紹介しろよー」
「え! 聞きたい! 楽しみ~!」
「アラッ! 楽しみネッ!」
ヴァンさんがカリンさん達に二つ名の話を……。
「カリン、看板に書かれるまで待ってろ……」
ルフランさんは言いたくないらしい。 水面下の攻防戦が。
「やだ! 私がナンバー2にしたんだから早く二つ名名乗って!」
おかねのちからつよい。
「クソッ! …………『通行人のハートにすら火を点けてしまう俺は愛の放火魔』ルフランですっ! よろしくっ☆」
ルフランさんが恥ずかしさを振り切って思いっきり言った! ピースサインを投げる挨拶付きでっ!
「「「…………ギャハハハハハハ‼」」」
「何それダサい! ウケるーーー!」
「ダサいわぁっ! ギャハハハハ!」
「だから嫌だったんだよぉーーー! カリン笑うなっ!」
「ひーっ! ひーっ! ほ、放火魔! あ、愛の放火魔! 自信満々すぎるしっ!」
「ルフランちゃんっ! アタシのハートにも放火してちょうだいっ! ブフォ!」
「クソー! ヴァン! このネタ使うのやめろよ⁉」
「嫌だね! 俺の子孫に未来永劫言い伝えるぜ!」
「ナンバー10まで二つ名もらえるように代表に交渉するからな⁉」
「やったぜ!」
二つ名が罰ゲーム状態に……だがヴァンさんは無敵だ。
そして初回を回っていたアレンさんとネフィスさんの席でも同じような事が繰り返されていた。
「『恋の無限螺旋階段へエスコートします』アレンです……」
「あはははは! 面白いだろ⁉」
「おもしろーい! あははは!」
「ネフィス……勘弁してよー」
「アレンよぉ、恥ずかしがるからいけないんだぜ? もっとネタにしていけよ!」
「う~ん……付けられちゃったものは仕方ないね……そうするよ。 『恋の無限螺旋階段へエスコートします』アレンですっ! さぁお手をどうぞ!」
「あははっカッコイイ~! 螺旋階段上る上るー!」
「一段上るごとにお酒の金額も上がっていきますが覚悟はございますか?」
「アレンくんならいいよっ!」
アレンさんも振り切ったみたいだ。
ミアさんの席は……うん、ミアさん自ら張り切って「『伝説 と書いて 僕 と読む物語を一緒に紡がないかニャ』ミアですニャ!」ってアンナさんに言ってる。
「紡ぐ! 紡ぐ! 私が物語を紡ぐよっ! キャー! ミアくん、それでルナとディアナに念話してあげて!」
「わかったニャ!」
いきなり念話でその挨拶をされた2人は嬉しさで失神するという未来が見えた。
「みんないいネタができてよかったね!」
「アーニャ、やっぱり悪ノリで作ったんだね……」
「違うよ! 私が作った二つ名を魔王様とレイスターがアレンジしたんだよ!」
思わず魔王様のお顔を見る。
「ははは! こういうダサカッコイイのが流行ったんだよ! 今月はナンバー5まで付けてやるか!」
だからいつの話っ⁉
「はぁ……もう私は諦めましたよ。 関係ないですし」
「じゃあニーナは『エタフォをこの身に宿すへっぽこの化身』な!」
「ぎゃぴっ! やめてくださいよぅ!」
「いいね魔王様! あ、メイリアちゃんも付けてあげよっか⁉」
「……そしたらアーニャ、お礼に一服盛ってあげる……」
メイリアさんが顎を上げてアーニャを見下ろしながら言った。 伸びてきた前髪から覗く見開いた目が怖い!
メイリアさんが表情筋を使うなんて……相当嫌なんだな。
「あ、う、うんー……ちょっと思いつかないからまた今度ねっ!」
くっ……! メイリアさんは武器の毒で逃げ切った!
──────────────
翌日の昼前、魔王様の念話によりディメンションメンバーはディアブロへ召集された。
有事の際のため、ディアブロの魔族にもアレイルの話をしておくらしい。
ディアブロのお店に転移すると、クレイドさんシャナさんキャロルさんと、魔王軍からローテで来ているであろう2人の魔族がいた。 知らない顔だ。
「よう! 獣人が出勤してくる前に話を済ませるぞ。
簡単に言うとだな、北のアレイル国は小麦が凶作だ。 んで同盟国のオルガが支援しているが、どうもアレイルの動きが怪しい────」
「んでな、アリアから念話が来たんだけど、やっぱりクラリゼッタの屋敷からうちの店の領収書が消えていた」
ああ……私のせいで戦争が……どうしよう……!
一通り説明し終わった魔王様は最後に「ドワーフと獣人にはまだ伏せておいてくれ、移住して来たばかりだから無駄に不安にさせたくない。 必要だと思ったら俺が話す」と締めた。
「……そんな事になっていたのですわね。 凶作の原因は何かしら?」
あ、シャナさんの言う通りそういえば何でだっけ?
「あーなんだっけなー。 なんか酒みたいな名前だったな……チューハイ? じゃねぇな……」
「もしかして……虫害……ですか?」
「おお! それそれ! クレイドよく知ってるな!」
「母方の祖父が農家でして。 って! ヤバイですよ! 虫害とは虫が大量発生して作物を食い荒らすことです! 作物はおろか、ひどい時は布や紙まで何でも食い尽くすそうです! 『黒雲の悪魔』と呼ばれるほど甚大な被害を出します! 祖父からそういう言い伝えを聞きました!」
クレイドさんが慌てている! そしてずずい! っとこちらへ歩み寄って来て暑苦しい! 長い下まつげも暑苦しさに加担している! ギルティ!
「あん? 虫なのか? ……そういえば何年も続いて大飢饉になるかもって言ってたな……虫が繁殖を繰り返すからか?」
「大飢饉⁉」
みんな驚いている。 そ、そうだった……領収書の話で頭から抜けてたけど、飢饉になるかもってお姫様と宰相さんが言ってたんだった!
「……虫害……どこかで読んだ気が……」
「メイリアが探してる本ってこれでしょ? あたしのひいおじいちゃんが書いた本だよ」
キャロルさんがメイリアさんに一冊の本を差し出した。
「……これ! 貸して!」
メイリアさんがハキハキしゃべりだした! そしてキャロルさんから「チョーヤバイじゃんマジウケるー!」って言葉が出てこない!
……これはマズイ⁉
明日5/20はお休みします_(。。)_




