ドタバタ引き継ぎ
「決戦日お疲れ! ミーティングするぞー」
魔王様のお声でみんながソファや丸椅子に座る。
「まずはアスティ、ナンバーワンおめでとう。ルイスとシャールも頑張ったな。この三人がダントツだから、他の皆も頑張れよ」
「「「はいっ!」」」
アスティさんとルイスさんの角はいつもよりキラキラ輝いている気がする。シャールさんはちょっとしょんぼりだ。
「シャール、考えている事はよく分かる、だが気を落とすな。お前は全力で頑張った、俺が褒めているんだ、誇れ!」
「……はい!」
シャールさんは魔王様のお言葉で元気が出たみたい、よかった。
「さて、ひと月の流れはこんな感じだ! 売上分の給料日を楽しみにしてろ、来月も頑張れよ。あと、店のメンバーの入れ替えのため来月からバタバタするかもしれないがよろしくな」
「アラッ! ついにアタシ達が人界進出するのかしらぁ?」
「その予定だ。新しい人材を雇って教育が終わり次第行ってもらうぞ」
ええっ! そんなにすぐ⁉
お兄ちゃんが挙手をして質問する。
「魔王様、人界でのナイトやメンバーは魔族と人族どちらを雇うのですか?」
「魔族はそんなに人口が多くないからな……人族を雇おう。お前達の好きな、人族を支配下に! ってやつだ。
とは言え一人は魔族が系列店を取り締まらないといけないから、人界に行きたいやつらを募うか……」
「雇うことで人族を支配下に置くのですね! やっと魔王様の仰った、ホストクラブで人界征服の意味がわかりました!」
「あー……うん。ニーナの言う通りだ、人族の客も沢山店に通わせて支配下に置けばいいよ……」
「お任せ下さい!」
魔王様の人界征服はスマートでクールだ。頑張るぞ!
「魔王様、人族は私達を怖がっているけれどお店を出せるのかしら?」
ハッ! ルルさんの言う通りだ!
「あっ、そうだった。昔人界に攻め込んじゃったからなー警戒されちゃうよなー……ルルー、一緒に考えてくれよー」
「……わかったわ」
えぇ……魔王様まさかノープラン? ホストクラブではあんなに罠を張り巡らせてたのに!
……いや、二ヶ月弱でここまで物事を進められた事自体がすごい。魔王様じゃなきゃ出来なかった。うん、魔王様はお忙しいだけなのだ。
ミーティングが終わって解散となった。魔王様とルルさんだけはこのまま人界征服の作戦会議をするらしい。
決戦日の翌日は特別にお休みだ。明日はゆっくりしようっと!
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「なあルル、世界樹には行くか?」
「……魔王様……すみません……」
「そっか……わかった、この話は終わりだ。じゃあ人界出店のパターンをいくつか考えよう」
「はい」
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今日はお休みなので家族みんなで夕食を囲む。
「お母さん、魔王様がさすがマリリア達だ! って大爆笑して褒めてたよ!」
「俺もユニコーンって言われた時はさすがにビビったよ……分かってたけどさ」
「うふふ。初めてのナンバー争いだもの、勝たない訳にはいかないわ。フローラやアスティ達と作戦会議をするのも楽しかったわよ!」
「あ……お、お父さんは全部知ってるの?」
「ちゃんと事前に報告を受けているから心配するなニーナ」
ほっ……よかった。
「私達がある程度投資する事を魔王様は分かっていたのね、邪龍を見つけてきて軍に退治させたらしいわよ」
「うむ、特別給金が出たので安心していい。素材を市場に流したそうだ」
「魔王様スゲーな……簡単に経済を回せるんだな」
お兄ちゃんが感心している。ホストクラブといい邪龍退治といい、魔王様はお金を回すのが得意なんだな。だから魔法でババババーン! じゃなくて経済で人界征服するつもりなのかな?
「あ、そういえば新しいメンバーに引継ぎが終わったら、ついに人界に行くんだって!」
「あらもう? ニーナ、人界では何があるかわからないから気を付けてね。魔王様がいるから大丈夫でしょうけど……」
「うん、頑張って魔王様のお役に立つよ!」
「父さん、ニーナは俺が守るよ」
「そうだなレイスター、お前が守るんだ」
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今日はお給料日だ。私達と入れ替わるメンバー四人を連れて魔王様がお店へいらっしゃった。
「おはよう! 待ちに待った給料日だから先に渡すか! ニーナよろしく」
「は、はいっ!」
ナイトさん達に売上分のお給料が入った袋を渡していく。
「すげー……金貨なんて初めて見た……」
ナンバー3の三人の手には小金貨が何枚も……。
庶民のお給料は使いやすい大銀貨に崩されて渡される事が多いもんね。小金貨で渡すほどお給料が多いって事だ。
大きさに差はあれど亜空間魔法を使えない魔族はいないので、ナイトさん達は大事そうにお給料をしまった。
その後、私達と入れ替わるメンバーが紹介された。全員男性だ。私の役目を引き継ぐのは財務部の先輩だった。
「ニーナよろしく!」
「アーガスさんよろしくお願します」
「魔王様の新規事業に携われるなんてなんという喜び! 財務部でよかった! さぁ稼ぎまくりますよ!」
「が、頑張って下さい」
アーガスさんの話を聞いたら、今後キャッシャーが店長も兼ねるらしい。
なので魔王様が財務部で人界進出希望者を募ったところ、念願の人界征服という事で希望者が殺到し収集がつかなくなり、結果、拳によるお話合いで何人かに決まったらしい。
アーガスさんはギリギリ魔界のキャッシャー枠を勝ち取ったとのこと。
内勤枠とキッチン枠でも壮絶なオハナシアイがあったのは想像に容易い……。
「久しぶりにユニークスキルまで使いましたよふふふ……」
「大変でしたね……。じゃぁとりあえずお店のシステムから説明しますね」
こうして引き継ぎの日々が始まった。
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二回目の決戦日を終えて引き継ぎは終わった。
ちなみに今月のナンバーワンはシャールさんだった。 お母さん達が先月ほど使わなかったのと、シャールさんが地道にコツコツ頑張ったみたい。
お母さんは、毎回自分達が力技でアスティさんかルイスさんをナンバーワンにしちゃうと他のナイトさんがやる気を無くすから程々にすると言っていた。
でもお母さん達はアスティさんとルイスさんにオーダーメイドの騎士風の服をプレゼントした……すごく目立つ。
他のナイトさん達も羨ましがっていた。これからお客様の間でナイトさんに騎士服をプレゼントするのが流行りそうだ。
流行りといえば、ナイトさんの使っているトリートメントの一般販売を望む声がすごかった。
魔王様は「え、やだよめんどくさい」と言ったけど、そこを何とか……とルルさんやお母さん達、大店の商人を筆頭に嘆願書が殺到し、結局製造方法を公開する事で騒動はおさまった。
「ほとんどメイリアが作ったようなもんだから国からメイリアに開発代を払う。製造方法をバラ撒いとくわ」と投げやりである。
魔王様はホストクラブ以外の事に関してはめんどくさがり屋だ。
二人きりの時にトリートメント騒動についてお聞きしたら「トリートメントくらいで異世界知識チートTUEEEE! とか恥ずかしい……」との事だった。
魔王様のよく言う〈ちーと〉とは何なのかとお聞きしたら、異世界の知識や、魔王様のユニークスキルの事を総じてそう言うらしい。相変わらず恥ずかしがり屋さんだ。
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決戦日の翌々日、城の会議室に人界進出メンバーが呼び出された。
ついに人界進出が始まるんだ!
第一章~完~
次回より人界進出編です!
2021/8/28改稿。




