魔王様の無茶振り【表紙有】
数ある作品の中からお選び頂きありがとうございます!
素敵なイラスト著作:Dermar様 Twitter @dermar_gg
転載・無断使用・自作発言等禁止。
魔王様から魔王城の一室、魔王様の私室に呼ばれた。な、何かしたっけ? 怖いよぅ……。
恐る恐るドアをノックしてそっと入室すると、ソファに片膝を立てて座っている魔王様がいらっしゃった。頭の上で赤黒く輝く角はいつ見ても立派だ。
「おう、お疲れ! なぁニーナ、ちょっと人界征服しようぜ!」
「……! つ、ついに人界征服ですね! 魔王様の力を見せつけてやりましょう!」
「いや、俺TUEEEE! はもうお腹一杯だからさ、俺はホストの帝王になるぜ!」
「……? ……ホストとやらの帝王になる事が人族の支配に……」
「違う違う。はぁ……なんで魔族って人族の上に立ちたがるんだよ……」
「ち、力ある者が頂点に立つのが魔族ですぅ!」
「うん、わかってるよ。だから俺も昔ちょっと人界に攻め込んだじゃん? でも人族めっちゃ怖がってて可哀想だったぞ。てか、今思うと転生チートで俺TUEEEE! とか超恥ずかしい……」
お強い事は恥ずかしい事じゃないと思うけど……。
「てことでさ、既に何人かメンバーを選定してあるからそいつらとまず魔界にホストクラブ作ろうぜ! んで、人界にも系列店を作って人界征服だ!」
「魔王様が魔族念願の人界征服を計画して下さった事はわかりました。ところでホストクラブって何ですか?」
「簡単に言えばイケメンと酒を飲む所だな」
「なんだ、酒場の給仕が男性なだけなんですね」
「そそ! 簡単だろ? 財務部のニーナに金勘定は任せるぜ!」
「ひぃい! 何で私なんですか!」
人見知りの私には酒場なんて無理だよぅ! 魔王城でひっそりと経理のお仕事をして暮らしたいよぅ!
「俺が異世界の知識を持ってるのはニーナにしか言ってないだろー、それに俺の次に魔力高いのはニーナだから何となくよろしく!」
「えぇ……他の人にも言えばいいじゃないですかぁ……。財務部に入ったばかりの私には荷が重いですぅ……」
「昔は転生者ってのを隠すのがカッコイイと思ってたんだよ! でも今更言うのも恥ずかしいじゃん……」
魔王様は変なとこでシャイだ。でも誰にも言えないのも息が詰まるらしく、魔王様の拾い子で家族同然の私にだけ暴露したとの事。
特別扱いは嬉しいけど今は微妙だよぅ……。
「とにかくニーナにやらせることに決めた! 魔王命令だ!」
ニヤリと笑った魔王様の右目が鋭く私を射抜く。左目は黒髪に隠れて見えない。
「だっ、大臣達の承認が降りないと思います!」
「爺さん達なら、経済活性化のための公共事業で新規雇用拡大がなんちゃらかんちゃらって難しい言葉並べたらアッサリ承認降りたぞ」
「ぎゃぴ!」
「よし! じゃぁまずはメンバーと魔界のホストクラブを作るぞー! 腕が鳴るぜ!」
無茶振りだよぅ!
──────────────
翌朝、魔王様が城の会議室にメンバーを集めた。……ほとんど知ってるよ!
「よし! みんな集まったな。ホストクラブについては昨日各自に説明した通りだ。じゃあ右回りに自己紹介でもしよう。まず人界征服メンバーのリーダー、ラウンツ」
近衛隊で有名なラウンツさん……短髪の金髪でムキムキのおっきいお兄さんだ、生物学上は。
「ラウンツよぉ! よろしくネッ☆」
ひぃ! パチン☆ とウィンクが飛んできた!
……そう、有名なお兄さんもとい、おネエさんだ。
「アタシがみんなを笑顔にするわよぉっ! おネエはイジられてこそ輝くの! だからみんなっ! バンバン絡んでちょうだぁいっ☆ ウフッ♡」
……みんなカクカクと頷くのが精いっぱいだった。
イジると輝くって、ど、どういう事⁉
「次は私ね、みんな知ってると思うけどルルよ。魔道具や魔術式なら任せてちょうだい」
ラウンツさんから目を離せないでいたら、冷静なルルさんが自己紹介を始めていた。
ルルさんは赤に近いピンクの巻き髪のお色気お姉さんだ。凶悪なボディラインを強調するかのようなマーメイドドレスを好んで着ている魔界の有名人。すごい魔道具を沢山作っているのでお金持ちだ。
「……メイリア……土木部新任……錬金術師……なんでも造る……よろしく……」
メイリアさんははじめましてだな。エメラルドグリーンの前下がりボブの素朴な子、私と同じ新任だから15歳だ。
長い前髪で顔が良く見えない……ずっと俯いてる……。ボソボソ喋るのはクセなのかな? ……も、もしかして私みたいに魔王様から無理矢理メンバーにされた被害者ではっ⁉
「はーい! アーニャです! 魔王軍第二部隊二年目だよ! イケメンの事なら任せて! 私の魔眼が唸るよ!」
水色のサイドポニーテールを揺らしながら元気にそう言ったのは、幼なじみのアーニャ。イケメン好きで厨二病で残念だけどいい子、うん。
ちなみに厨二病というのは魔王様に教えてもらった。14歳頃に発病する闇の世界に呑まれそうになるアレらしい。アーニャみたいに拗らせる事もある恐ろしい病気だ。
「レイスター、ニーナの兄です。魔王軍第一部隊二年目です」
アーニャの次は私のお兄ちゃんが自己紹介をした。お兄ちゃんもアーニャも人界征服メンバーだなんて今初めて知ったんだけどっ⁉ ……絶対二人とも私の反応で遊んでる!
ちなみにお兄ちゃんは1つ歳上の義理の家族。魔王様だけでは捨て子の赤ん坊だった私の面倒を見れなかったので、お兄ちゃん家族が引き取ってくれた。兄妹差別なく育ててくれた両親には感謝している。
「あっ! 私の番! ええええっと、ニーナです! 財務部新任でしゅ!」
噛んだ……死にたい。
「ははは! ニーナは相変わらずへっぽこだな! じゃあ簡単にするぞ。頭脳派のルルとメイリアで建物の設計、魔法で建物を造るのと経理はニーナ、アーニャはイケメンをスカウトして来い! ラウンツとレイスターは用心棒兼、内勤だ」
「魔王様、内勤とは?」
お兄ちゃんの疑問にみんなもハテナだ。
「内勤ってのは……裏方だな。そのうち説明する」
「……はい」
「じゃあ早速俺が抑えた土地に行くぞ!」
ひぃ! 今から⁉ と思った時には魔王様の転移魔法で街の一等地にいた。
──────────────
「この酒場を建て替える。 爺さんの跡継ぎがいなくて買い取った」
目の前には大きな酒場があった。一等地にあるのに建物がボロボロだ、お爺さんだけの経営では厳しくなってきたんだろうな。
「ルル、メイリア、女子ウケする城みたいな建物を設計してくれ。んでニーナの土魔法でドドン! とよろしく!」
「任せてちょうだい!」
「……ふふ……すごいの造る……」
「ひぃ!」
わ、私を巻き込まないでぇ! コッソリひっそりと経理のお仕事だけしたいのだ!
「他のみんなはまずスカウトだ! 下町へ行くぞ」
魔王様がそう言うと、ルルさんとメイリアさんが設計のため店内を借りに酒場へ入って行った。酒場のお爺さんには話がついているみたい。
残りの私達はまた魔王様に転移させられた。急に転移するのやめてよぉ……フラフラする……。
そういえば。と、ふと思った疑問を魔王様に聞いてみる。
「魔王様、なんで下町なんですか? スカウトって何ですか?」
「あん? ああ、魔族って力のあるやつがいい職に着くだろ? 軍はもちろんの事、商人は亜空間の広いやつが、農家は土魔法や水魔法の得意なやつが有利だ。魔力の低いやつらは下町で職に溢れてる。そいつらからイケメンを見つけてホストにするんだよ!」
「な、なるほど……新規雇用拡大は詭弁じゃなかったんですね」
魔王様がジトと私を睨む。
「俺を誰だと思ってるんだ?」
「ま、魔族の王です! 流石です!」
「ホントは今思い付いたんだけどな! ははは!」
私の尊敬を返してぇ!
「下町でイケメンを探せばいいんだね! 任せて!」
イケメン好きのアーニャが張り切っている……。
「アタシのお眼鏡にかなうコがいるかしらっ? ウフッ☆」
「ラウンツ、残念なお知らせだがお前好みのガチムチはダメだぞ。線の細いイケメンを探してくれ」
魔王様にそう言われておネエのラウンツさんがショックを受けてる……。お兄ちゃんはどちらかというと線の細い方なのでホッとしてた。
「魔王様、スカウトは2人に任せて、俺らは他の準備をしませんか? 店のシステムとかお金に関する事を教えて頂きたいのですが」
お兄ちゃんナイス! この2人に付き合うのは精神的に疲れる。
「ああ、そうするか。じゃあ爺さんの店に戻ろう」
私とお兄ちゃんを連れて魔王様が再び酒場へ転移した。
私達はルルさんとメイリアさんが嬉々として設計しているテーブルとは別のテーブルに座り、魔王様からお店のシステムを教わった。
…………お、お酒の価格が市場の10倍ってどういうことぉぉおおお⁉
サービス料30パーセントってどこから湧いてきたの⁉ 詐欺なの⁉ 詐欺で人界征服するのっ⁉
「ま、魔王様……この価格設定では客が来ないのでは?」
お兄ちゃんが私の言いたい事を代弁してくれた。
「フッ……客は必ず来るぞ?」
とりあえず聞いてみようと、私とお兄ちゃんが身を乗り出す。
「あのな、ホストってのは女に夢を見せる商売なんだよ。恋物語に出てくる様な煌びやかな城で騎士に甘い言葉を囁かれてみろ、夢みたいだろ?」
「ニーナ、そうなのか?」
お兄ちゃんが私に聞いてきた。
「うーん……確かにそういうのを求めて恋物語を愛読する女の子や淑女は多いよね。お母さんもそうじゃない?」
「ああ……確かに母さんは恋物語を沢山持ってるな」
「だろ? 本の中の世界が現実で味わえるんだ、いくらでも金を出す!」
魔王様のその自信はどこから来るのぉ……。
「でっ、でも最初は躊躇するのでは?」
1回の来店で最低2万はかかるよぉ!
「そこで初回システムだ! 初回に限り1000ルインにする。要はお試し価格だな!」
1000ルイン……小銀貨1枚、庶民の晩ご飯一食分だ。
「なるほど……魔王様の発想はすごいですね!」
お兄ちゃんが感心している。魔王様の発想というか異世界の知識かな?
「フッフッフ……初回でホストクラブの世界を見たら後はもう常連だ! なんせ魔界には娯楽が少ないからな! 高くても、夢を見れる場所があればみんなハッピーなんだよ!」
えぇ……ホントかなぁ……先行き不安だよぅ。
そしてとんでもない事に巻き込まれていると気が付いたのはすぐだった……。
~人物紹介~
ニーナ(15)
腰まである銀髪にオレンジの瞳
財務部新任→人界征服メンバー
赤ん坊の頃に魔王様に拾われ、レイスター家族に引き取られた
人見知りコミュ障
魔王様、アーデルハイド(?)
黒髪、魔眼を持っている
元伝説のホスト、異世界転生者
「ホストクラブ作ろうぜ!」
レイスター(16)
茶髪、ニーナの義理の兄
魔王軍第一部隊→人界征服メンバー
アーニャ(16)
水色のサイドポニーテール、黒い瞳
魔王軍第二部隊→人界征服メンバー
ニーナとレイスターの幼馴染
厨二病こじらせ、イケメン好き
ラウンツ(23)
金髪、ガチムチ、おネエ
魔王軍近衛隊→人界征服メンバー
ルル(?)
赤に近いピンクの巻き髪、おっぱい
マーメイドドレスを好んで着ている
魔道具や魔術式は魔界一→人界征服メンバー
メイリア(15)
エメラルドグリーンの前下がりボブ
錬金術師、土木部新任→人界征服メンバー
マッドサイエンティスト、ぼそぼそ喋る
2022/1/3改稿