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自分



 「自分、ホンマ大丈夫なんやろな?ワシ、めっちゃ不安やわあ」


 『怖いわぁ』と、ソーは自分の体を痛々しくさすりながら、正座してうなだれる僕の顔をのぞきこむようにして言った。


 というのも、犬耳、ウサミミ、狐耳などたくさんのけもみみ美女軍団が出演するVRプロモーションビデオを見て異世界の存在を確信したハルヒロは興奮のあまりにフィギュアのカラダを両手でぎゅんぎゅんに握りしめて、異世界行きを懇願してしまったのだった。


 「も、もう大丈夫です」


 「アホか!そっちは大丈夫でも、こっちは大丈夫やあらへんがな、ワシ、ホンマ死ぬ思うたんやで」


 『ホンマ、ぼっちのおたくは怖いでェ~』とあからさまに嫌悪感をあらわすソーに向かって、ハルヒロは意を決して炬燵こたつから出て一歩下がり、生まれてはじめての土下座を決めた。


 「ほんッと、すいませんでした!」


 正直、けもみみ美女軍団に会うためにはなりふりなどかまっていられなかった。

 不安がないわけではなかった。いや、むしろ不安だらけと言っていいだろう。だけど今はアニメやフィギュアじゃない、本物のけもみみ美女に会いたかった。そのためには異世界に行くしかない。行ってダメだったらその時また考えればいいじゃないか。


 それを見て何か思うところがあったのだろうか、ソーはおもむろにゆっくりとうなずいて、こう言った。


 「‥‥ええ心がけや。人の道からだけは外れたらアカンで」


 「は、はい。精進致しまする」


 「うむ、長い人生や。一所懸命に精進せい」


 「へい」


 そして、あらためてソーはハルヒロに『顔、上げ』と促してから本題に入るべく、こう切り出した。


 「さて、ほんならぼちぼちはじめるけど‥‥‥ホンマに覚悟はええんやな?」


 そう言ってから、『~押し』と、スマートフォンをハルヒロにスッと差しだした。

 

 いよいよだ。僕は唾をゴクリと飲み込む。

 

 (ん‥‥?何か忘れてるような)


 だが、ハルヒロはスマートフォンのモニターを見てすぐに思い出した。


 「に、日本語に変換してくれるはずじゃあ‥‥‥」


 「あちゃー!気づいてもうたんか。けっこう押しとるから、ここはチャッチャと行きたかったんやけど、なんや思い出してもうたんかあ」


 額をペチンと叩いておおげさに悔しがるソー


 「こういうことは大事ですから」


 「ぼっちのおたくにしては、ええ心がけや。日本語変換してやるさかい、よう読みや」


 そのあともなんやかんやと言われながら、日本語変換してもらった同意書には、甲だの乙だのずらずらと長くて難しい文章が書かれていたが、その中身はありきたりな契約書で、ごくごく一般的な内容であった。要するに『異世界に行ったあとのことはすべてが自己責任で、あなたに何が起ころうと、こちらでは一切責任は持ちませんよ』というようなことを繰り返し繰り返し、念を押すように書かれているだけであった。


 【 同意する 】or【 同意しない 】


 ゆっくりと下にスワイプしながらじっくりと読み進め、最後に、この文字が出てきたところでハルヒロは腕組みして無言で見守るソーにこう告げた。


 「‥‥‥‥‥‥‥読みました」


 「ん、ほうか‥‥‥で?」


 ゆっくりとうなずいて、ハルヒロに目配せしてからスマートフォンをスッと前に出すソー


 「い、行きます。もちろん、行かせて頂きます。‥‥けど、その前に先程おっしゃってた、異世界にものを持っていけるという話を‥‥」


 「あ!?せ、せや、せや。なんや忘れてる思うとったら、オプションや、オプションの話せなアカンかったわ」


 「オ、オプション?」


 「せや、オプションや。さっきから言うてるけど、【7G】のマテリアルデータ通信アプリ使えば、どんな物でも、こちらの世界からあちらの世界へ持ち込めるんやけど、自分どないする、アプリポイント消費して、このオプション付ける?」


 (確かにものを持ち込めるという話はさっき聞いた、しかもどんな物でもという。もちろん持っていけるなら色々と持ち込みたいものはあるが、ちょっと凄すぎるような‥‥)


 「付けます。もちろん付けますけど、例えば、どんな物が可能なんですか?」


 「そら、どんな物でもや。なんなら、この惑星まるごとでも持ち込めるで。でもまあ、そこは、自分の所有物ちゅう制限はかかるけどな」


 「‥‥自分の‥‥所有物」


 それを聞いたハルヒロはあごをさすりながらそう呟やくとすぐに目についた自分の所有物を矢継ぎ早に揚げていった。


 「‥‥‥じゃあ、スマートフォンは?」


 「可能や」


 「えーと、ノートパソコンは?」


 「ええで」


 『遠慮はいらんがな、ジャンジャン挙げていき』と太っ腹なことを言うので、ハルヒロは本当に遠慮など無しに次々と異世界に持ち込めそうなものをどんどん挙げていった。


 ーーー結果。


 古民家(家財道具一式)、納屋(トラクター及び農作業道具一式)、ビニールハウス(苗床及び、数十種類の野菜穀物の苗と種)、鶏小屋(鶏、オス2羽、メス12羽)という信じられないような成果を獲得していた。ちなみに、水道、電気、ガスといったライフラインも挙げていたが、『自分のもんちゃうやろ』とえなく却下されていた。


 「まあ、水道は頑張って井戸掘るか、山から湧水引けばなんとかなるやろし、ガスも薪集めてかまどやら薪ストーブで代用しいや。異世界生活、そんな甘ないでェ~」


 とは言え、ライフライン(水道、電気、ガス)の中でハルヒロにとって何よりも重要なのはスマートフォン充電用の電気であった。すると、ソーはまたハルヒロの心を読むように、こう言った。


 「あれやで、後々はアプリポイント貯めて無線通電やら無線充電アプリ取得もありなんやろうけど、直近ではまあ、電気はあきらめ~。言いたいところやけど、なんや、せっかく【7G】Wi-Fi環境あるわけやし、スマホやらノートパソコンは使いたいやろなあ」


 「‥‥‥‥‥」


 「って、自分、また絶句かいな。まあ、なんやあれやで、頼りにならんかも知れんけど、一応、アプリアドバイザー送ったるやさかい、あっちに行ってからアプリポイントの振り分けやらスマホの充電についてはそいつに相談し」


 「‥‥‥‥‥」


 「ほいでまた絶句て、自分にはかなわんなあ~」


 そう言って小さくほくそ笑むソー


 今どき、アットホームな地元不動産屋でもこんなに親身になって相談には乗ってくれない。それなのに、このソーときたら、引っ越しというか異世界移転?家屋移転の全手配から移転先での生活の心配、アドバイザーの手配まで、ことこまかに‥‥‥。


 「‥‥‥‥なんでなんですか?」


 「なんで、てなんやねんな?」


 「なんで、こんなに親身に‥‥」


 ソーは『ああ、それな‥‥』と鼻で笑うような素振りを見せてから、ゆっくりとハルヒロに真剣な眼差しを向け。


 『‥‥戦争とか争いがなんで起こるかわかるか?』と、突然、こうきりだした。


 ソーいわく、戦争や争いの起こる原因はすべて社会の隔絶と格差だと云う。

 種族格差、文化格差、技術格差、情報格差、体力格差、性格差こう云うすべての隔絶や差別がイデオロギーを産み、小さないさかいや争い、さらには戦争や大規模な争乱を産み、それら数多あまたの生と死によって飢饉や疫病、戦争孤児や飢餓難民、植民地支配や奴隷といった負の産物と負の感情が大量に産み出されるのだという。


 「ワシ、神やん。『喜び』『幸せ』とかそういう正の感情をめっちゃ集めてんねん。やけど、近頃は、なんやよう集まらななってしもうてな。そこで考えたんが、隔絶した社会格差を失くすための異世界技術交流や!」


 「‥‥‥異世界技術交流?」


 「そうや、そこでキミの出番や。自分、農業できるやろ。あっちでその革新的農業技術交流を通してアスガルドに数多あまたある隔絶した種族との絆を繋いで欲しいねん」


 『絆を繋いで、あらゆる格差社会から人々を救ったって欲しいねん』とソーは言う。


 とてもじゃないが僕個人のつたない農業技術で異世界人はもちろん、けもみみ美女たちをその隔絶した格差社会から救えるとは思えないが、話の内容的には、収まるところにストンと収まった。

 というか、丸め込まれた。というか、とにかく完全に納得してしまっていた。


 僕は気合いを入れ、『ええいっ!』とばかりにおもむろに立ち上がると、ずかずかと大股で台所まで歩き、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出した。


 そして、プルタブをプシュと起こすと、冷え冷えのビールを『グビグビ』と一気に胃の腑の中に流し込んだ。


 「ぅッはあああ~ッ!」


 「ケケケ、なんや、景気ええなあ~」


 ソーはその姿を見て、ケタケタと笑っている。


 『うぐっ』迎え酒で吐き気が襲ってきた。もどしそうになって口を手で押さえながら、可笑しそうに笑うソーの顔をもう一度チラ見してから、自らを奮い立たせるようにはっきりとこう言った。


 「~行きますッ!!」


 ーーーこうして僕は、自らの意志で新たな世界へのスマートフォンに指を落としたのだ。




 最後まで読んで頂きたいへんありがとうございます。


 アメリカ大統領選不正の真実。トランプ VS グローバリスト、ディープステイト、そして裏で暗躍する中共。

 都市伝説としてだけど、地上波で流していた。テレ東もこれをWBSで流せれば、本物なんだけど‥‥。

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