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【7G】






 なんと、【7G】第7世代超神速移動通信規格のマテリアルデータ通信アプリを使えば、こちらの世界からあちらの世界へ現存するあらゆるマテリアル(物質)を直接持ち込めると言う。


 「で?どないすんの?」


 「う‥‥い、行き‥‥‥‥」


 『行きます』と一言、言えばいいのに、足を一歩踏み出すだけなのに、その一歩がなかなか出ない。変化を嫌うもうひとりの自分が『‥‥今のままでも、まあまあ幸せじゃないか。なのに、そんな危険で未知の場所に飛び込む必要があるかい?』と爽やかに語りかけてくる。行きたいのに、本当は行きたいのに、心のセーフティー機能がブレーキをかける。


 と、そんな感じでいつものようにグダグダと悩んでいると、突然ーーー


 (ーーーピロリロリロリン♪ピロリロリロリン♪ピロリロリロリン♪ 第7世代超神速移動通信規格、ダウンロードが完了致しました。ダウンロードが完了致しました)


 「おお、ダウンロード完了や。これでいつでも異世界行けるで。」


 そう言って、ソーはスマートフォン画面が正面に来るようにクルッと回して、ハルヒロの目の前にスッと差し出した。


 「え、え、えッ!?ち、ちょっと待って!なんですか、これは」


 「同意書やがな」


 「‥‥どういしょ?」


 「だから、さっきから何度も確認しとるやろ。行くの、行かへんの、どっち? 行くんやったら、これにサインもらわなアカン決まりやねん」


 スマートフォンには、日本語じゃない見たこともない文字のような記号がずらずらと描かれている。


 「ち、ちなみに‥‥ここにはなんて書いてあるんですか?」


 「あ、これ?」


 そう言いながら、ソーはスマートフォンの画面をどんどん下にスクロールしていく。そして、最後のどん詰まりまでスクロールすると。


 「‥‥‥ま、まあ、たいしたことは書かれてへんな」


 「い、いやいやいや、『たいしたこと書かれてへんな』じゃなくて、大事、大事、大事ですよぅ、一番大事なことじゃないすか。お、教えてくださいッ!お願ぃしゃす!」


 と、噛みながら必死に美少女フィギュアにつかみかかる勢いで懇願するハルヒロ。


 「ウワハハハ‥‥『おねしゃすぅ~』って自分、超必死やん!あれやで、『たいしたこと』言うたんは、ほんの冗談やがな。日本語変換してやるさかい、よう読みや」


 「じ、冗談‥‥」


 クソ面白くない冗談に呆気にとられていると。


 「あ、そうや!なんや気休めになるか分からんけど、【異世界PV】あるで、自分、観るか?」


 「PV‥‥‥って、プ、プロモーションビデオ!?」


 「そうや、ワシみずからメガフォン取って脚本と主演、演出もつとめたハリウッド以上の超大作や。これ観たら異世界行きたなるでェ~、どや、観たいやろ、観たいやろ~?」


 『これ観たら間違いなく異世界行きたなるでェ~』と楽しそうに言いながら、同意書が書かれたモニターを無造作にどんどん右に左にスクロールするソー。


 「あ、あ、あの、同意書は‥‥?」


 「そんなん、後でええやろ‥‥」


 そう口にして『あれ、どこや?どこいってもうたんや?』と言いながら凄い勢いでスマートフォンのモニターをスクロールしている。


 朝からいろいろなことがありすぎていて、頭が混乱している。って言うか、やっぱりハルヒロはまだ目を覚ましていなくて、目の前で起きている出来事はすべて夢なのではないか?可能性としては、そっちのほうが高いような気がするのだが。


 ーーーただ。ずっと心に引っかかっていたことがある。必死に異世界PVなるものを探している、Wi-Fiの神を名乗るけもみみ美少女フィギュア マイティ‐ソーを見てたら、不思議と自然な感じでこう聞いていた。


 「‥‥‥なんで、僕なんですか?」


 「ん?‥‥なんで、て‥‥ワシ、Wi-Fiの神やぞ。マッチングアプリでググったに決まっとるやないか。なんや『神隠しに会うても分からんような孤独な農業人』でググったら最初にヒットしたんが、自分や」


 「んぐぅッ!?」


 ほんッとマジで聞かなければ良かった。

 神に選らばれた。というから、なんらかの特別な理由があって選ばれたのかと思ってたのに。

 

 『神隠しに会うても分からんような孤独な農業人』

 

 確かに、人里離れたポツンと一軒家でひとり農業はしているが、確かにぼっちでおたくの童貞だが、そんな情けなくも恥ずかしい検索に最初にヒットしてしまうとは。


 「あっ、けど‥‥‥ま、まあ、なんや、選んだ理由はそれだけやないで‥‥‥」


 言うつもりはなかったのだろう。ハルヒロの激しい落ち込みようを見て『あ、言うてもうた!』と少しうろたえて、フォローを試みようとする、ソー。


 「フ、フォローはよしてください。実際にそうなんで‥‥全然、ぜんぜん気にしてないすからァ」


 「『ぜんぜん気にしてない』て、自分ちょっと泣いてもうとるやないか。まあ、あれやで。こう考えたらええんちゃうかな。たぶんやけど、自分このままやったら、しょうもない人生をだらだら過ごして後悔したまま孤独死するとこやったやん。そう考えたら、今回最初にヒットしたんは、むしろ運が良かったと言えるんちゃうか。いや、もう確実に言い切れるわ。自分、ラッキーボーイやでェ~」


 「うう、うるさいッ!!」


 全然、フォローになっていない。むしろ、この時ハルヒロは心の奥底にある『小さな殺意』の存在をはじめて知った。


 「う、うるさいて、せっかくフォローしたったのに‥‥‥」


 と言ってから、スクロールしている指先がピタリと止まるのが見てとれた。


 「‥‥ん、んん?‥‥あ、あった、あったで。なんや、こんなとこにあったんかいな、まったく使いづらい端末やで」


 どうやら、先程から探していた自作自演の【異世界PV】なるものがやっと見つかったらしい。なんとも怪しそうな、PVプロモーションビデオだが、結果的にこれがハルヒロに異世界行きを決心させる決定打となった。


 そのプロモーションビデオの脚本というか内容自体はほんとにお粗末なもので、絶世のけもみみ美女軍団と金髪小太りのオッサン(おそらくはソーの真の姿)が全編美しいリゾート地で『キャッキャッ♪ウフフ~♪』しているだけの陳腐でありきたりなパリピ的ストーリーなのだが、その映像がソーの言った通り、ハリウッドをはるかに越えていた。


 スタートマークにタッチして映像が流れ初めると、スマートフォンの小さな画面は、なんと上下左右、全方位全方向にぐんぐんとハルヒロの回りを侵食するように広がって行き、あっという間にハルヒロは完全なVRバーチャルリアリティの美しい異世界の景観に取り込まれていた。


 「‥‥マ、マジかぁ‥‥‥」


 (こいつ、本物だ‥‥‥本物の【Wi-Fi神】だ‥‥‥地球の最先端技術をはるかに凌駕している)


 ハルヒロは現実とたがえない美しい景観とわらわらと現れる水着姿のけもみみ美女たちを目の当たりにして、15分ほどのVRバーチャルリアリティーPVプロモーションビデオを見終わった後もしばらくの間、興奮のあまり呆然自失、フルフルと身震いしていた。


 「‥‥‥‥‥‥」


 「‥‥‥ところで自分、いつまでプルプルしとんねん。あれやで、タイムイズマネー言いよるやろ。ワシもけっこう忙しいねん、はよ決めてや」


 言われるまでもなく、この時のハルヒロの心の中ではモフモフけもみみハーレム、いや、異世界、に行く。とプルプル震えながら前のめりに決心していた。


 「‥‥‥‥‥ます」


 「え!?なんて?」


 「ーーーいきます、異世界行きます。もう行かせて頂きますッ!けもみみハーレムお願いしゃすッ!けもみみ美女軍団、お、お願い、お願いしゃすッ!!せんせえええええええ~~ッ!!」


 興奮のあまり、自分でも何を言っているのかよく分からなくなっていた。

 

 「いや、先生ちゃうで、神やがな」



 最後まで読んで頂きありがとうございます。


 ペンス砲不発、決戦は1月6日。TVでは、安倍元総理『桜』で謝罪。そして今日もコロナコロナ。日本の偏向ズブズブメディアはこればかり。


 

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