その23 絶世の美女
「いやー、美少女コンテスト。すごかったねー」
ほくほく顔でもみじが言う。
「そうね。私も、まさかあんな結果になるなんて思ってもみなかったわ」
文化祭が終わり、数日が経過していた。
すでに学校は日常を取り戻している。
「マミちゃんもえらいよねー。美少女コンテストが終わっても、まだ出張保健係を続けるんだから」
もうやる必要のない出張保健係だったが、マミが自分が役立てる事なら引き続き役立ちたいと強く訴え、ついに正式に学校に認められたのだった。
さらに、学校側でマミ専用の特別保健室が用意され、2人は応援がてらそこへ向かう途中だった。
「あー、でもPもこれで終わりかと思うと残念かなー。マミちゃんはもう来年は出ないって言うし、次は誰のPをしよっかなー」
「言っておくけど、私は出ないから」
玲奈はピシャリと言う。
「ピクシル君のタイミングが合って、ピクシルちゃんになってれば出場してもらえるんだけどなー。うん、そうしよ。目指せ! 夢の2年連続優勝だよ!」
「そうなのよね」
まだ驚き冷めやらぬと言った様子で、玲奈が息を吐いた。
「優勝……しちゃったのよね」
数日前の出来事を、玲奈は思い出した。
★
(どうするの? このままじゃ本当にマミのミイラの体が皆の目に)
焦る玲奈の頭に浮かんだのは、カエルになったもみじの姿だった。
●
『お風呂上がりみたいにお肌がピッチピチでしょ』
自慢気にカエル肌をピチピチ叩いているもみじ。
そこにクラスの女子生徒の説明が入る。
「それはきっと、魔力水の効果ですね」
「魔力水?」
「魔法で作られた水です。魔素が溶け込んだこの水は、お肌にとってもいいそうなんです。すっとお肌に染み込む浸透率、そして潤いを保つ保湿効果。とくに西園さんは魔法の才能がある方ですから、多くの魔素が溶け込んで抜群の魔力水になっているんだと思うんです」
●
(無理かもしれない。上手くいっても逆効果かもしれない。だけど、私にできる事はこれぐらいよ)
玲奈は、精一杯の魔力を込め。
「レインフォール!」
ステージ上で、今まさに包帯を切り刻まれているマミに向かって魔法を発動した。
現れた雨雲が土砂降りの雨を降らした。それがマミに降り注ぐ。
「お願い!」
やがて、雨が晴れた。
十二分に包帯を切り刻んだサキュの魔法を消え去った。
濡れたステージの上にいたのは、ペタンと膝をついた……
ウェーブのかかった髪で、
褐色の肌を持ち、
目鼻立ちのくっきりした、
そしてむっちりグラマラスな
絶世の……美少女だったのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
その瞬間、マミの美少女コンテストの優勝が決まったのだった。
★
「まさか、水を含んだマミがあんた大人びた美少女に変身するなんて思わなかったわ」
「わたしの目に狂いはなかったってことだよ」
紅葉が胸を張る。
「調子に乗らないの」
改めてマミの変身した姿を思い出すつつ、玲奈は少しだけサキュに同情した。
(あの娘も、余計な事さえしなければまだ優勝を狙えたかもしれないのにね)
サキュのやった事は明らかな妨害行為であり、問答無用で美少女コンテストは失格。残り2年の学園生活でも、出場権を破棄されてしまったのだった。
そんなことを考えているうちに、マミのいる特別保健室へと到着する。
「マミちゃーん。入るねー」
勢いよくもみじが保健室へと入った。玲奈も普通のその後に続く。
「きゃああああ」
中にいたマミが悲鳴を上げた。
「あ、ごめん。わたし、タイミング悪かったね」
「いいえ、私が悪いんです。丁度、新しい包帯が届いたので巻替えをしていたところで」
「でもマミちゃんってすっごいスレンダー!」
「そんな事ないですよ。干からびてガリガリだから、一生懸命包帯を巻いて普通にしてるだけなんです」
「ううん、まるでモデルさんみたいだよ。水を含んだむっちりグラマラスなマミちゃんもステキだけど、カサカサシオシオなマミちゃんもステキだよ。ね、玲奈ちゃん」
肩越しに振り向くも、玲奈は完全に動きを止めてしまっていた。
だって、玲奈が目にしてしまったのは、
カラッカラに乾いて、
干からびた、
ミイラの本来の姿だったのだから。
「……………」
無言で仰向けに倒れる玲奈。
「玲奈ちゃん! 玲奈ちゃーん!」
もみじの声が、特別保健室に響いたのだった。
おしまい