その21 文化祭当日!
そして文化祭当日。
得葉曽高校は大いに盛り上がっていた。
「魔界吸血ダコのタコ焼きだよ~! 活きがいいよ~。気を付けないと口の中の血を吸われるよ~」
「魔界吸血イカのイカ焼きだよ~! 食べる時は一気に齧って息の根を止めてね~。唇を取られるよ~」
食べ物の屋台ではお客を呼び込む声が響き、
「射的やってって~。呪われた景品がたくさんあるよ~。当たったらもう大変だよ~」
「魔界ピラニアすくいだよ~。指を突っ込むと簡単に掴まえられるよ~。指がなくなる前に引き上げてね~」
ミニゲーム系の屋台も充実している様子だ。
(絶対に食べたくないし、絶対にやりたくないけれどね!)
玲奈が心の中で叫んだ。
「わ、わ、玲奈ちゃん! 玲奈ちゃん! 楽しそうな屋台が一杯だよ! 何か食べようよ! 何か遊ぼうよ!」
もみじはと言うと、目をキラキラさせて屋台に心を奪われている。放っておくと、魔界吸血ダコのタコ焼きや魔界吸血イカのイカ焼きを買い、射的で呪われた景品をゲットして、魔界ピラニアに指を食われて帰ってきそうだった。
「もみじ、寄り道をしている時間はないわ。もう美少女コンテストの時間でしょ。Pであるあなたが見届けないでどうするのよ」
「あっ、そうだった」
本来の仕事? を思い出し、もみじが頷く。
「早く会場に行かなくちゃ!」
早足で歩きだすもみじ。玲奈はホッと息を吐く。
(良かったわ。おかしな屋台をスルーできて)
「屋台は美少女コンテストの後に来ようね」
笑顔で言うもみじ。
(仮病を使ったとしたって、絶対に来ないわ! 絶対に!)
玲奈は強く、それはもう強く誓ったのだった。
★
美少女コンテストの控室として使われている大テントには、すでに出場者が集まっていた。なかなかの美少女揃いだった。
緊張した様子でマミがちょこんと椅子に座っている。その恰好は出張保健係のナース服姿だ。
「お待たせ。マミちゃん」
「あ、もみじ先輩、玲奈先輩」
マミが嬉しそうな顔をする。
「はい、これ差し入れよ」
玲奈が果物のジュースを差し出した。
「ありがとうございます」
「心の準備はできた?」
「ううん、まだです。やっぱり、緊張しちゃって」
「大丈夫よ」
珍しく玲奈が断言した。
「優勝できる……とは安易に言わないけれど、いい線は行くと思うわよ」
「わたしは優勝しちゃうと思うな。だってマミちゃん、今やもう得葉曽高校の大人気キャラなんだから」
もみじが言った事は嘘ではなかった。う〇こモンスターの被害者を献身的に治療したあの事件から、マミの人気はうなぎ上りだった。
非公式のファンクラブまでできているという噂だった。
今や、『得葉曽高校のナイチンゲール』とまで呼ばれている。
(そうなのよ。ちょっと方向性は違うけれど、マミは可愛いって言っちゃえば可愛いのよ。マスコット的な可愛さだけれど。そこに、心のキレイさが加わって、一気に爆発したのおね)
玲奈が冷静に分析する。
「あ、そろそろ開始みたいだね。じゃあ、観客席で応援してるから」
「頑張ってね、マミ」
「は、はい」
マミに別れを告げ、もみじと玲奈は立ち去った。
そんな彼女達を、悔しさの滲む瞳で見つめている生徒がいる事にも気付かずに。
★
「マズいわ。マズいのよ。マズいったらないわ」
親指の爪を噛みながらブツブツと呟いているのは、サキュだった。
う〇こモンスターの暴走事件から急激に人気を上げたのがマミなら、逆に急激に人気を下げてしまったのがサキュだった。
たくさんの怪我人を放って逃げてしまった事が、たくさんの人に知られてしまったのだ。マミの献身的な行動とどうしたって比較されてしまう。
「サッキュん、心配しなくても大丈夫なのでは?」
Pの1人が言う。
確かに彼に言うとおりだった。腐ってもサキュパスだ。見た目の可愛さはもちろんの事、魅了の力も持っている。本番での魅了の使用はルール違反になるが、事前の使用は問題なし。
だから魔力の限界まで使って、男子生徒を魅了してきている。美少女コンテストの評価方法は、観客による投票と審査員による投票だ。男の審査員については、すでにサキュは魅了で陥落済みだった。
(あの件でパンピーの票が得られなくなったとしたって、審査員の大多数の票はこっちのものよ。でも……)
どうしたって母親の忠告が頭に蘇ってしまう。
「サッキュん、心配しないで。いくら出張保健係で人気になったって言っても、中身はあんな干物みたいなんだし。あれを見た生徒が投票なんてするはずないって」
別のPの言葉に、サキュが反応した。
「中身が干物? どういう事よ?」
「えっ? あのう〇こモンスター暴走事件の時、ミイラの娘が治療でたくさん包帯を使い過ぎて、腕の包帯がなくなってそこから」
Pが説明をする。
「そうよ。そうなのよ。そうだったのよ」
それまでとは打って変わった様子で、サキュが元気を取り戻した。
「フフフ、見てなさいよ。マミ。公衆の面前で、あなたの醜い正体をさらけ出してあげるんだから!」