その20 包帯まみれのナイチンゲール
う○こモンスターは退治されたものの、すべてが丸く収まった訳ではなかった。
悪臭を放つう○こモンスターの残骸はもちろんのこと、大勢の被害者がうめき声を上げている。
「ううううう、痛い……」
「ぐおおおおおおおお」
「…………」
中には言葉を発しない生徒もいた。気を失ってしまっているようだ。
そんな中、勢い良くやって来たのはセクシーナース姿のサキュだった。
「はいはーい☆ プリティーセクシーハートにどんきゅん! 出張保健係のサキュだよ☆ 癒しの魔法は痛いの痛いのとんでけー☆ サキュが愛情をたっぷり込めてお手当を……」
そこでサキュの前口上が止まった。
「な、何なのこれ!?」
想定していなかった光景に絶句する。
だって臭いし、汚いし、怪我人が恐ろしく多いし。
「ああ、噂のサキュパスさん! 早く手当を!」
怪我をした生徒達が、ゾンビのようにサキュに近付いていく。
「触手に打たれた所が打撲に!」
「跳ね飛ばされて全身、擦り傷だらけなんだ」
「いたたたた、骨が折れてるみたい」
これまでサキュが適当に手当してきた生徒達と違って、みんな重症だった。激しく流血している生徒だっている。
そして、う○こモンスターと接触しているからこそ、茶色く汚れてしまっている。
「サキュパスさん!」
「サキュパスナースさん!」
「助けて!」
ゾンビのように群がってくる被害者に向かって、
「ち、近寄らないで!」
サキュは思わず叫んでしまっていた。一度口を開いてしまったらもう後戻りはできない。
「あんたら臭いのよ! 汚いのよ! そんなの手当したらサキュまで臭くて汚くなっちゃうじゃない! それにそれに、ちょっとした手当でどうこうできるレベルの怪我じゃないでしょ!」
一分一秒だってこの場にいたくなかったサキュは、背中の翼を羽ばたかせさっさと逃げていってしまう。
「ああ、サッキュん!」
「待って!」
たくさんのP達もサキュを追いかけて去ってしまう。
「あっ、あのサキュパスの娘。逃げたよ」
もみじが非難するように言う。
「仕方ないでしょ。この惨状を見れば誰だって逃げたくなるわよ。それに、あの娘のなんちゃって治療でどうにかできるレベルじゃないし」
さすがに気持ちは分かると同情する玲奈。
「とにかく、早く先生や生徒会に連絡をしない……」
そこで玲奈は気付いた。
「マミ、あなた何をやっているのよ!」
マミは、一人の男子生徒に駆け寄って必死に包帯を巻いていた。
「まきまき まきまき まきまき」
「さすがにあなたの包帯でも荷が重いわ。ここは専門家に任せなさい」
「でも、苦しんでる人達をこのままにはしておけません!」
マミが、これまでにない力強さで言う。
「わたしの包帯で、少しでも痛みが和らいでくれるなら。まきまき まきまき まきまき」
驚くべき事に、大怪我に対してもマミの包帯は有効だった。激しい出血も包帯を巻かれると治まり、明らかに骨折していた腕も元通りになる。
「ああ、痛みが引いていく」
「指が、指が動くよ」
「ありがとう! ありがとう!」
涙を流して喜ぶ怪我人達。
マミはと言うと、休む事なく次から次へと治療をしていく。
「まきまき まきまき まきまき」
たくさんの包帯を巻き過ぎたのだろう。すでにマミの右腕はひじのあたりまで包帯がなくなってしまっていた。
カサカサに干からびたミイラの腕が現れてしまっている。
おまけに言えば、ナースエプロンはう〇こまみれだった。
「マミちゃん! そのままだと裸になっちゃうよ!」
もみじが指摘するも、
「いいんです! それで少しでも皆さんが楽になってくれるなら」
泣いた。
全生徒が泣いた。
きっと全米も泣いていただろう。
包帯の下の、お世辞にもキレイとは言い難いミイラの肉体をさらけ出す事もいとわず治療を続けるマミ。
玲奈もまた感動した。マミのミイラの腕を少しも怖いとは思わなかった。それだけマミの献身的な行為は気高い物だった。
治療され楽になった生徒の中には、涙しながらマミの影に口づけをする者まで現れた。
「まるでナイチンゲールだわ」
思わずそんな言葉を口にする玲奈。
教師や生徒会が駆けつけ、保険の先生が呼ばれ回復魔法をかけていく中でも、
マミは決して治療の手を休める事はなかったのだった。
「まきまき まきまき まきまき まきまき まきまき まきまき」




