その19 う〇こモンスターの暴走
部活棟の前のちょっとした開けた場所にて、事件は起こっていた。
『ヴモモモモモモモモ』
そんな声を上げて暴れまわっていたのは、茶色でぐねぐねした謎の生命体? だった。
ちょっとしたプレハブ倉庫ぐらいの大きさはあった。
体中に気持ちの悪い目や口があり、触手を振り回している。
部室から出てきた生徒達が、その犠牲になっていた。中には力の強そうなモンスターの生徒もいるが、触手の一撃で吹っ飛ばされてしまう。
「何なのよあれ」
おぞましい姿に、玲奈が顔をしかめる。
「それに、何? この匂い」
猛烈な悪臭が漂っていた。発生源は謎の生命体で間違いないだろう。
「モミジルスス!」
怪しい恰好をした女子生徒がもみじに気付き、近付いてくる。
「ハルミルススちゃん! どうしたの?」
「実験が失敗したのだ!」
「錬金術部の仕業だったのね」
玲奈がこめかみを押さえる。ひどい頭痛がしたのだ。
「錬金術部は活動中止になったんじゃなかったの? 生命錬成の実験は高速で禁止されているって」
「そんなことで、我々の探求心を留める事など不可能!」
ハルミルススは、堂々と胸を張った。
「開いていた部室に密かに実験道具を移動させ、再びホムンクルス作成に挑戦したのだ」
「でもでも、魔力水が手に入らないんじゃ?」
「この間、レイナルススが作ってくれた魔力水をこっそり残しておいたのだ」
「勝手な事しないでよ!」
玲奈がたまらず叫んだ。
「つまり、あの気持ちの悪い怪物は、錬金術部が作ったもので。それには少なからず私も関係しているってことなのね」
認めたくない事実だった。
「でも、どうしてあんなう○こモンスターが? 完全なホムンクルスが誕生するはずじゃ」
「おそらく、材料にした馬糞が腐ってしまっていたようだ。そして計算も間違っていたらしい。結果として、あんなう○こモンスターが誕生してしまったのだ」
「うん、どこからどう見てもう〇こモンスターだね」
「いかにも、う〇こモンスターだ」
「あーもう! う〇こ! う〇こ! 言わない!」
耐えられず、玲奈が叫ぶ。
う〇こモンスターは、ただ暴れまわるだけではなかった。体を震わせる度に、あたりにう〇こをまき散らしている。
もはや動く汚染物質と化していた。
「ちょっと! 何とかスス! 責任を取って何とかしなさい!」
「無理だ! レイナルスス!」
「レイナルススって呼ばないで! 仲間だと思われるじゃない!」
「部長!」
別の錬金術部の生徒が駆け寄ってくる。
「この間の実験で作ったこの溶解液を使えば、どうにかできるのでは?」
その手には、毒々しい液体の入った丸フラスコが持たれていた。
「溶解液?」
「この特殊容器であるフラスコ以外なら何でも溶かすことのできる液体だ」
「危ない物ばかり作ってるんじゃないわよ!」
この件が終わったら、錬金術部は完全に廃部にするべきだと生徒会に進言しようかと玲奈は本気で思った。
しかし今はう○こモンスターをどうにかする事が先だ。
「この瓶の液体を振りかければ倒せるのね」
「そうだ。しかし瓶はこの一本だけ」
「分かった。それならわたしに任せて!」
もみじがフラスコを受け取った。
錬金術部の生徒達も、さすがに責任を感じているのだろう。う○こモンスターの中を引くという作戦に出る。
「今だ! モミジルスス!」
十分にう○こモンスターの注意を引きつけてから、ハルミルススが叫んだ。
「行っくよーーーーーーーー!」
もみじがう○こモンスターに向かって果敢に駆け寄っていく。
すべては上手くいくと思われた。そう、もみじが飛び散ったう○こに足を滑らせたりしなければ。
「あっ!」
ツルっと滑るもみじ。ポーンと大きく放り投げられる溶解液の入ったフラスコ。それは丁度もみじの真上へと飛んでいく。そして当然、落ちてくる。
「ああ、このままではモミジルススが溶けてしまう!」
「惜しい同士を失くしてしまった」
嘆く錬金術部の部員達。
「勝手に諦めない!」
玲奈は意識を集中した。風の魔素を集める。
「ウインド!」
玲奈の魔法が発動した。もみじの顔面まで迫っていたフラスコが風で軌道を変え、う○こモンスターの方へと飛ばされる。
おそらく頭と思われる部分に当たるフラスコ。ガラスが割れ、流れ出た液体がう○こモンスターにかかった。
『ヴオオオオオオオオオオオオオ』
断末魔の悲鳴を上げるう○こモンスター。その体が溶解を始める。
数分もたてず、う○こモンスターは悪臭を放つ茶色い液体となったのだった。




