その16 校舎裏のマミと玲奈の閃き
そして翌日。
朝の得葉曽市。玲奈が電柱の所で待っていると、
「おっはよ~。玲奈ちゃ~ん」
お馴染みの呑気な声がやって来た。もちろん声の主はもみじだった。
笑顔のもみじは、鞄の他に何やら大きな紙袋を持っている。
「もみじ、何となく想像がつくけど。その紙袋の中身は何?」
恐る恐る玲奈が尋ねると、
「もちろん、マミちゃんの衣装だよ!」
もみじは元気一杯に答えた。
「昨日のサンバでアミーゴは間違ってたから、今日はまた別の衣装を持ってきたんだ」
「昨日の今日で、よくもまあそんなに前向きになれるわよね」
玲奈な呆れた息を吐き出す。
「だって、サキュパスの女の子にあんな事言われて、玲奈ちゃんだって悔しいでしょ?」
「それはまあ、感じ悪い娘だとは思ったけど」
「だったら、全力でマミちゃんをプロデュースしてだの娘の鼻を明かしてやろうよ!」
鼻息も荒く主張するもみじ。
(向うは素で可愛い上に、魅了の力まで持っているのよ。一体どうやって戦おうって言うのの)
半ば諦めの表情で、玲奈はもう一度盛大なため息をついたのだった。
★
放課後。
マミとの待ち合わせをしていた中庭へと、もみじと玲奈は到着する。
しばらく待っていると、マミが重い足取りでやって来た。
「マミちゃん、待ってたよ。今日はまた別の衣装を持ってきたんだ。きっとバッチリのが見つかるだろうから頑張ろう」
「あの、ごめんなさい」
マミは申し訳なさそうに深く頭を下げた。
「わたし、美少女コンテストに出るの、辞めます」
「ええええ!」
マミの発言に目を見開いて驚くもみじ。一方、玲奈は、この事態を想像していたかのように冷静だった。
「どどど、どうして?」
「サキュちゃんの言うとおりだったんです。わたしなんかが美少女コンテストに出るなんて、おこがましかったんです」
すっかり意気消沈した様子のマミ。
「でもでもでも、せっかく衣装も持ってきたし。もしかしたらバッチリなのが」
「もみじ、もう止めてあげたらどう?」
マミの事を気遣って、玲奈がやんわりと提案する。
「無理して出場して彼女に恥をかかせても仕方ないでしょ。本人がもう辞めるって言ってるんだから、大人しく諦めましょ」
「い・や・だ!」
もみじは強く首を横に振った。
「わがまま言わないで」
「わがままじゃないよ!」
もみじがまっすぐな目で玲奈を見る。
「だって、マミちゃんは言ったんだよ。お友達が欲しいって。美少女コンテストに出て、みんながマミちゃんの魅力に気付いてくれたら、きっと友達だってたくさんできるはずだよ!」
「もみじ……」
てっきりPがしたいという自分の欲求だけでマミを美少女コンテストに出そうとしていると思っていたが、もみじなりにちゃんと彼女の事を考えていたようだ。
「わたしだって、お友達がたくさんできればいいと思います。でも、出場したってみんなに笑われてしまうだけで……」
「そうね……」
少しだけ考えてから、玲奈はもみじに尋ねた。
「ねえ、もみじ。そもそもとしてなんだけど、どうしてマミを美少女コンテストに出そうと思ったの? 別にマミが可愛くなって言ってるわけじゃないわ。でも、ちょっと方向性が違うってことぐらい、あなたにも分かるでしょ」
「うん! でもあたしは、包帯をまきまきしてもらった時、マミちゃんが天使……ううん、女神様のように見えたの! それぐらい優しくて、暖かだったから」
「なるほどね」
玲奈はマミの姿をじっと見る。
「あの……何か?」
戸惑うマミをたっぷりと観察してから、
「試してみる価値はありそうね」
玲奈はもみじの紙袋を指さした。
「ねえ、もみじ。その袋の中の、あの衣装ってあるかしら?」
「あの衣装?」
「そうあの衣装」
玲奈がもみじに『あの衣装』がどんな衣装なのかを伝える。
「あっ、それならあるよ」
もみじが紙袋の中に手を突っ込み、あの衣装を引っ張り出した。
そしてお着換えタイムが始まった。
数分後、完成する。
「できた!」
そこに立っていたのは、ナースエプロンとナースキャップを身に着けたマミの姿だった。
「うん、似合ってるね」
「少なくとも、サンバの衣装よりはしっくり来ているわね」
玲奈も満足気味に頷く。
「じゃあ、本番はこの衣装で出場って事で」
「待って、もみじ。それじゃ意味ないのよ。本番までに、どれだけファンを増やしておくかが重要なんだから」
玲奈はマミを見つめ、言った。
「マミ、あなたはこれから得葉曽高校の出張保健係になりなさい」