その15 サキュパスママの忠告
たくさんのP達を引き連れて、サキュがやって来たのは校舎の空き校舎だった。
「今日の椅子係は誰かな☆」
「はい、小生であります!」
1人のPが、すかさずその場に四つん這いになる。サキュは躊躇うことなくPの背中に座った。
「ああ、俺もサッキュんの椅子になりたい!」
「次の椅子係は……ああ、あと5日もある」
他のP達が、人間椅子にされたPを羨ましそうに眺める。椅子になっているPは、それはもう恍惚とした表情を浮かべていた。
「喉渇いちゃったかな☆」
「どうぞ! 準備しておきました!」
「うわ~☆ 体に悪そうな炭酸飲料☆ アタシちょっと苦手かも~☆」
「サッキュんはフルーツジュースしか飲まないんだぞ!」
「買ってきてくれると嬉しいかな~☆」
「はいっ!」
P達が慌ただしく教室を飛び出していく。数分後、ドタバタと慌ただしく戻ってきた彼らの手には、様々な種類のフルーツジュースが握られていた。
「サッキュん! オレンジジュースです!」
「僕は、グレープフルーツ!」
「ぶどうジュースなんてどうです!?」
「ゴーヤっす! 苦味がたまらないっす!」
「う~ん☆ どうしよっかな~」
大袈裟に悩む素振りを見せてから、
「じゃっ☆ 今日はぶどうジュースをもらっちゃうね☆」
1人のPが持っていた紙パックのジュースを受け取った。
「よっしゃー!」
ガッツポーズを決めるP。
「くそう! 今日のサッキュんはぶどうジュースの気分だったんか!」
「俺もぶどうジュースにすれば良かった!」
「次こそはゴーヤを!」
「バカ! お前のゴーヤが選ばれる日は永遠に来ねーよ!」
「そんな~~~!」
馬鹿なやり取りをするP達を眺めながら、サキュは紙パックのぶどうジュースを口にする。
「でもま☆ これでマミも美少女コンテストを諦めるでしょ☆」
満足気に呟く。
「サッキュん。ちょっと疑問に思ったんだけど」
メガネをかけた知的そうなPが、サキュに話しかけた。
「あのマミって娘に、わざわざ釘をさしに行く必要ってあったのかい? どう考えたってサッキュんの敵じゃないだろうに」
そうだそうだと、他のP達も頷いた。
「…………」
何故かサキュは押し黙った。表情が硬くなっている。
(もちろんそうよ。アタシがあんなちんちくりんに負けるはずないわ。でも……)
サキュの頭に浮かんだのは1人の女性の姿だった。ゴージャスでダイナマイトな大人の女性だ。
『いい、サキュ。ママの言う事を良く聞きなさい』
大人の女性、サキュの母親である成熟したサキュパス、サキュパスママが真剣な表情で言う。
『サキュ。あなたは私の自慢の娘よ。まだ成熟していないけれど、美貌も申し分なし。魅了の力も十二分に強いわ。どんな種族の娘にだって負けるはずがない。でも、ミイラの女の子にだけは気を付けて。もし美を競い合うような事になったら、迷わず辞退しなさい。いいわね』
『ミイラってあの包帯まみれの? どうしてよ。あんなのにアタシが負けるはずないじゃない』
『これは私の黒歴史だから伝えたくなかったのだけれど』
サキュパスママは、深くため息をついてから呟いた。
『私、魔界美女コンテストで1度だけ負けてしまった事があるのよ。その時の相手が、ミイラの女性だったの』
『えっ、どうしてママみたいな美女が負けたりするの? おかしいよ!』
『これ以上は語らせないで。とにかく、ミイラには気を付ける事、いいわね!』
人間界に留学する前に、サキュパスママと交わした会話をサキュは思い出していた。
(ママが負けたなんて絶対何かの間違いよ。でも、万が一って事もあるし。念には念を入れておかなくっちゃ!)
空っぽになったジュースの紙パックを、サキュは力強く握りしめた。
「男を魅了しメロメロにさせるモンスターとして、アタシは絶対負けられないのよ!」




