その14 登場! サキュパス娘
そんな小生意気な声とともに、彼女はもみじ達の前へやって来た。
一言で言えばギャル。二言で言えばギャル。三言で言ってもギャル。
そんな少女だった。
少女は、改めてサンバでアミーゴしているマミを見る。
「プークスクス☆」
そして笑った。最高に馬鹿にした笑いだった。
「サキュさん」
マミが声を上げる。
「知ってる娘?」
玲奈が尋ねると、
「あ、はい。クラスメイトのサキュちゃんです。いつもキラキラしているサキュパスの女の子です」
「ってことは後輩なのね」
年下ってことで、もみじはちょっっと先輩風を吹かしてみた。
「ちょっと! サキュちゃん。いきなり笑うなんて失礼なんじゃないの!?」
先輩風は、そよ風程の威力もなかった。
「じゃあ~☆ 先輩にい~☆ お聞きするんですけど~☆ これを見て笑うなって言う方が無理じゃないですかぁ?☆」
丁寧語だけど、最高に馬鹿にした言い方だ。そして『これ』って言うのは、もちろんサンバでアミーゴしているマミのことだ。
「そんなこと・・・ナイヨ」
途端に弱気になるもみじ。瞳も泳ぎまくっている。
玲奈は最初から反論を諦めていた。だってサンバでアミーゴしているマミは十分過ぎるぐらい面白いのだから。
(美少女コンテストじゃなくって、お笑い仮装コンテストだったら優勝を狙えるかもしれないわね)
マミには悪いけど、半ば本気でそんなことを考えてしまう。もちろんそんな種目は文化祭にはないのだが。
「ねえ、マミ☆ クラスメイトからの忠告よ☆ アンタみたいなイモっぽいミイラっ娘が美少女コンテストに出るなんてムリムリのムリ☆ さっさと諦めるのが賢明よ☆ しかもそんなポンコツPと一緒じゃね☆」
さりげなく、だがしっかりともみじ達のことディスってくる。
「何ですって!」
「もみじ、落ち着いて。私達がポンコツPなのは間違いないことなんだから」
ふんす、ふんすと鼻息を荒らすもみじを玲奈がたしなめる。
「それに☆ もし100万分の1☆ ううん☆ 1000万分の1☆ ううん☆ 1兆億万分の1の確率でアンタがもうちょっとマシな格好になったとしたって☆ 美少女コンテストで優勝なんて絶対☆ 絶対☆ 絶対☆ ムリムリムリ☆」
サキュが胸を張る。
「だってだって☆ 美少女コンテストはこのアタシ☆ 超絶美少女のサキュが出場するんだからっ☆」
そこでサキュはパチリと指を鳴らす。
待ってましたとばかりに、たくさんの男子生徒が一斉に集まった。
みんなして目がちょっと正気じゃなかった。
「ほらこんなに☆ 優秀なP団があつまってくれてるしね☆」
「そうだそうだ!」
「優勝はサッキュんで決まりだ!」
「サンバでアミーゴは引っ込んでろ!」
「タコース!」
心ない罵声までもが浴びせられる。
マミは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「ちょっといい?」
玲奈が冷静にサキュに尋ねる。
「私はあまりモンスターに詳しくないのだけど。確かサキュパスって男性を魅了させる能力を持っていたのよね。そこの男子達、魅了されているわよね。それは反則じゃないのかしら?」
「おあいにく様☆ センパイ☆ 美少女コンテスト本番での魅了の使用は反則になるけど☆ 準備段階では問題ナッシング! それに魅了なんて使わなくたってアタシ☆ 全然優勝狙えるんで☆」
パッチンとウインクをする。
確かにサキュは素の状態で十分に美少女だった。
玲奈はサキュと、そしてサンバでアミーゴ・・・もとい、マミを交互に見比べる。
(これは負けたわね)
考えるまでもなかった。
「じゃっ☆ そーゆーことなんで☆ マミ☆ おかしなセンパイに乗せられて身分不相応な夢を見ないよーに☆ じゃーねー☆」
まるでアイドルのように胸の前てピラピラと手を振ってから、サキュは軽やかな足取りで教室を出ていく。
「待ってサッキュん♡」
「置いていかないで♡」
それを追いかけるたくさんのP達。
「意地悪な女の子! 玲奈ちゃんはおかしなセンパイなんかじゃないよ!」
憤るもみじに、
「もみじ、それ、あなたの事だから。私を一緒にしないで」
冷静に突っ込みを入れてから、玲奈は少し不思議そうな顔をする。
(でも、少し奇妙よね。あのサキュって娘。魅了の力を抜きにしても十二分に可愛いのよね。マミなんて意識しなくていいのに。どうしてわざわざ突っかかってきたりしたのかしら?)




