その13 〇〇〇でアミーゴ♪
翌日の放課後。
使われていない空き教室、もみじと玲奈、そしてマミの3人はやって来ていた。
「あの、今日は何を?」
ミラが不安そうに尋ねる。それで言えば玲奈も不安だった。
だってもみじが、ものすごくやる気満々の顔をしていたからだ。
鼻息だってフンスフンスと聞こえてくる。
もみじがこういった状態になった時は、ロクな事にならないと怜奈はよく分かっていた。
「今日はね、マミちゃんの衣装合わせだよ♪」
声を弾ませもみじが言う。
「ミラちゃんはとっても可愛いんだけどね。ちょっぴり地味だから。少しイメチェンしてコンテストのステージに立った方がいいかなって思ってね」
(ちょっぴり地味?)
玲奈は改めてマミを見た。
小柄な体型は、小学生と言われても納得してしまいそうだ。
そこに女性らしい凹凸は皆無だった。
円らと言えば聞こえはいいが、ただただポッカリと空いただけの瞳。
一言で言ってしまえば虚無の顔。
それはもう地味だった。キングオブ地味だった。
(そもそも、素顔を包帯で隠してる段階で美少女コンテストに参加って無理があるんじゃないかしら?)
今更ながらそう思うも、フンスフンスと鼻息を荒くしているもみじを止める気力は玲奈にはなかった。
「まずは、服装を変えてみよっかな。今時のおしゃれな服装に」
もみじは持っていた紙袋から服を引っ張り出した。
「ちょっとこれに着替えてみてくれる? あっ、大丈夫。わたし達は後ろを向いてるから恥ずかしくないよ」
「は、はい」
もみじと玲奈は後ろを向いた。マミが着替えるゴソゴソという音が聞こえる。
(そもそも、全身包帯で巻いてるんだし。制服を脱いだところで恥ずかしくはないような?)
そんな事を玲奈が考えていると、
「着替えました」
というマミの声。2人は振り返る。
マミが、今時のおしゃれな服を着ていた。
「………………あまり変わりないわね」
玲奈が正直な感想を口にする。
いくらおしゃれな服を着たところで、素体が地味なのだからどうしようもない。
逆に服の方が目立ってしまって、違和感を感じる程だ。
「うーん、もうちょっとって感じだね。じゃあ次はこれをかぶってみちゃおうか」
紙袋から取り出したのは長い髪の毛のウィッグだ。
「わ、わたし、髪の毛なんてつけた事」
「いいからいいから。えいっ!」
もみじが半ば強引にマミにウィッグをかぶせる。
マミがロングヘア―になった。
ただそれだけだった。
「もうちょっと、目鼻立ちがくっきりした方がいいのかも」
続いてもみじが取り出したのは、お化粧セットだった。
「じゃあ行くよー」
「待ちなさいもみじ」
玲奈がもみじを止めた。
「あなたがやると、コントみたいなお化粧になってしまいそうだからここは私がやるわ」
もみじがお化粧セットを半ば強引に奪い取る。
「包帯が汚れちゃうけどごめんなさいね」
「は、はい」
すっかりなすがままのマミに、玲奈は軽くお化粧を施した。
「…………あまり変わらないわね」
元々が虚無の顔なのだから、多少、化粧をした所で大して変わらない。
「もみじ、これは無理よ」
早くも敗北宣言を上げる玲奈だったけど、
「大丈夫、まだまだ衣装はたっぷり用意してきたんだから」
もみじは、巨大な紙袋を誇らし気に持ち上げた。
「例えマミちゃんが地味だったとしたって、足し算に足し算を重ねればきっとゴージャスな美少女になれるはず!」
根拠のない自信をぶちまけるもみじ。
終わりのない足し算の始まりだった。
そ・し・て……
「…………」
「…………」
何だかもうありえない姿になっていた。
サンバでアミーゴだ。
この姿になるまで、足し算を続けたもみじもすごいが、
この姿になるまで、なすがままにされていたミラもすごかった。
玲奈なため息をついた。
「うーん、計算は間違いなかったはずなのになー」
もみじも困惑顔だ。
「もみじ、計算は最初から間違っていたのよ。あなたがどぎついお化粧をした時からね。そしてサンバの衣装が紙袋から出てきた瞬間に、もうすべてが終わったの」
玲奈が冷静な分析をする。
「あの、わたし、どんな感じでしょうか?」
鏡がないので不安気に尋ねるミラ。
彼女に鏡を見せる非情な心を玲奈は持ち合わせていなかった。
「何て言うか、ちょっとミスマッチって言うか」
玲奈が言葉を濁す。
「似合ってない訳じゃないんだけど、ミラちゃんの良さが消えちゃったかな? ミラちゃんがアミーゴになっちゃった感じ。オーレ―! 真夏のカーニバルだね♪」
苦し過ぎて訳の分からない事を言い出すもみじ。
と、そんな時だった。
「キャハハハハハハハハハ☆ 何よそれそれ何よ?☆ アンタ☆ お笑い目指してんのー☆」
人を小馬鹿にしたような、甲高い声が教室内に響いた。




