その12 ついにP誕生
「大変! 早く『まきまき』しないと!」
そんな声と共に、その女子生徒は短い手足を動かしちょこまかちょことまかともみじの元へやって来た。
「出血大サービスだよ! うっぴょおお!」
そんな意味の分からない言葉を叫び、もみじはその場にぶっ倒れてしまう。
相変わらず血はピューピューと吹き出したままだ。ゾーラ先輩の蛇の出血毒はなかなかの効力のようだ。
このままではもみじは出血多量で死んでしまう!
そんな大ピンチの中、その女子生徒は倒れたもみじに傍らにしゃがみ込んだ。
「今、『まきまき』しますからね」
そう告げると、豊富に持っていた……と言うか、身に着けていた包帯を解き、それをもみじの頭に巻き付ける。
「まきまき まきまき まきまき まきまき まきまき まきまき まきまき」
独特のリズムで繰り返される『まきまき』。たちまちもみじの顔のは包帯でぐるぐる巻きにされてしまう。
効果は抜群だった。もみじの頭の出血が止まった。
「はっ、あたしは一体」
正気に戻るもみじ。
「もみじ、あなた、美少女コンテストでプロデュースするとか言って大騒ぎしていたのよ。で、頭から血を出して倒れたの。そんなあなたにその……」
チラリと女子生徒を見る玲奈。
(女の子……でいいのよね?)
確認をしてから、言葉を続ける。
「彼女が包帯を巻いてくれたのよ」
「あ、そうだったんだ。あたし、そんな無茶な事を玲奈ちゃんにお願いしようとしてたんだ。きっとゾーラ先輩の毒のせいだね」
もみじはしれっと先程の自分の暴走をゾーラのせいにした。玲奈には呆れた目で見られるけど、そんなことはもう慣れっこだ。と言うか、気付いてもいないし。
「ありがとう」
そこでもみじは、改めて自分を救ってくれた女子生徒を見た。
「あ………」
もみじの口をポカンと開けた。まじまじと女子生徒の事を見る。
「あの、大丈夫ですか? わたしの包帯には傷の治りを早くする効果もありますけど、念のために保健室に行った方が」
心配そうにそう提案する女子生徒に向かって、
「見つけたああああああああああああああ!」
もみじの歓喜の叫びが響いた。
もみじは、自らに包帯を巻いてくれた女子生徒の手を握った。
「学年は? クラスは? 名前は?」
「え、えっと、1年C組のマミです」
「そう、マミちゃんなんだ。可愛い名前だね」
うんうんと頷いてから、もみじは熱い瞳で言った。
「マミちゃん! あたしとそこにいる玲奈ちゃんがプロデュースするから、文化祭の美少女コンテストで優勝を目指そう!」
「えええええええええええええええ!」
驚くマミ。
「えええええええええええええええ!」
同時に驚く玲奈。
「もみじ、ちょっといいかしら?」
「えっ、何? あたし忙しいんだけど」
「いいから」
玲奈が強引にもみじを引っ張って少し離れた場所へと向かう。
そこで小声で尋ねた。
「もみじ、本気?」
「何が?」
「だから、あの娘を美少女コンテストに出場させるって事」
「もちろん! 本気のビッグバンだよ!」
意味不明な事を言い、やっぱり熱い瞳を燃え上がらせるもみじ。
「でも……」
玲奈は、チラリと女子生徒、マミへと目を向けた。
もみじが誰をプロデュースしようが玲奈は別にかまわない。先程の様に自分にとばっちりが向かって来なければ問題ナッシング。
だけど、それでももみじのこの発案には抵抗を感じないではいられなかった。
だって
マミは
………美少女という言葉とは程遠い存在だったから。
と言うか、全身を包帯で巻いているから素顔が分からない。一応、ポッカリと開いた目と口は確認できるものの、制服を着ていなかったら性別だって分からなかったぐらいだ。
ミイラ
モンスターに詳しくない玲奈でも、マミの正体がそれである事は理解する。
普通の高校だったら、包帯を巻いたコスプレだと思うのだろうが、ここはモンスターの生徒が普通に存在する非常識な高校だ。
彼女は本物のミイラなのだろう。
何重にも巻かれた包帯の下にはどんな干からびた体が隠されているか?
想像しただけでもちょっと目眩がしそうだった。
「ねえ、もみじ。私の認識が間違ってなければ、彼女はミイラよね」
「うん、間違いないよ。1年生にミイラの女の子が留学生として転入して来たって聞いた事あるもん」
「もみじは美少女コンテストに記念参加するつもりなの? 結果なんて気にしないで」
「ううん、出るからには優勝を狙うつもりだよ!」
「優勝って」
玲奈はまたマミを見た。
モンスターが苦手な玲奈でも、そこまで怖いと思わないのは包帯まみれの彼女の姿が妙に可愛らしく見えるからだ。
(挿絵希望、ちょこんとしたマミの姿。もみじや玲奈は入れなくても可です)
「ある意味、可愛いとは思うわよ」
でもそれは、マスコットとか小動物に対して感じるような可愛さだ。
「でも、美少女コンテストで優勝ってのはさすがに無理があるんじゃ」
つい本音が口をついて出る玲奈。
「マミちゃん! 文化祭の美少女コンテストに出場しない?」
「え、わたしが!? そんなの無理ですよ」
ぶんぶんと首を横に振るマミ。
「大丈夫! あたしと玲奈ちゃんとでバッチリプロデュースするから!」
確実に玲奈も巻き込まれてしまっている。
「でも」
「大丈夫」
「でも」
「大丈夫」
「でも」
「だいだいだいの、大丈夫」
もみじと怒涛のような説得が押し寄せる。
困ったような仕草を見せていたマミだったが、おずおずとこんな事を尋ねた。
「美少女コンテストに出れば……お友達、増えますか? わたし、転入して来たばかりで、まだお友達がいなくって」
「大丈夫!」
無責任もみじが叫ぶ。
「美少女コンテストに出場したら、友達なんて100万人ぐらい楽勝だよ!」
(もみじ、せめてもう少し信憑性のある数字にしなさいよ)
呆れる玲奈だったけど、このもみじの説得がマミには響いたようだ。
「わたし、恥ずかしがり屋で、人みしりですけど、でも、お友達が出来るなら、頑張りたいです!」
この瞬間、もみじPと玲奈Pが誕生したのだった。




