その2 意外とまともな美少女コンテスト
「美少女コンテスト……ね」
玲奈なその噛みしめるようにその言葉を口にする。
文化祭ではわりとメジャーなイベントなのかもしれない。
でもここは、モンスターの留学生がわんさかいる得葉曽高校だ。
「それは、ステージ上で女の子が血みどろの戦いを繰り広げるような、そんなイベント?」
「ううん、違うよ。普通の美少女コンテストだよ」
「キモさやグロさを競うような?」
「だから、普通の美少女コンテストなんだって」
もみじが強く訴える。
(まあ、参加者の中にはモンスターの女の子も含まれるから、パフォーマンスの一環として首を取り外して見せたりするなんてこともあるかも。そもそもこの学校の生徒の美的感覚が通常とは言い難いし)
ブツブツと呟いている玲奈に、もみじは取り出したスマホを何やら操作している。
「はい、これが昨年の美少女コンテストの写真だよ」
ずずっとスマホの画面が突き出された。
玲奈は恐る恐る画面を見てみるものの……。
「あら?」
それは、いたって普通の美少女コンテストだった。
確かによく見れば動物の耳の生えたモンスターの女の子も参加していたりもしたが、決しておぞましい光景ではなかった。ちゃんとした美少女だった。
「意外と真面なのね」
「もー、玲奈ちゃん。普通の美少女コンテストだって言ったでしょ。疑り深いんだから」
(こんな学校に放り込まれたら、そりゃ疑り深くもなるわよ)
心の中で毒づく玲奈。改めてスマホの画像を見る。
例えモンスターでも、可愛いい女の子は普通に可愛いと思えた。
それだけでも自分は成長したのかなと玲奈は思う。
(それだけ、慣れてきてしまったってのもあるかもしれないけれどね)
諦めたようにため息をつく玲奈の隣で、もみじが爆弾発言をした。
「わたし、今年は美少女コンテストに挑戦してみようと思うんだ!」
「えっ?」
玲奈は固まった。
「得葉曽高校文化祭を代表するイベントなんだもん! やっぱり一度は参加するっきゃないよ!」
もみじは燃えていた。ひたすら燃えていた。
その瞳の中に炎が見えたような気が玲奈はした。
最初はおせっかいで怖い物を押し付けてくるお元気お気楽お困り娘だったもみじだけど、今では彼女のことを玲奈は一応、そう一応、友達だと思っている。
(だからこそ、言ってあげないと)
心に決めた。そして、言葉をオブラートに包んで、それはもう三重ぐらいに包んで伝えることにする。
「あのね、もみじのことが可愛くないって言ってるわけじゃないのよ。でも、美少女って感じでもないような気が。ううん、参加することは悪いことじゃないと思うわ。でも、残念な思いをするぐらいならチャレンジしない勇気ってのも必要だと思うのよ」
「ひっどーい。美少女コンテストにわたしなんてお呼びじゃないって言いたいのー」
ぷーってむくれるもみじ。
「あっ、でもでも、審査員に前の吸血鬼先輩みたいな変わり者がいれば、面白い女の子枠での入賞だってありえるかも。あと、遠慮のない女子枠とか。人の話を聞かない女子枠とか。そう! あれよ!」
玲奈は、これだとばかりに言い切った。
「天然女子枠よ!」
フォローになっているようで、ちっともフォローになっていない。
だけどもみじは怒ることなく、プーっと盛大に吹き出した。
「なんてね、分かってるよ。わたし、美少女コンテストに出場しようなんて思ってない。可愛い女の子が一杯いる中で、わたしなんてお呼びじゃないから」
「じゃあ、挑戦してみようって言うのは?」
「そう、それはね!」
再びもみじは拳をぐぐっと握り締め、力強く叫んだ。
「わたし、Pになりたいの?」
「P?」
しばしキョトンとしてから、
「ポンコツ女子ってこと? 美少女コンテストにそんな枠、あるのかしら? でもそれだったら確かにもみじでも優勝を狙えるかもしれないわね」
「ちっがーーーーう! Pは、プロデューサーのPだよ!」
なるほどと、玲奈は納得する。
「わたしがプロデュースした女の子を、美少女コンテストで優勝させる! それってすごいことだと思わない!」
少なくとももみじが出場するよりは、ずっと有意義な活動に思えた。
「なるほど、分かったわ。私は帰宅部で特に予定もないし。協力できることがあったら協力するわ」
一度ぐらいは文化祭で思い出を作っておくのも悪くないと思った玲奈は、もみじに協力を表明する。
「ありがとう、玲奈ちゃんが一緒だったら鬼に金棒、河童のオナラプーだよ!」
大感激で玲奈の手を握るもみじ。
「あの、もみじ。鬼に金棒は分かるけど、河童のオナラプーって……何?」
「えっ、知らないの? すごく臭くて、誰もかなわないって諺だよ」
当たり前のように答えるもみじ。
(違うわ、そんな諺、聞いたこともないわ。きっとこの街だけの諺なのよ」
盛大につっこみを入れたい玲奈だったけど、それは止めておいた。
この街に暮らしていると、こういったことは日常茶飯事。いちいち突っ込んでいられないのだ。
「それで、まずはどうするの?」
「うん、最初はスカウトからだよ。美少女コンテストで優勝できそうな美少女に声をかけてコンテストに参加してもらえるように頼むの。わたしの他にもPを目指してる生徒はたくさんいるから、早い者勝ちなんだ」
「えっ、もみじの他にもPを目指してる生徒がいるの?」
「そうだよ。だってPになれば美少女とお近づきになれるし。それにP用の優勝賞品だって用意されてるぐらいだし」
「変わった美少女コンテストなのね」
「感心してないで、行こ!」
走り出すもみじ。
「ちょっと待ってよ」
もみじを追いかけながら、玲奈は考える。
(もみじ、誰をスカウトしに行くつもりなのかしら? もみじがよく口にしている美少女って言うと……)
ちょっとだけ、予想はついた。