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異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
SPコラボ企画 悪夢のデビルリス君
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その13 女神と大悪魔

 校舎から少し離れたテニスコート、その半分に魔方陣が描かれ、もう片方には祭壇が組まれる。


 幸い、デビルリス君とウシエルは校舎を破壊するのに忙しく、こちらに余裕はなさそうだ。


 時定は、生徒たちを非難させるため采配を振るっていてこちらには来ていない。


 主に祭壇の準備は、もみじと玲奈、それからやたら顔が広いもみじが誘った生徒たち。


 魔方陣の方は、デルデルの呪いで恥ずかしい恰好のままの召喚クラブのメンバーが作成していた。


「女神オカンヴィーナスに大悪魔デビルリス美ママかあ。わたし、全然知らなかったなあ」


「オカンヴィーナスってのがあの牛のお母さんなのよね。それでデビルリス美ママが、性悪リスのお母さん。ちょっと分からないのが、デビルリス美の方よ。性悪リスって、もとは天使だったんでしょ。だったらそのお母さんだって天使だったんじゃ」


「ああ、それなら僕、噂で聞いたことがあるぞ」


 額から角の生えた、明らかに魔界からの留学生である男子生徒が答える。


「もともとはリス美ヴィーナスって女神だったけど、とにかく恋多き人だったんだって。夜の街で出会った怪しい魔界の男に恋をして、一緒に魔界にやって来たらしいよ。もっとも、その男の方は牢屋に入っちゃってるけど。なんか危ない取引のせいで」


 どんな危ない取引をしようとしたのかは、玲奈は考えないことにした。聞いたって怖くなるだけだろうから。


「とにかく、デビルリス君もウシエル様も、お母さんの言うことならちゃんと聞くと思うんだ。これはもう、2人を呼ぶっきゃないよ」


 不安もあるものの、確かに他に手はなかった。


 ちなみに、デビルリス美ママを呼び出す魔方陣には大量の酒瓶が置かれ、オカンヴィーナスを降臨させる祭壇には牛乳が捧げられている。これらの知識は、反省した召喚クラブのメンバーがもたらしたものだ。


 いまだ、デビルリス君とウシエルによる暴走は続いている。急いで止めなければ、校舎の全壊は免れない。


「じゃあ、始めよう」


 召喚クラブのメンバーが、召喚の儀を始める。


「スナックナックック……スナックナックク。我らは求め訴えたり。魔界の歓楽街にて暗躍せし魅惑の瞳を持つ者よ。我らの要求に答え、その姿を現せ」


 そして、その名前が告げられる。


「大悪魔デビルリス美ママ!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 地響きと共に、魔方陣から硫黄臭い……いや、酒臭いピンク色の煙が噴き出した。


 煙の中からは大悪魔リス美ママが現れた。


(想像はしてたけど。リスよね)


 デビルリス美ママ。デビルリス君とは違って、当然女性……いや、メスだ。背中にはコウモリの羽根。ピンク色の着物姿で頭には花のアクセサリーをつけている。


 なんだかお水の雰囲気が拭えない。


「玲奈ちゃん、わたしたちも!」


「ええ、分かったわ」


 玲奈たちも降臨の儀を始める。渡された紙に書かれていた言葉を読んだ。


「ホールホルホルホールホル。天界一の肝っ玉を持つ偉大なる母よ。迷える子羊たる我らの窮地をすくうべく、その美しい巨体を見せたまえ」


 息を吸い込み、叫ぶ。


「女神オカンヴィーナス!」


 華々しい音楽とともに、天空からゆっくりと下降してきたのは巨大な貝だった。


(貝って……)


 玲奈の頭に、名画、『ヴィーナスの誕生』が思い浮かぶ。


 着地した貝が、ゆっくりと開く。


 その中にいたのは……。


「玲奈ちゃん、女神オカンヴィーナス様よ! キレイね」


「キレイ?」


 二本足で立ち、悩まし気なポーズを取っているのは……やっぱり牛だった。天然パーマで、エプロンをつけている。


 ザ・主婦って感じだった。


挿絵(By みてみん)


現れた2匹は、お互いに顔を合わせた。


「あらあ、誰かと思ったらリス美ママヴィーナスさんやないのー。あっ、今は違うんやったね。デビルリス美ママさんやな」


「おひさしぶりぶりー。オカンヴィーナスさん。私が魔界に行ってからだから、かれこれ300年振りかしら~? 旦那さんは元気?」


「デビルリス美ママさんのスナックが閉店になって、えろう落ち込んでしまったやがな。小遣いの範囲で飲みに行けるお店、あんたんとこだったさかいに」


「だったら、魔界にいらっしゃいよ。新しいお店を開いてるのよ」


「そないなこと言ったら、亭主、間違いなく魔界に行りびたってまうで。オトンエルからデビルオトンになってまうわ。あっはっは」


 いきなり世間話を始める。


「そうそう、デビルリス美ママさん。三丁目のブタエルさんとこの奥さんがこの前――」


しかも終わる気配を見せない。


「あ、あの!」


 入っていきづらい妙なプレッシャーを感じさせるも、玲奈は勇気を出して口を挟んだ。


「お話中悪いんですけど、お願いがあるんです」


「そうよね。でなければ呼び出されないものね」


「なんや? なんでも言うてみーや」


 デビルリス美ママ、オカンヴィーナスが玲奈に注目する。


「今、性悪リスと牛が……」


 つい口が滑りそうになってしまうが、玲奈は慌てて言い直す。


「えっと、デビルリス君とウシエル様が、私たちの学校を破壊して回ってるんです」


「そうなんです! 2匹を止めてください!」


 もみじが必死に懇願した。


「あらあら、デビルリス君のイタズラにも困ったものだわ」


 と、デビルリス美ママががため息をつく。


「ウシエルちゃんまでそないなことしとるんの? それはもう、ビシッとお仕置きせなあかんなあ」


 オカンヴィーナスが鼻息を荒くした。


「息子たちのところに案内してくれない?」


「ウチらに任せな。もう悪させんよう、強く言い聞かせてやるでな」


 かなり個性的な大悪魔と女神だったが、一応、一般常識は持ってくれているようだ。


 そのことに、玲奈はホッとする。


「こっちです! このままじゃ校舎が大変なことに、急いでください!」



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