その12 ウサミヴィーナスでブモー!
デビルリス君が手にした写真には、何やらウサギの姿の天使らしきものが写っている。
「天界のアイドル、ウサミヴィーナスちゃんの生写真だよー。しかも、天界湖に遊びに行った時に隠し撮りした水着写真なんだよねー」
「え? 何? 何が起こってるの?」
意味が分からずキョトンとするもみじ。
「状況から察するに、あの性悪リスはウサミヴィーナスって天使の水着写真で、牛を懐柔しようとしてるみたいね」
「バカなことを」
時定が人差し指でメガネを軽く押し上げた。
「相手は正真正銘の天使だ。そんな下らない誘惑に負けるはずがない」
「会長の言うとおりだよ。ウシエル様は清らかな天使なんだから」
もみじも分かったような口ぶりで言う。
(清らかな天使ってところは正直? だけど、さすがにあんな写真でどうこうならないでしょ)
そう思う玲奈だったけど……。
「ブモ~~~~~~~~! デビルリス君、それ売ってえええええ!」
ウシエルが鼻息を荒くし、叫んだ。
「思いっ切り誘惑に負けてるじゃない!」
つい叫ばずにはいられない玲奈。
「ウサミヴィーナスちゃんの水着写真、売ってええええええええ! ブモ~~~~~~~!」
あまりもの鼻息に、地面がえぐれてちょっとしたクレーターができる程だった。
「ええええ、どうしようかなー? 他ならぬいウシエル君の頼みだしー、売ってあげないこともないけどー」
デビルリス君は、もったいをつけるようにチラリチラリと写真を見せる。
もうそれだけで、ウシエルの鼻息はさらに上がる、目は血走っていく。
「じゃあ、こうしよ! この写真を僕から取れたら、タダでプレゼントしちゃうよー!」
デビルリス君がウシエルの背中に飛び乗った。尻尾から取り出したのは釣り竿。写真を釣り針にひっかけて、ウシエルの目の前にぶら下げる。
「行けー、ウシエル君♪」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ウシエルの暴走が始まった。目の前の写真目がけてもう突進する。もはや彼の目の前には写真しか見えていなかった。
デビルリス君が巧みに竿を操り、ウシエルを操縦する。ウシエルは校舎の建物をガンガン壊しながら、ひたすら走り続ける。
「ウシエル様! 校舎を壊さないで!」
もみじが必死に叫ぶも、もはやウシエルの耳には届かない。
ウサミヴィーナスの際どい写真に、心を奪われてしまっているのだから。
「水着写真で完全に我を失うなんて、どんな困った天使なのよ。これじゃ、ミイラ取りがミイラじゃない!」
玲奈が怒りを込めて叫ぶ。
「えっ? B組のマミーちゃんがどうしたの?」
「誰よそれ」
「留学生のミイラだよ。ちょっと防腐剤の匂いがするけど、大人しくて優しい女の子だよ」
「……今はいいわ。話がややこしくなるだけだから」
「まさか、こんなことになってしまうなんて。ウシエルを降臨させることを決めた僕の責任だ」
時定が沈痛な面持ちでうなだれる。
「そんな、会長のせいじゃありませんよ」
「そうね。悪いのはあのエロ肉牛。それから性悪リス。あと、その性悪リスを呼び出した――」
「僕たちですよね」
不意に後ろを向くと、股間におぼんだけを装着した集団がいた。かなりの変態集団だ。
「きゃー! 変態!」
「もみじ、落ち着いて。召喚クラブの人たちよ」
「あ、よく見れば臼斗くんだ」
もみじもようやく納得をする。
「それで、こんな事態を引き起こした張本人が私たちに一体なんの用事?」
大いなる不満を込め、玲奈は尋ねる。
「僕たち、反省したんだ。まさデビルリス君が、こんなにも質が悪いモンスターだったなんて知らなかったら。今更だけど、後悔してる」
デルデルの呪いをかけられて、裸におぼんだけという恥ずかしい姿にされたのだ。後悔してとうぜんだろう。
「だから、僕たちの力でどうにかしようと考えてる」
「無理じゃないか? デビルリス君の天敵だと思い降臨させた天使ウシエルでさえ、あの調子なんだよ」
暴走を続けるウシエルを見て、時定がため息をつく。
「いや、方法がないわけじゃなんだ。デビルリス君も、そして天使ウシエルも、頭の上がらない存在がいる。彼ら……いや、彼女たちを呼び出そうと思う」
「女神オカンヴィーナス、そして、大悪魔デビルリス美ママの2匹を」