その8 狼 VS リス
「デビルリス君のことは親父から聞いてたんだ。決して解き放ってはいけない災厄そのものだって。まさか人間界でそいつを会うとは思ってもなかったぜ」
宙に浮かぶデビルリス君を睨み、牙宇羅が言う。
「オレの大好きなこの学校でこれ以上好き勝手はさせないぞ」
そう言うが否や、牙宇羅は首輪に手をかけ、勢いよくそれを外した。
「相手が災厄の悪魔なら、こっちだって手加減はしてられない。最初から全力でかからせてもらう」
たちまち牙宇羅の姿が、狼化した。
「アオオオオオオオオオン!」
空に向かって遠吠えを響かせてから、
「行くぜ!」
デビルリス君に襲いかかる牙宇羅。
素早い連続攻撃をデビルリス君に浴びせかける。
鋭い爪の攻撃をひらりひらりと交わすデビルリス君だったけど、ワーウルフの能力を開放した牙宇羅のスピードはとんでもなかった。
「ガウウウウウウ!」
牙宇羅の爪がデビルリス君をかすめる。ふわふわの毛が舞った。
「うわー、怖い狼だー。そんな狼は、チョコ人形になっちゃえ♪」
デビルリス君がパチンと指を鳴らす。
空中に無数の鍋が現れ、そこからドロドロに溶けたチョコがあふれ出した。
「牙宇羅くん! 気を付けて!」
「フン、当たるかよ!」
地面を蹴り、高速の移動。溶けたチョコの攻撃をすべて完璧に牙宇羅は交わした。
「す、すごいわ」
玲奈が感嘆の声を上げる。
「すごいでしょ。だって牙宇羅くんはエースストライカーだから。避けながら走るのは得意なんだよ」
もみじが威張る。
「いや、そういったレベルのすごさじゃないわよ。これは」
改めてワーウルフの戦闘力の高さを知る玲奈だった。
牙宇羅は確実にデビルリス君を追い詰めていた。
(彼なら、デビルリス君を捕まえられるかもしれない)
実際、その可能性は高そうだった。
「お前みたいなのが人間界にいたら、オレは好きなサッカーができないんだ。さっさと魔界の牢獄に送り返してやる!」
「へー、君、サッカーが好きなんだー」
追い詰められているにもかかわらず、デビルリス君がニコニコと微笑む。
「だったら、ボクからプレゼントをしちゃおっと」
デビルリス君が飛んでいったのは、こちらに向かって走ってくるコッツンコツ先生のもとだった。
「大丈夫ですかな? 今、私の狂戦士モードで助けて――」
その肩にピョンと飛び乗ったデビルリス君は、コッツンコツ先生の頭をあっさりともいでしまう。
「こら、何を! 返しなさい!」
体の方が必死に頭を取り戻そうとするも、デビルリス君のキックで簡単にバラバラになってしまった。
やはり骨と骨の結合力の低さは問題だった。
「お絵描きお絵描き~っと♪」
ふわふわの尻尾から取り出した絵筆でもって、デビルリス君はコッツンコツ先生の頭蓋骨をペイントする。
「できたー!」
完成したのは、サッカーボールの模様のついた頭蓋骨だった。
「どう? サッカーボールそっくりでしょ。狼君、蹴りたくならない?」
「ふざけるな。オレがそんなものに惑わされるはずがないだろ?」
「そんなこと言わないで、よっく見てよ。サッカーボールに見えてくるよ~」
デビルリス君は、尻尾を振り振りしながら牙宇羅に語り掛ける。
「いや、それはコッツンコツ先生の頭蓋骨で……頭蓋骨で……」
牙宇羅の目が、少しだけトロンとした。
「なんか、サッカーボールに似てるかも……」
玲奈はハッとした。
「牙宇羅君! そのリスの尻尾から目を離して! 催眠術をかけようとしているわ!」
「ほーら、狼男君。見事シュートを決めてよねー」
デビルリス君が、コッツンコツ先生の頭蓋骨を空中高く放り投げた。
「おっりゃああああ!」
牙宇羅は、頭蓋骨に向かって走った。高くジャンプし足で頭蓋骨を受け止めると、そのまま体を回転させ頭蓋骨を蹴り飛ばした。
頭蓋骨はそのまま校舎の外壁に衝突。コンクリ―とにめり込んだ。
「やった、シュート成功だぜ!」
着地し、ガッツポーズを決める牙宇羅。が、すぐに笑顔が曇る。
「あれ、オレ……一体何を?」
「はーい、おしまーいっ」
デビルリス君が指を鳴らした。ガウラの頭上に現れた鍋から、溶けたチョコがあふれ出る。
「しまっ!」
という声を最後に、牙宇羅はチョコの滝に沈んだ。
「ああ、牙宇羅くんまでチョコ人形に!?」
「やったあ! もうこれで邪魔者はいないぞー!」
デビルリス君が『いやっふー♪』と万歳をした。
「そうだ! せっかくだからもっと楽しくしちゃおっと!」
デビルリス君が再び指を鳴らす。すると、空がどんよりとした雲に覆われた。
そこから降ってきたのは、雨でも雪であられでもなく……デビルリス君たちだった。
「いやっふー♪」
「遊ぶぞー♪」
「デビルリス君参上だー!」
「ぽてっち食べさせろー!」
「ゲームするぞー!」
たくさんのデビルリス君たちが、好き勝手に遊び回る。当然、被害は拡大する一方だ。
「1匹でも厄介なのに、こんなにも増えて……どうするのよ」
戦力として期待できそうなゾーラも牙宇羅もチョコ人形にされてしまった。
コッツンコツ先生は、狂戦士モードすら発動できずにサッカーボールにされてしまった。まあ、正直少しも期待はしていなかったが。
「ひどい。デビルリス君は悪魔だよ」
さすがのもみじも青ざめた顔をしている。
「牙宇羅君でも奴を止められなかったのか」
いつの間にかやって来ていた時定が、歯噛みして言った。
「仕方ない。こうなったら僕たちもするしかない」
「何をですか?」
尋ねるもみじに、時定はこう答えた。
「召喚の儀……いや、降臨の儀と呼ぶべきだろうか。デビルリス君に対抗できる、強力な助っ人を呼ぶんだよ」