その6 恐怖のチョ〇人形
「さーて、遊びに行っちゃうよ~♪」
倉庫を出ようとするデビルリス君の前にた、立ちはだかる人物がいた。
「そうはさせません」
ゾーラだった。恐怖で足を震わせながらも、デビルリス君と対峙する。
「あれれ~、ボクに何するつもり?」
「こうします!」
ゾーラが大きく目を見開いた。。白目がなく、すべてが黒目の特別な瞳が姿を現す。
『魔眼』だった。
ゾーラの石化魔力が発揮される。見られた者は石になるしかない。
「うねうねしたパーマの人かと思ったら、メデューサ族の人だったのかあ」
感心するデビルリス君の足元から、ピキピキと音を立てて石化が始まった。
「うわー、ボク、動けなくなっちゃうよー」
どこか楽しそうに叫びながら、デビルリス君の体は完全に石化した。
「ふう」
瞳を閉じたゾーラが、肩で息をする。ひどく疲れた表情だ。
「ゾーラ君、大丈夫か?」
「はい、少し魔力切れを起こしただけです。全力で石化させましたから」
(相変わらず、すごいわね)
ゾーラの石化の魔眼の力に、驚きを隠せない玲奈。
味方だったからいいものの、もし敵だったらと考えると恐ろしくてたまらない。
「さあ、デスカトラズの獄卒に連絡をして、回収に来てもらいましょう」
と、その時だった。
ピキッ
そんな音が倉庫内に響く。
ピキッ……ピキピキピキ
それは、石となったデビルリス君の体に無数のヒビが入っていく音だった。
やがて、破裂するかのように石が飛び散る。中から現れたのは、生身のデビルリス君だ。
「あー、カチコチにされて肩がこっちゃったよー」
平然とした様子で、生身のデビルリス君が現れる。
「えっ、どういうこと? ゾーラ先輩の魔眼の力で、石化してたんだよね」
頭の上に?マークを浮かべて、もみじが尋ねる。
「メデューサ族は魔界屈指の魔眼の持ち主。その中でもゾーラ君の力はとびきりだと聞いてる。例え魔界のモンスターでも、一度石化されたら向こう数百年は元に戻ることはできない。石化解除の特殊なアイテムでも使わない限りはね」
「それが使われたってこと?」
「いいえ、違います」
ゾーラが絶望の声で言った。
「デビルリス君は、そのありあまる魔力でもって自力で石化を解いてしまったんです。あまり長くは私の石化はもたないと思っていましたが、まさかここまで早いなんて」
「ふっふっふー、ボクってばすごいでしょー」
デビルリス君はご満悦の表情だ。
「そこの頭がウネウネのお姉さん。ボクを石にしたお返しをしちゃうよー」
デビルリス君は弾むような声で言った。
「チョコ人形になっちゃえ!」
パチリと指が鳴らされる。
次の瞬間、ゾーラの頭上に巨大なバケツが出現した。傾くバケツ。ドロドロとした茶色の液体がゾーラに降り注ぐ。
「ええっ!」
驚愕の表情を浮かべたまま、ゾーラは固まってしまった。
ドロドロとした茶色の液体はチョコレート。ゾーラはチョコ人形にされてしまったのだ。
「あー、ゾーラ先輩が!」
もみじが慌てて駆け寄る。
「しっかしてください。今、チョコを割りますからね」
拳でゾーラの体をコンコンと叩くが、チョコが割れる気配はない。
「えーい、だったら食べちゃうから」
噛み砕こうと試みるも、
「かった~~~~~い!」
もみじが悲鳴を上げた。
「ボクの特製チョコだからね。絶対に割れないし、解けることもないよ。あ、心配しないで。窒息して死んじゃったりはしないから。そうだね、3000年くらいたったら、自然に溶けるかなー。それまで気長に待っててねー」
クスクスと笑うリス君。
「じゃあ、ボクは今度こそ遊びに行くからねー」
手をふりふりすると、背中のコウモリの羽をパタパタさせ飛び、デビルリス君は倉庫を飛び出していった。
「そうだ! なめればゾーラさんを元に戻せるかも」
ゾーラの復活を諦めず、もみじが必死にペロペロする。ちょっとした変態行為だ。
しかしその顔が、苦悶に歪んだ。
「にっがーーーーい! これ、カカオ100パーセントのチョコだよ。おいしくないよ」
「もみじ、味の文句を言ってる場合じゃないわよ。あの、デビルリス君ってモンスター、相当に厄介だわ。早くどうにかしないと」
「玲奈君の言うとおりだ。人間界に混沌を振りまく前に、どうにか捕らえて魔界へ帰ってもらわなければ」
時定もまた、険しい顔で言う。
「僕はこの非常事態を先生方に伝える。もみじくんは斧宴璃瑠牙宇羅君に連絡を。疾風のごときスピードを誇るワーウルフならば、デビルリス君を捕らえることができるかもしれないからね」