その5 デビルリス君
そいつは、フワフワのモコモコだった。
胴体と同じくらいの大きさの尻尾を持っていた。
頭からはモンスターっぽい触覚が生えていて、背中にはコウモリのような翼。
だけど、非常に小さかった。掌に乗るサイズだ。
そして………。
「リス……よね?」
戸惑いつつ、玲奈が呟く。
そう、魔法陣から現れたであろうモンスターは、多少モンスターっぽい要素はあるものの、全体的に見ればリスそのものだったのだ。
何はともあれ、玲奈はホッとした。
「召喚の儀式とやらは失敗したみたい。恐ろしいモンスターが現れなくて良かったわ」
「本当だね。あんなかわいいモンスターなら大歓迎だよ。お家で飼いたいぐらいだよ」
玲奈ともみじの会話に、ゾーラがとんでもないと声を上げる。
「違います。召喚の儀式は成功してしまいました。彼らは、呼び出してしまったんです。混沌の悪魔、デビルリス君を」
デビルリス君……名前までもがコミカルで可愛らしい。
改めて玲奈は呼び出されたモンスター、デビルリス君を見る。
相変わらずリスのままだった。
「ひょっとして、可愛らしい姿に変身しているとか? もっと狂暴なモンスターで」
「いや、変身はしていないはず。デビルリス君はあの姿で間違いないはずだ。僕が話に聞いてたとおりの姿だから」
玲奈の考えを、時定が否定した。
「リス……よね」
もちろん、触覚や翼などの存在から普通のリスでないことは明らかだったが、それにしたって迫力はない。なんの恐ろしさも感じない。
どうしてゾーラがあそこまで怯え、時定がここまで深刻な表情をしているのが、玲奈には分からなかった。
「こんにちは。デビルリス君」
無邪気にもみじが、デビルリス君に声をかけている。
「わたしは、山田もみじって言うんだー」
「そうなんだー。僕は、デビルリス君。よろしくー。ところでここはどこ?」
「ここは人間界にある得葉素高校だよ」
「人間界!?」
デビルリス君は瞳をキラキラとさせた。
「そっかー、ボクは人間界に来られたんだー。いやっふ~♪」
デビルリス君が嬉しそうにまた飛び跳ねた。
「ずっと閉じ込められてて退屈してたんだー。人間界でうんと遊んじゃおー。」
ちょっとやんちゃな小学生みたないことを言っている。姿だけでなく言葉までもがちっとも怖くない。
それでも、時定は相変わらず固い表情のまあで、ゾーラは恐怖に顔を引きつらせている。
(一体どういうことなの?)
玲奈としては、まるで意味が分からない。
「これが……デビルリス君?」
臼斗が、茫然としてデビルリス君を見つめる。ひどく落胆している様子だ。
「魔界中で恐れられているモンスターだって聞いたのに……こんな、ショボいやつだったなんて……」
臼斗だけでなく、他の召喚クラブのメンバーもあからさまに肩を落としている。
「あはは、ボクをショボいだなんて。そんなヤツは、デルデルの刑だよー」
デビルリス君は、パチンと指を鳴らした。毛の生えた指でどうやって鳴らすかは疑問だが、とにかく鳴ったのだ。
次の瞬間、臼斗たちが身に着けていた服がはじけ飛んだ。彼らは真っ裸になってしまった。
いや、厳密に言えば真っ裸ではなかった。股間の部分のみある物で隠されていた。
THE OBON!
「なっ!」
「うわー!」
召喚クラブのメンバーから悲鳴が上がる。
おぼんで大事な所はかろうじて隠されているものの、ある意味全裸よりも恥ずかしい間抜けな姿だ。
「ボクの魔力でくっつけてるから、手を離したっておっこちないよー。これで放送事故も起こらないねー。コンプライアンスは大切だよねー」
でもでもーと、デビルリス君は続けた。
「デルデルの呪いはずっと続くから、もう君たちは一生、服を着れないんだー。お尻を見せないように生活するしかないだよー。冬は寒いだろうし。大変だねー」
意地悪な顔をして、デビルリス君は笑った。
(私としたことが、可愛い見た目にすっかり騙されたわ)
玲奈は唇を弾き結ぶ。
(魔界中で恐れられる存在なのかは分からないけど、少なくともすごく質の悪いモンスターであることは間違いないわ)