その3 爆発の魔法
時定とゾーラが向かったのは、校舎の中庭にある古い倉庫だった。
玄関を経由せず、1階の渡り廊下から上履きのまま飛び出したのだから、その急ぎっぷりがうかがえた。
もみじと玲奈もまたそれに続く。本当は上履きで外に出ることは厳禁なのだが、なんだか非常事態みたいだから仕方がない。
倉庫の扉の前に立つ時定とゾーラへと2人は追いついた。
「会長、どうやら悪い予感は的中したようです」
険しい表情でゾーラが言った。
「倉庫の中から怪しい波動が伝わってきます。おそらく、儀式の最中かと」
それは玲奈も感じていた。色に例えるならドス黒い、異様なオーラが倉庫の中から滲み出ている。
「えっ、そうですか? わたしはなんにも感じませんけど」
もみじはキョトン顔だ。
「とにかく止めさせなければ!」
時定が倉庫の引き戸に手をかけるも、残念ながら開かなかった。無情にもガチャガチャと音をたてるだけだった。
「内側から鍵がかけられている」
時定が顔をしかめる。
時定が観音開きになった倉庫の扉ををガチャガチャと鳴らし、顔をしかめる。
「会長、職員室に行って鍵を借りてきます」
「いや、そんなことをしていては間に合わない。儀式が完了してしまう」
少し考えてから、時定は玲奈に顔を向けた。
「玲奈君、君の力を借りられないか?」
「えっ、どうして私に?」
「君がすでにいくつかの魔法を使いこなしていることは知っている。この扉を魔法で吹き飛ばして欲しい」
「そうだよ。玲奈ちゃんの魔法ならこんな扉、一発だって! ドカーンとやっちゃお!」
「もみじ、無責任なこと言わないでよ」
軽くもみじを睨んでから、玲奈な時定に答える。
「あの、桐生先輩。確かに私はこの街でいくつかの魔法を使いましたけど、決して使いこなしているわけではありません。ご期待に添えるかどうか」
「いや、君ならできるはずだ。頼む。取り返しのつかないことになる前に」
時定が真剣な表情で言った。
「西園さん。私からもお願いします」
ゾーラもまた、玲奈に強く懇願する。
「あの、私なんかよりもゾーラ先輩の方が上手に魔法を使えるのでは?」
魔界のモンスターであるゾーラであれば、自分よりもはるかに魔法が上手に使えるのではないかと玲奈は思い、尋ねてみる。
ゾーラは残念そうに首を横に振った。
「残念ながら、私の魔力はすべて相手を石化させる魔眼に集約されています。魔法を使うことはできないんです」
「そうなんですか……」
「もう頼れるのは玲奈ちゃんしかいないよ。ドカーンとやっちゃってよ!」
もみじが無責任にあおる。
正直、あまり魔法は使いたくなかった。これまでだって、よほど追い詰められた状況でなければ魔法を使っていない。
だけど、時定とゾーラの真剣な表情が、今が緊急事態であると告げている。
「分かりました」
玲奈は静かに頷いた。
「でも、私は魔法に詳しくありません。どんな魔法を使えばこの扉を開くことができるのか教えてください」
「それはもちろん、爆発の魔法だよ!」
もみじが嬉しそうに叫ぶ。
「ドカーンでバコーンで、それでいてドッゴーンなんだよ!」
「ごめん、もみじ。何を言ってるのかまるで分らないわ」
「爆発の魔法は、火の魔法の応用です」
ゾーラが早口に、だけど丁寧に説明をしてくれる。
「火の魔法元素を集め、それを凝縮するイメージを作ってください。その後、対象物に向かってそれを放つ。魔法名は、エクスプロウ」
「分かりました。それじゃ皆さんは扉を離れていてください」
玲奈は大きく深呼吸をした。軽く瞳を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。
すぐに肌にチリチリとした感触。火の魔法元素だ。
(これを、凝縮するのね)
チリチリをギュッと凝縮するイメージ。実際に火の魔法元素が玲奈の目の前に集結する。おそらく目には見えないものだが、玲奈は確かにその存在を感じていた。
今にも弾けてしまいそうな、危険な状態だった。
玲奈は瞳を開き、扉に向かって両手を突き出し叫んだ。
「エクスプロウ!」
ドッカ―ン!
倉庫の扉が爆発によって吹き飛んだ。あまりもの威力に、使った玲奈自身が唖然とする。
(これは危険な魔法だわ)
同時に、チリチリが一瞬で消えていることにも気付く。つまり、それだけの魔法元素を必要とする魔法だということだ。
「すごーい、玲奈ちゃん!」
「難易度の高い爆発の魔法を一度で成功させてしまうなんて……」
時定が驚愕の表情で呟く。
「会長、今は感心している場合ではありません」
「ああ、そうだったね。行こう」
時定とゾーラが倉庫の中へと飛び込んだ。
「玲奈ちゃん、わたしたちも!」
「え、ええ」




