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異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
SPコラボ企画 悪夢のデビルリス君
41/114

その1 大量のドングリ

挿絵(By みてみん)


 ごくごくありふれた、普通ののどかな朝だった。


 もみじと玲奈は、いつものように2人一緒に登校する。


 校門をくぐってすぐのことだった。もみじが声を上げる。


「あっ、臼斗くんだ」


 もみじが指差した前方には、1人の男子生徒の後ろ姿があった。


「臼斗くん?」


「うん、不破臼斗くん。中学校の時に同じクラスだったんだよ」


「ふうん」


 改めて玲奈は前方の男子生徒を見た。小柄でやせ型の体型で、何やら大きな段ボール箱を抱えて歩いている。箱がかなり重いのだろう。おぼつかない足取りだった。


「挨拶しよっと」


 そう呟くと、もみじが早足で男子生徒に近寄った。



「おはよっ、臼斗くん♪」


 そう言うと、ポンと男子生徒、臼斗の肩を叩いた。


「うわあ!」


 その不意打ちに、臼斗が驚きの声を上げた。反動で抱えていた段ボール箱を落としてしまう。


 箱の中身が地面にぶちまけられる。


 ザラララララララララララララララ


「ごめーん、臼斗くん。びっくりさせちゃって」


「や、山田さん。いいんだ、別に。気にしないで」


 早口にそう言うと、臼斗はしゃがみ込み、散らばった箱の中身をかき集める。


「わたしも手伝うねー」


 もみじがしゃがみ込んだ時、玲奈が2人のもとにやって来た。


「もう、もみじ。何をやってるのよ。もうちょっと相手の様子を観察しなさい。重い荷物を持ってるのはすぐに分かるでしょ?」


 玲奈はそこで、足元に散らばった箱の中身に気付いた。


「ドングリ?」


 大量の、ドングリ……ドングリ……ドングリドングリドングリドングリドングリ(エンドレス)


 予想外の箱の中身に一瞬戸惑ったものの、玲奈も2人に協力することにした。


 散らばったドングリをかき集め、段ボール箱の中へと戻す。


「こんなものかしら。もしかしたらまだいくつか残ってるかもしれないけど」


「い、いいんだ。これだけあれば十分だから」


 再びずっしりと重くなった段ボール箱を臼斗が持ち上げる。


「ありがとう、山田さん。それから――」


 玲奈を見て、臼斗が口ごもる。理由はもちろん、初対面で名前が分からないからだ。


 玲奈が自己紹介をする前に、もみじが口を開いた。


「ついこの間転校してきた玲奈ちゃんだよ。魔法の才能を認められて、特別留学生としてやって来たんだ。実際にもういくつも魔法が使えるんだよ。この間だって――」


「もみじ、余計なことは言わないで」


 玲奈がピシャリと注意する。


「西園玲奈よ。よろしく」


「よ、よろしく。それじゃ僕はこれで」


 まるで逃げるかのように歩き出す臼斗だったけど、どうやら落とした影響で段ボール箱の耐久度がかなり下がってしまっていたようだ。


 底が抜け、大量のドングリが地面にまたぶちまけられた。


 ザラララララララララララララララララ


「あ~~~~~~~~~~~~~」


 臼斗が絶望的な声を上げる。


「大変だよ、玲奈ちゃん。そうだ、魔法でどうにかなったりしない?」


「散らばったどんぐを集める魔法なんてあるの?」


「ううん、わたしは聞いたことないよ」


「だったら無理に決まってるわ」


「でも玲奈ちゃんは魔法の天才なんだから、もしかしたらできるかも」


「無茶を言わないで。そんなことにチャレンジしている暇があったら、普通にまたドングリをかき集める方が早いわよ。それから」


 底の抜けた段ボール箱を見て、玲奈は言った。


「もみじ、職員室でガムテープか何か借りてこられない? それで多分、解決すると思うわ。


 10分後。


 もみじが職員室で借りてきたガムテープによって補強された段ボール箱に、散らばったドングリが再び詰め込まれた。


 臼斗がそれを持ち上げる。


「どう?」


「うん、これなら大丈夫だ。ちゃんと倉庫まで運べそうだ」


 ホッとした表情で臼斗が言った。


「ありがとう、山田さん。西園さん」


 笑顔でお礼を言ってくれる。もっとも、彼は男子にしては長髪で目元が完全に髪の毛で隠れてしまっているから、表情が分かりにくくはあったが。


「いいんだよー。もとはと言えば、わたしが臼斗くんをびっくりさせちゃったのが悪いんだから」


「ところで、不破くん‥…だったわね。そんなたくさんのドングリ、一体どうするの?」


 最初から不思議に思っていたことを、玲奈は尋ねてみた。


「そ、それは……」


 臼斗の笑顔が凍り付いた。挙動不審にソワソワし始める。


「えっと、その……部活で……」


「何部?」


「それは‥…厳密に言うと部活じゃなくって、同好会とか愛好会とかで……」


 どんどんしどろもどろになっていく。


「とにかく、僕、行かなくちゃ。2人とも、ありがと!」


 早口に言うと、臼斗は足早に立ち去った。まるで逃げるように。


「なんなのかしら?」


 玲奈が首を傾げる。


「わたし分かっちゃった。多分、工作に使うんじゃないかな? ほら、小学校の時にやらなかった? 木の実とかで工作するの」


 それは玲奈にも記憶があった。図画工作の授業で、ドングリやまつぼっくりを使って工作をしたことがある。


(工作同好会なんてあるのかしら? でも……)


 あのドングリの量はやはり異常だった。そもそもとして今は春。ドングリを集められる秋にはほど遠い。


(去年の秋に集めておいたってこと? それとも、外国からの輸入? それにしたって大変じゃない)


 どうにもふに落ちないといった表情で、玲奈は考え込むのだった。


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