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異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
エピソード2 はじめての異文化登校
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その22 吸血の代償

 コッツンコツ先生にお礼を済ませ、正面玄関へと向かう。


 すると、正面玄関に到達する少し前に開けた場所に人だかりが出きていた。


「何かしら?」


 首をかしげる玲奈。


「あっ、きっとあれだよ」


 もみじは心当たりがある様子で、頷いている。


「何よ」


「いいからいいから。見に行っちゃお」


 意味不明のまま、もみじに引っ張られて人だかりへ。その抜けた先にあったのは。


「これは!?」


 玲奈は驚きで息を飲んだ。


 そこにあったのは、一体の石像だった。


 それがただの石像でないことは、玲奈にはよくわかっていた。


「ドラ……クロア」


 ゾーラの能力によって石化させられたのだ。


 端正な顔立ちを恐怖に歪め、大きく口を開いた状態で完全に固まっている。服までもが灰色の石と化していた。


「重い校則違反をした生徒は、ゾーラ先輩が石にしてこうやって玄関前にさらされることになってるんだよ」


「なかなかヘビーな罰ね。でも、相当な重量でしょ? これ。よくここまで運べたわね」


「そんなの、美術のロプス先生に頼めば簡単だよ」


 名前からして、モンスターの先生であることは間違いない。詳しい話を聞く気にもなれず、とにかく怪力のモンスターの教師がいるのだと納得することにした。


「おはよう。山田もみじ君。西園玲奈君」


 そんな声と共に現れたのは、生徒会長の時定と、副会長のゾーラ・ゴルゴンだった。


「おはようございます。昨日はありがとうございました」


 早速もみじが挨拶とお礼をする。


 まだまだゾーラの蛇は怖かったし、この石化の魔眼が使われる瞬間を目撃してさらなる脅威も感じていたが、助けてもらったのは事実だ。


「昨日は、危ないところをありがとうございました」


 少々、顔が強張っていたものの、玲奈もお礼を口にした。


「お礼なんていいよ。むしろ、申し訳ない気持ちで一杯だ。ドラクロア君の暴挙にまるで気付けなかったのだから。そのせいで、君たちを危険な目にあわせてしまった。生徒会長として謝るよ」


 深く頭を下げてから、時定は石化したドラクロアを見た。


「彼もあわれと言えばあわれだがね。少女の生き血を吸いたいという吸血鬼の本能に耐えられなかったのだから」


「いえ、会長。それは違います。私も含めた魔界からの留学生には、モンスターの本能に打ち勝ち、人間の皆さんと問題なく学園生活を送る義務があるんです。例え少しまずかろうが、購買の紙パック入りの血液で我慢すべきだったんです。それができなかった段階で、留学生としては失格です」


 ゾーラがキッパリと言う。


「私としては、被害者も出ていることですし、即刻魔界へ送還すべきだと思うのですが」


「そこまでする必要はないよ。被害者も、少し血を吸われていた程度だしね。しばらく石になって反省してもらえばいい」


「もしまた同じことした場合ばどうしますか?」


「その時は……」


 少し考えてから、時定はニヤリと笑って言った。


「白木の杭でも胸に刺して、灰になってもらおうかな? いや、冗談だよ」


 その時の時定の顔が、とても冗談を言っているような顔ではなく、玲奈は少し背筋を寒くする。


(生徒会長の桐生先輩。さすがはこんなモンスターだらけの学園で生徒会長をやっているだけのことはあるわね)


「石像の様子も確認したし、そろそろ行くとしようか」


「はい、会長」


 立ち去ろうとした時定だったが、何かを思い出し振り向く。


「そうだ。君たちに会ったら渡そうと思っていたんだよ」


 そう言って、何やら白い筒のようなものをポケットから取り出した。突き付けられ、なんとなく受け取ってしまう玲奈。


「怖い思いをさせられたんだ。好きに使うといい」


 それだけ言うと、時定とゾーラはその場を去っていく。


 改めて手の中のそれを見ると、


「マジック?」


 極太の油性マジックのペンだった。色は白。


「これでどうしろと?」


 困惑する玲奈に、もみじが横から手を伸ばす。


「これはね、こうやって使うんだよ」


 マジックを奪い取ったもみじは、キャップを開けた。躊躇うことなく、ペンを使って石像に落書きを始める。


 石像になってもなお、丹精な顔立ちのドラクロアのマユゲを太くして、ちょび髭なんかを描いたりして。


「あはははは、上手にできた!」


 大笑いをしてから、もみじがペンを玲奈に突き出した。


「今度は玲奈ちゃんが書きなよ」


「私は別にいいわ」


「そんなこと言わずに、はい」


 半ば強引にペンを握らされる。


 正直、あまり気乗りはしていなかったが、いざペンを手にして石化したドラクロアを見ると、昨日の怒りがふつふつと湧き上がってくる。


(よくもやってくれたわね)


 気付くと、玲奈は落書きを始めていた。


 目の周りをグルリと囲んで眼鏡の完成。


 顔だけでなく、身体中に、『H』『スケベ』『変態』『キザ野郎』と書く。悪口のオンパレードだった。


挿絵(By みてみん)


「ちょっとやり過ぎたかしらね」


 そう呟きながらも、すこぶるいい気分だったりする。


 同時に、驚きもしていた。


(私、すごいことしてるわよね。石化した吸血鬼に、喜んで落書きをしてるんだから)


 昨日は本当に色々なことがあったと、しみじみと思った。異世界の文化の混じった学園の洗礼を受けまくった思い出が過る。


 そのせいか、たった一日でかなり自分はタフになってしまったようだ。


(この様子なら、何とかやっていけるかも?)


 落書きだれけのドラクロアの石像を見ながら、玲奈はクスリと笑ったのだった。


 それは、彼女がこの街に来て初めて見せる、リラックスした笑みだった。


 エピソード2 終わり


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