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異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
エピソード2 はじめての異文化登校
39/112

その21 意外と優しい骨先生

 ピンポンピンポーン


 インターホンがけたたましく押された。なんとなく扉の向こうに誰がいるのか想像がついた。


 通話ボタンを押すと、モニターに画面が写る。案の定、能天気な笑顔のもみじがいた。


『おはよー。昨日は玲奈ちゃんが来てくれたから、今日はわたしが来たよー』


 スピーカーからもみじの大音量が響く。ボリュームを上げ過ぎていたのかと思い確認したが、いたって普通。単純にもみじの声が大きいだけだ。


 まだ家でのんびりしていても遅刻はしないのだが、迎えが来てしまったのでは仕方ない。


「待ってて、もみじ。着替えをしてすぐに出るから」


 ★


 数分後、玲奈は制服に着替え自宅のマンションを出た。待っていたもみじと一緒に歩き始める。


「うーん、朝日が気持ちいねー」


 もみじがうーんと伸びをした。


「そうね。あんなことがあると、特に太陽のありがたみを感じるわね」


 しみじみと玲奈が答える。


「でも良かったよねー。ドラクロア先輩の血を吸われなくって。もし吸われてたら、貧血でヘロヘロになって今日学校休んでたかもしれないよ」


 それはどうだろうと玲奈は思った。きっともみじのことだから、少々血を吸われたところで平気な顔でヘラヘラ笑いながら登校しているような気がした。


 同時に、むくむくと怒りが込み上げてくる。


「もみじ。昨日は本当、危ないところだったのよ。あなたがあんなにも簡単に催眠術にかかるから」


「ごっめーん。よく覚えてないんだけど、玲奈ちゃんに迷惑をかけちゃったみたいだねー」


 もみじは片手拝みで謝った。


「でも、相手は吸血鬼のドラクロア先輩なんだよ。普通、催眠術にかかっちゃうよ。かからなかった玲奈ちゃんの方がすごいんだよ。すごいすごい」


 もみじがすごいを連発するが、玲奈は少しも嬉しくない。


「催眠術とか、魅了とかが使えるモンスターは、みんな魔眼って呼ばれる特別な瞳を持ってるんだって。ドラクロア先輩の催眠術に耐えられた玲奈ちゃんなら、訓練すれば魔眼を手に入れられるかもしれないよ」


「心の底から遠慮するわ」


 きっぱりと断ってから、玲奈は少しだけ真面目な表情で尋ねる。


「そうなると、あれもその魔眼ってことになるの?」


「あれ?」


「えっと、副会長の……」


「あっ、ゾーラ先輩のことだよね。もちろん。ゾーラ先輩の種族は魔界屈指の魔眼の持ち主なんだから」


 自分のことではないのに、妙にドヤ顔をしてもみじが言う。


「そう……確かにあれは凄まじかったものね」


 昨日の光景を思い出し、玲奈はブルルっと身震いをした。


 そんなことを話しているうちに、得葉素高校に到着する。


「あ、玲奈ちゃん。コッツンコツ先生だよ!」


 背広を着て、眼鏡をかけた骸骨が立ち、登校する生徒たちに服装の乱れなんかを注意している。


 もみじと玲奈は、コッツンコツ先生のもとへと向かった。


「お早うございます。コッツンコツ先生」


「お早うございます」


 もみじに続き、玲奈も挨拶をする。


「ああ、君たちか。お早う」


 コッツンコツ先生は、ジッと二人を見た。


「ふむ。どうやら制服の着こなしに問題はないようですね。行って良し」


「あの」


 思い切って玲奈は言葉を発した。


「昨日はありがとうございました」


「ん、何のことかね?」


「吸血鬼から、私たちのことを守ろうとしてくれて」


「ああ、あのことですか。気にすることはありません。教師として当然のことをしたまでです」


 コッツンコツ先生が平然として言う。


「それよりも、私の方がお礼を言わなくてはなりませんね。バラバラになったのを、見事に組み上げてくれたのですから」


 ドラクロアの問題が解決した後、もみじが得意の骨の知識でもってコッツンコツ先生を組み上げたのだ。不気味で仕方なかったが、玲奈もそれを手伝っている。


「しかし、いくら強大な相手だったからといって、私も醜態をさらしてしまいました。次は負けないよう、さらに骨を頑丈にしておかなければ」


(骨の頑丈さって言うよりも、転んだだけでバラバラになってしまう結合のモロさが問題なんじゃないかしら? それに、自分の足に自分の足をひっかけて転んでしまうドジな部分とか)


 そう思った玲奈だったが、それは言わないでおいた。


「それと、私の正体が狂戦士スケルトンだということは他の生徒にはくれぐれも秘密に。むやみに生徒を怖がらせはしたくありませんので」


「はい、絶対に誰にも言いません!」


 もみじが強く主張する。


「約束します」


 玲奈もそれに続く。


「ありがとう。では、そろそろ授業の準備があるので失礼させてもらうよ」


 コッツンコツ先生は、骨をカチャカチャ言わせながら立ち去っていった。


「確かに、コッツンコツ先生の正体がみんなに知られちゃったら、みんな怖がっちゃうかもしれないね。秘密にしなくっちゃ」


 自分自身に言い聞かせるように、もみじが呟く。


(それはどうかしら?)


 懐疑的な玲奈。


(見た目は怖かったけど、やったことは転んでバラバラになっただけだし。誰も怖がらないんじゃないかしら? むしろ笑われるだけのような気もするわ)


 だからと言って、コッツンコツ先生を馬鹿にする気持ちは玲奈にはなかった。


 残念ながら失敗に終わってしまったが、隠したい自らの本性をさらけ出してまで自分たちを助けようとしてくれたし。


 何より、あれだけ無造作に放り投げられたりしたのに、後でもみじを一言も叱らなかったことにも驚きだった。


 授業中に散々驚かされた挙句、廊下に立たされた身としては正直、好きになれないと思っていたが、今はその考えも変わっている。


「意外と優しい先生なのかもしれないわね」


 骨だけの姿はまだまだ不気味ではあったものの、それでも信頼に足る人物ではないかと玲奈は思ったのだった。


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