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異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
エピソード2 はじめての異文化登校
33/114

その15 魔法がきかない!?


「玲奈ちゃん! 助けに来たよ!」


 ポンコツ救世主こともみじは、大切なことなのでもう一度言った。


 まさに今、玲奈の首筋にかぶりつこうとしていたドラクロアに向かって手にしていた物体を突き付ける。


「えーい!」


 それは、鉛筆と輪ゴムで作った十字架だった。


「えーい! えーい! えーい! えーい!」


 気迫でドラクロアを押しのけると、


「待っててね、玲奈ちゃん」


 玲奈の体に巻き付いていたシーツを剥がした。


「つい勢いに押されて退いてしまいましたが、何という幸運」


 ドラクロアが喜びに声を震わせる。


「私の求めていたものが、自分から飛び込んできてくれるとは!」


「はい?」


 キョトンとするもみじに、玲奈が説明する。


「あの吸血鬼の本当の狙いはもみじ、あなただったのよ。私は間違って連れてこられただけ」


「えっ、そうだったの!」


 もみじが驚いた顔をする。


「吸血鬼って、美女の血を吸うって言うよね。それじゃあ、わたし、美女ってことなの? まいっちゃったなあ」


 満更でもない顔をするもみじ。


 だけど、


「美女の血も、数百年も吸い続けると飽きるもの。たまには変わった血も味わいたくなるもの。山田もみじ君、君のそのひたすらに能天気な血に、非常に興味をそそられてね」


「えー、あたしって能天気なの?」


(自覚なかったの!)


 全力で突っ込みを入れたかったが、玲奈な自重した。


 さすがにこのままもみじが吸血鬼の餌食になるのを放っておくわけにはいかない。


 幸い、身体に巻き付いていたシーツももみじの手伝いでどうにか解くことができた。


「もみじ、逃げるわよ! あなただって、吸血鬼の夕食にはなりたくないでしょ」


「うん、わたし、注射も採血も嫌いだから!」



(そういう話じゃないでしょ!)


 とにかく突っ込みは我慢して、玲奈なもみじを連れて教室を出ようとする。


 しかし、


 ピシャリ!


 目の前で、扉が音を立てて閉まった。


「逃がしませんよ」


 ドラクロアの瞳が怪しく輝いていた。吸血鬼の力だろう。念動力のようなものを使えるようだ。


 玲奈が手をかけて開こうとしても、扉はビクともしない。


 それならば教室のもう一つの扉をと思ったが、そちらは女子生徒たちが徒党を組んでバリケードを作っている。


「あなたたち、こんなことをしていいと思っているの!」


 玲奈が呼びかけるも、女子生徒たちはトロンとした瞳で動じない。


(催眠術のようなものをかけられているのね)


 玲奈はそう分析した。


「大丈夫だよ、玲奈ちゃん。これがあれば、ドラクロア先輩はわたしたちには近づけないんだから」



 鉛筆と輪ゴムで作った十字架を誇らし気に持ち上げるもみじだったが。


「クククククク」


 ドラクロアが静かに笑った。


「銀の十字架なら多少は抵抗を覚えるが、そんな小学生の工作のようなものを恐れる僕ではありませんよ」


 パチリと指を鳴らすと、もみじの手の中で鉛筆の十字架がメラメラと燃え出した。


挿絵(By みてみん)


「えー、絶対に効くと思って作ってきたのにー」


 もみじが悲鳴を上げる。


「もみじ、下がってて」


 玲奈がドラクロアと対峙するように前へと歩み出た。


 大きく深呼吸をする。


 前に魔本に追われた時に、もみじにしてもらった魔法講義を思い出す。


(基本は前の雷の魔法と同じ。火の魔法元素を集めて、それを触媒としてキーワードで開放する。火の魔法元素の特徴は、チリチリ)


 玲奈は自分の肌の感覚に神経を研ぎ澄ました。さすがは才能溢れる彼女だけあって、すぐに火の魔法元素を感じ取る。


 チリチリを集めるよう念じた。前の時と同じように、身体が灼熱していくのが分かった。


(後はキーワードを叫ぶだけ!)


「ファイアー!」


 玲奈の目の前に、炎のボールが現れた。


「すごい、もみじちゃん! 雷に続いて火の魔法も使っちゃうんだ!」


「仕方なくよ! えいっ!」


 かけ声と共に、玲奈な炎のボールをドラクロアに向かって放った。


(さすがにやりすぎかしら? 大やけどどか負わせちゃったらどうしよう? でも悪いのは向こうなんだから仕方ないわ)


 そう思っていた玲奈だったが、


「フン」


 軽い鼻息で、ドラクロアに直撃しようとしていた炎のボールが消滅した。


「ファイアー! ファイアー! ファィアー!」


 魔法を連発するも、ドラクロアは涼しい顔でそれらすべてを消し去ってしまう。


「どうして……効かないの?」


「いやあ驚いたよ。人間なのに君、魔法が使えるんだね」


 ドラクロアがフフンと笑った。


「でもね、僕たち吸血鬼は、魔界でも屈指の魔法が得意な種族なんだよ。知らなかったのかい」


 確かに、扉を閉めた力や催眠術、もみじの手の中の十字架を燃やしてしまったことといい、力だけの魔物でないことは明らかだった。


「この間のトカゲたちのようにはいかないわね」


 悔しそうに呟く。


「魔法をここまで使える人間がいたとはね。君の血も味わってみたくなりましたよ」


 さらに厄介なことに、玲奈の血にまで興味を持たれてしまったようだ。


「余計なことをするもんじゃないわね。そうすれば、犠牲者はもみじだけで済んだのに」


「あっ、ひっどーい。わたし、注射も採血も嫌いだって言ったのに」


「だからそういうことじゃないでしょ」


 ちょっとした漫才みたいなやり取りをしたところで、絶対的なピンチは変わらない。


 ゆっくりと迫ってくるドラクロア。


 と、女子生徒たちが固めている方の扉がガラガラと音を立てて開かれた。


「例え旧校舎と言えども、校舎内で騒ぐのは禁止ですよ!」


 現れたのは、カタカタと音を立てる奴だった。


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