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異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
エピソード2 はじめての異文化登校
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その14 ミラクル人違い

 一方その頃、玲奈は。


 女性生徒たちに担がれて連れていかれたのは、もみじの予想どおり、旧校舎の最上階だった。


 シーツにくるまれ、訳が分からないまま椅子に座らされる。


「ドラクロア様、連れてきました」


「ありがとう、私の可愛い子コウモリたち。後でたっぷりとご褒美をあげようか」


「キャー」


 そんな声が聞こえてくる。


 そして、ドラクロアと呼ばれた人物の声が玲奈にかけられた。


「僕は、3年のドラクロア・チース・イータロール。聖域へようこそ。少々強引な招待だったかな? だけど、どうしても君の血を味わいたくてね」


(私の血を味わう!?)


 普通の人間は、血を味わったりなんてしない。つまり目の前の人物? は、普通の人間ではないことを意味している。


 それに、ドラクロア・チース・イータロールなんて妙ちくりんな名前からして、その正体は明らかだった。


(魔界からの……留学生……)


 血を吸う魔物で頭に浮かんだのは、前にうっかりテレビで見てしまった南米のチュパカブラだ。


 大きな赤い目をして背中にトゲのあるそれはもう恐ろしい怪物。


 もしそんな物が目の前にいるとしたら……。


(ひいいいいいいいいいい)


 心の中で悲鳴を上げる。必死に逃げようともがくも、巻き付いたシーツのせいで動けない。


「おや、これは失礼。子コウモリたち、シーツを取ってさしあげなさい。そう、せめて頭の部分だけでも」


「はい、ドラクロア様」


 頭の部分に巻き付けられていたシーツが解かれて、玲奈なようやく視界を手に入れた。


 一瞬、真っ暗に感じたが、すぐに目が鳴れた。古い教室のようだ。窓には分厚い遮光カーテン。ところどころに置かれた電飾ランプが怪しい光を放っている。


 そして、目の前には髪の長い男子生徒がいた。


(あれ?)


 恐れていたような、巨大な赤い瞳も、背中のトゲもなかった。少々キザっぽいが、外見だけを見れば外国人の美男子だ。


 ハッキリ言ってしまえば、ゾーラの方がはるかに恐ろしい外見をしてる。(彼女には申し訳ないが)


 呆気に取られているのは玲奈だけではなかった。男子生徒、ドラクロアもまた玲奈の顔を見てポカンとしている。


「これは一体どういうことですか?」


 少々、怒りをはらんだ声を響かせた。


「どういうことって、ドラクロア様の申しつけとおりに、連れてきたんですけど。間違ってませんよね」


 女子生徒がスマホに写真を表示させ、不安気に尋ねる。


(私ともみじの写真!?)


「大間違いです! 僕が血を吸ってみたかったのは、こっちのショートカットの子ですよ!」


 ドラクロアが指さしたのは、能天気な笑みを浮かべているもみじの方だった。


 玲奈は冷静に状況を分析した。


(おそらくこの男子生徒は……吸血鬼って魔物ね)


 いくら魔物に詳しくない玲奈でも、吸血鬼ぐらいは知っている。人の生き血を吸う魔物。怖いことは怖いが、外見がそこまで人間離れしているわけではないので取り乱したりしないで済む。


(そして、この吸血鬼はもみじの血を吸いたいのね。でも、取り巻きの女子たちが間違って私をさらってきてしまった)


 正直、もみじの血なんて吸ったら能天気がうつるから止めときなさいと言いたかったが、せっかくの逃げ出せそうなチャンスに口を滑らせるほど玲奈な愚かではなかった。


「人違いだったなら、私のこと開放してくれないかしら?」


 毅然とした態度でそう要求してみるも、


「いや、期待とは違いますが、新しい血に飢えていたところですからね。せっかく来ていただいたことだし、あなたの血で我慢することにしましょうか」


 血を吸われるなんてまっぴらごめんだった。しかも、もみじの代わりだなんてひどくプライドが傷つく。


 必死に逃れようとするも、やっぱり巻き付いたシーツは解けてくれない。


 顔を近づけるドラクロア。その瞳が真っ赤に輝いた。大きく開いた口の中で、鋭い牙が二本、ニョキッと伸びる。


(見かけは人間のようでも、やっぱり魔物なんだわ!)


 玲奈が恐怖で体を強張らせた、まさにその時だった。


 教室の扉が勢いよく開かれた。


「玲奈ちゃん、助けに来たよ!」


 ポンコツ救世主の登場だった。


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