表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
エピソード2 はじめての異文化登校
31/114

その13 植物少女は見た!

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 という悲鳴のとともに、玲奈は目を覚ました。清潔そうなベッドに自分は横たわっていた。


 上半身を起こし、辺りを確認する。さほど悩むことなくここがどこなのかの答えは出た。


(保健室ね)


 生徒会室前にて、副会長のゾーラの髪の毛を見て気絶をしてしまったようだ。


 あんな悪夢を見るぐらいだから、そのショックは相当なものだった。


「またもみじに騙されたわ。どこが学校一の美少女よ。モンスターじゃない」


 どんなに顔立ちが整っていようとも、髪の毛が蛇ってだけですべてが駄目だった。


(でも、この学校ではそういう認識なのよね。つまりこの学校に通う生徒は、あのモンスターを美人だって感じてるのね。例え髪の毛が蛇でも……ううん、ひょっとしてそれすらもチャームポイントに思っている可能性もあるわ)


 自分ともみじを始めとするこの高校の生徒の間には、それはそれは深い溝があるような気がした。


「でも、少し困ったわね。相手は学校の副会長ではあるわけだし。悲鳴を上げて倒れるなんて、さすがに失礼だったかしら」


 モンスターは苦手な玲奈だが、それぐらいの気遣いはある。


(今日は私の精神的に難しそうだから、明日にでもまた生徒会室を訪ねてみましょ。それまでに、蛇に慣れておく必要があるけど)


 今晩、スマホでたくさんの蛇の画像を見て多少は慣らして玲奈は思った。


 もちろん、蛇そのものが怖いわけではなく、頭から蛇が生えている! というのが怖いのだが、それで多少の効果はあるはずだ。


(申し訳ないけど、今日はもう帰って休ませてもらいましょ。もみじにもそう連絡して)


 玲奈がスマホを取り出した時だった。


「失礼しまーす」


 そんな声とともに、四名の女子生徒が保健室へと入ってくる。


 彼女たちは、玲奈のベッドを取り囲むように立った。


 玲奈に見覚えはない。つまり、同じクラスの女子生徒ではないということだ。


 どこか、熱にうかされたような顔をしているのが少々気になる。瞳もかなり怪しい。疲れているようなのに、ギラギラとしているのだ。


「西園玲奈さんですね」


「そうだけど……」


「失礼します!」


 そういうが否や、女子生徒たちは玲奈の身体をシーツでぐるぐる巻きにした。


「もがもがもがもが」


 突然のことにどうすることもできず、たちなみ玲奈はミイラのようになってしまう。


「じゃあみんな、運ぶわよ」


「了解!」


 せーので女子生徒たちは、シーツに包んだ玲奈を担ぎ上げた。


「えいさ」


「ほらさ」


「よいさ」


「こらさ」


 玲奈がそのまま保健室から連れ出される。放課後で人気のない廊下を、女子生徒たちは足早に進んでいく。


「ドラクロア様もお喜びになるわ」


「ちょっと、名前を言っちゃ駄目じゃない」


「あ、そうだったわ。お口にチャック」


「チャックチャック」


 そんな光景を、偶然にも目撃していた人物? いや植物がいた。


 ゾーラと人気を気分する美少女、ドリアードのフラワだった。


「あら~。あれは一体なんだったんでしょうか~」


 フラワがのんびりと小首を傾げているところに、能天気な笑みを浮かべたもみじがやって来る。


「あっ、フラワちゃん。まだ学校にいたんだ」


「はい~、園芸部の活動をしていました」


 園芸部は、フラワが所属している部活だ。学園の敷地内に畑もあり、数々の怪しい植物を育てている。


 その中には、かの有名なマンドラゴラもあり、うっかり耳栓を忘れて抜いてしまった園芸部員が生死の境を彷徨うことの年に数回起こっている。


「もみじちゃんはどうしたんですか~?」


「うん、玲奈ちゃんがゾーラ先輩を見て倒れちゃったから、保健室に運んでね。きっとゾーラ先輩が美人過ぎてビックリしちゃったんだと思うなー」


 山田もみじ、とことんポンコツ思考の持ち主だった。


「起きたら喉が渇いてると思って、自販機でお茶を買ってきたの」


 ペットボトルのお茶を持ち上げて見せる。


「そうなんですか~。それは心配ですね~。わたしも様子を見にご一緒します~」


 二人して保健室へと向かう。当然そこで遭遇したのは、空っぽのベッドだった。


「あれ? おかしいな。もう起きて帰っちゃったのかな?」


 でも、玲奈の鞄はもみじの鞄と一緒にベッドの脇に置かれたまま。不自然極まりない。


「ああああああ~~」


 フラワが素っ頓狂な声を上げた。


「そう言えばさっき~」


 フラワは、何か大きな物体を担いでいった四人の女子生徒のことをもみじに告げる。


「もしかしたら、あれが玲奈さんだったのでは~」


「えっ、でもどうして玲奈ちゃんがお神輿みたいに担がれたりするの?」


「ちょっと待ってください~。あの女の子たちが~、何か言ってました~」


 うーむと考えてから、フラワは大きく目を開いた。


「そうです~。ドラクロア様もお喜びになるわって、言ってました~」


「ドラクロワ先輩! 吸血鬼の!?」


 今度はもみじが大きな声を上げる。


「そうなると、玲奈ちゃんがさらわれた理由は……」


 サーと青ざめるもみじ。


「大変! 早く玲奈ちゃんを助けに行かなくちゃ!」


「どこに~?」


「ドラクロア先輩は日光が苦手だから、お天気の日には旧校舎の最上階にいるって聞いたことがある。窓を暗幕でふさいで暗くしてるんだって。きっとそこだよ!」


「あ、もみじちゃ~ん」


 フラワが止めるのも聞かず、もみじはあっと言う間に走り去ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ