その12 NYORONYORO
玲奈は街を歩いていた。ふと、先に美容室があるのに気付く。
「少し切ってもらおうかしら」
不思議とそう思い、玲奈はその美容室へと入った。
「いらっしゃいませー」
玲奈を出迎えたのは、能天気な笑みを浮かべたもみじだった。美容師の恰好をしている。
「もみじ、どうしてここに?」
「いいからいいから。はい、どうぞ」
半ば強引に席へと座らされる。
「もみじ、どうして?」
「はい、シャンプーしまーす!」
「この美容室は?」
「はい、わしゃわしゃしまーす」
「ねえ」
「痒いとこありませんかー?」
「右の、所を」
「かしこまり!」
もみじは意外とテクニシャンで、何だか細かなことが気にならなくなってきてしまう玲奈。
シャンプーを終え乾かした後に、もみじが玲奈に尋ねる。
「お客さん、今日はどんな髪型にします。実はお勧めの髪型があるんですけど」
「どんな?」
「はい、NYORONYOROって名前のヘアースタイルです。今、NYUYORKで大竜協なんですよ!」
「そう、それじゃそれをお願いするわ」
「かしこまり!」
そういうが否や、もみじは玲奈の頭に奇妙な粉を振りかけた。
そして、色付きで中の見えないシャワーキャップをかぶせる。
「後は3分、待つだけでーす」
「カップラーメンみたいね」
苦笑してから、玲奈は尋ねた。
「それで、NYORONYOROってどんなヘアースタイルなの? 最近は毛先を遊ばせる感じが流行だって聞いたけど」
「はい、毛先どころか、毛全体が遊びまくってます!」
もみじが強調して言う。
「あ、丁度お隣の方が完了したみたいです」
これまで気付かなかったが、隣にも席があり、お客さんがいた。
玲奈と同じような、ふわっとしたシャワーキャップをかぶっている。
「はい、これがNYORONYOROですよー」
そう言うと、隣のお客のシャワーキャップをもみじがひっぺがした。
その下から現れたのは、
にょろにょろにょろにょろにょろ! ×無数
だった。
「ひいいいいいいいいいいいいい!」
悲鳴を上げる玲奈に、もみじが笑顔で説明をする。
「この髪型なら寝ぐせなんて気にしなくていいんですよー。さらに、苦手な相手はシャーって威嚇して追い払ってくれるし、いざとなったらガブって噛みついちゃいます。一匹一匹が強力な毒蛇ですから、どんな相手もイチコロです」
「あら、ステキじゃない」
「NYORONYOROにして良かったわ」
そんな声があちこちで上がる。見ると他にもお客がいて、皆そろってNYORONYOROにしていた。
もはや蛇が何匹いるのか、数えきれない。
(ちょっと待って。それじゃこのままだと私の頭も‥‥…)
想像しただけでも血の気が引いた。
「もみじ、キャンセルよ! NYORONYOROは止めて!」
「えー、もう遅いよー。玲奈ちゃん。だって」
もみじが玲奈のシャンプーキャップを一瞬ではぎ取った。
「もう3分たっちゃったんだもーん」
当然、玲奈の頭の上では……無数の蛇が絡み合うようにしてうごめいていた。
そんな姿が、美容室の鏡にしっかりと写し出される。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」