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異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
エピソード2 はじめての異文化登校
29/112

その11 学校一の美少女!?

 一日の授業がすべて終わり、放課後になった時だった。校内放送が入る。


『2年C組、西園玲奈さん。生徒会室へお越しください』


「玲奈ちゃん、聞いてた? 生徒会室に来いって」


 何故か嬉しそうにもみじが玲奈の元へとやって来る。


「聞こえてたわよ。でもどうして生徒会室に?」


「さあ、わたしも分かんない。でも、きっと、会長さんたちが挨拶したいんじゃないかな?」


 適当コンテストで一位を狙えるぐらい適当な答えではあったが、その可能性はなくはないと玲奈は思った。


 まがりなりにも、自分は特待生としてこの得葉素高校へと転入してきたのだ。


 費用は全部国持ちで!


 国の目的は分かっている。玲奈の魔法の才能をこの街で磨き、いずれは魔界と人間界とをつなぐ橋渡し役として働かせようと思っているのだろう。

 魔界対策省(魔界とのゲートが開いたことがきっかけに作られた省庁)の職員になる未来が待っている。


(もちろん、そんなのはごめんだわ)


 玲奈は心の中で強く叫んだ。


(高校卒業後は、外の大学に行くんだから。そのために、今のうちにバイトをしてお金を貯めておかないと)


 今はまだ早いが、学校や街に慣れたら真面目にバイト探しをしようと心に決める。


 何はともあれ、そういった特別な事情でやって来た玲奈に、生徒会が顔合わせをしようと考えるのは普通のことのように思えた。


 もちろん、これを拒む理由もない。


「顔を出してくるわ。もみじ、生徒会室はどこにあるの?」


「もちろんわたしも一緒に行くよ」


「場所さえ教えてくれれば別に私だけでも」


「ダメだって。だってわたしは玲奈ちゃんにお世話係なんだから」


 テコでもこの決意は揺らぎそうになかった。


 ため息交じりに玲奈が言う。


「それじゃ、お願いするわ」


「はい、お願いされました。わたしについて来てねー」


 もみじと一緒に玲奈は教室を後にする。


 実のところ、こうやってもみじが一緒に来てくれるのは正直心強かった。少し、いや、かなり大きな心配事があったからだ。


「もみじ、生徒会室に到着する前に教えて欲しいことがあるの」


「何々? なんだって教えちゃうよ。マングルス吸血蜘蛛を追い払う方法? それとも、ゲチョメロ虫が出た時どうするか? それはね、まずはお酢とお塩を――」


 その話もかなり気になった。もみじの口ぶりからして、どちらも出て当たり前な様子だからだ。


 でも今、玲奈が聞きたいことは別だった。


「ズバリ、聞くわよ。生徒会長って……人間よね?」


 玲奈がそう尋ねるのも仕方のないことだろう。この学校には思った以上に魔界からの留学生がいたのだから。


「うん。人間だよ」


 もみじが頷いて見せる。


「桐生時定先輩。眼鏡をかけててすごく頭の良さそうな人だよ。成績はいつも学園トップなんだって」


「あっ、そう」


 ホッとする玲奈だったが、


「それでね、学年の2番の成績は、副会長をしてるゾーラ先輩で――」


「はい、ちょっとそこ! ストォォォォォットプ!」


 玲奈のちょっと待ったコールが入った。


「ゾーラ先輩?」


「うん、生徒会の副会長、ゾーラ・ゴルゴン先輩だよ」


 カタカナの響きが、非常に嫌な予感がした。


「……魔界からの留学生なのね」


「すごい! どうして分かったのー!」


「そんな妙な名前の人は間違いなくあっちの出身だってことぐらい分かるわよ!」


 勢いよく叫んでから、足を止める。


「これは、覚悟が必要かもしれないわね。私、耐えられるかしら」


 大きく深呼吸をする。


「何を心配してるの?」


 不思議そうに尋ねるもみじ。


「もみじ、分かるでしょ?」


「うーん」


 しばし考えてから、もみじは能天気を炸裂させた。


「分かんない。あはは」


 玲奈は無言でもみじの能天気な額にデコピンをかました。


「いったーーーーい!」


「もみじ、私がモンスターが苦手だってことは分かってるでしょ。生徒改質にはその副会長だっているかもしれないのよ。緊張するのは当然じゃない」


「あ、そっかー。でも大丈夫だよ」


 もみじは熱い瞳で言った。


「ゾーラ先輩が怖いなんてことない。だって、ゾーラ先輩は学校一の美少女って呼ばれてるぐらいなんだから」


「そうなの?」


「うん。フラワちゃんの人気も急上昇中だけど、まだまだゾーラ先輩の人気の方が上かな? 仕事をテキパキとこなしてる姿なんて、女の子から見ても憧れちゃうよ」


 昼休みに合った。ドリアードという樹木のモンスターの少女、フラワのことを玲奈は思い出した。


 緑色の髪の毛で、そこで花を咲かせたりしていたが。


 バケツに水と栄養剤を入れ、そこに素足を突っ込むという奇妙な『食事』をしていたが。


 決して怖い相手ではなかった。むしろ、咲く花には素直にキレイと思ってしまった程だ。


(学校一の美少女って呼ばれるぐらいなら、そこまでモンスターモンスターしてないってことよね)


 少しだけ安心すると、玲奈は再び歩き出した。


 ★


 しばらくの後。


 玲奈ともみじは、校舎4階にある生徒会室の前へと到着していた。


「じゃあ、ノックするねー」


 もみじがコンコンとノックをする。


「2年C組、山田もみじです。玲奈ちゃんを連れてきました」


 引き戸が、内側から開かれた。


「はい、お待ちしていました」


 迎えてくれたのは、ひとりの女子生徒だった。


抜けるような白い肌に、人形のように整った顔立ち。固く閉じられた瞳が、神秘的な雰囲気を醸し出している。


 何よりも特徴的なのは、女子生徒の髪だった。うねうねと蠢くそれは、まごうことなく『蛇』だった。


色は鮮やかなグリーン。インドネシアやパプアニューギニアに生息する美しい蛇、グリーンパイソンにそっくりだ。


 数十匹の蛇たちが、もみじと玲奈に向かって爬虫類特有の冷たい瞳を向けた。


『シャー』


 という威嚇音もオマケにして。


「あなたたち、失礼なことをしないの。大切なお客様なのよ」


 女子生徒が、頭の蛇たちをたしなめる。蛇たちは多少、申し訳なさそうな顔をして大人しくなった。


「玲奈ちゃん、この人がさっき言ってた副会長のゾーラ先輩。ね? 美人でしょ?」


 もみじが笑顔で隣を見た時には、すでに玲奈は失神寸前だった。


 だって、髪の毛が蛇だし。髪の毛が蛇だし。髪の毛が蛇だし。


 ぶくぶくぶくぶくぶく!


 口から泡を吹いて、玲奈はその場にバタンと倒れる。


「あー、玲奈ちゃん! しっかりしてー」


 薄れゆく意識の声が響く中、玲奈は思った。


 今後2度と、もみじの話は信じないって。


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