その9 学校の怪談?
「本当、ひどい目にあったわよ」
図書館を後にした玲奈は、ぶちぶちと文句を口にした。
「でも玲奈ちゃん、あの魔本たち、玲奈ちゃが出てくのを名残惜しそうにしてたよ」
「名残惜しそうにって。もう普通の本に戻ってたじゃない」
そこで玲奈は言いかえる。
「普通……じゃあないけど、もう顔が浮き出たり目が飛び出したりはしていなかったはずよ。どうして名残惜しそうにしてたなんて分かるのよ」
「それはほら、なんとなくだよー」
もみじがニヘラ~って顔をした。
汚れたバケツの水があったら、思わずぶっかけたくなるような笑顔だった。
それでも玲奈がそれをしなかったのは、残念ながら近くに汚れたバケツの水がなかったことと――。
多分、もみじが言っていることが正しい思ったからだ。
実際、あの魔本たちは玲奈に読まれたいがために、おぞましい姿に変化しておいかけてきていたのだ。
図書館という結界の中で見かけだけは普通の本に戻ったとしても、その願望が宿ったままでいるのは不思議なことではない。
そしてもみじは、そういったことをなんとなく察知しそうな顔をしている。
(だからって! 魔本なんて絶対読まないけどね! あと、図書館も行かないわ)
心の中でそう呟く。
でも、正直困ることもある。玲奈は決して本嫌いではなかった。むしろその逆、読書好きだったのだ。
(学校の図書館が利用できないとなると……)
もみじに尋ねる。
「ねえ、もみじ。この街に市立図書館はないのかしら?」
「あるよ! ここからだと歩いて20分ぐらいかな。すっごく大きい図書館だよー」
もみじが笑顔で答えてくれる。
「あっそ。それならそっちを利用すれば……」
そこで玲奈は嫌な予感がした。多分この余暇は当たってるんだろうなと思いながらも、もみじに恐る恐る尋ねる。
「もみじ、一応確認するけれど、市立図書館にはさっきみたいな魔本って置いてないの?」
「置いてるよー。すっごくたくさん!」
だった。
考えてみれば、魔界と繋がるゲートが存在し、魔界からやって来たモンスターもたくさん暮らすここ得瑠葉曽市の市立図書館だ。
高校の図書館以上に、魔本があったっておかしくもなんともない。むしろそれが自然だ。
(かなり面倒だけど、隣町の図書館まで休みの日に出かけるしかなさそうね)
玲奈はふうとため息をつく。
何だかどっと疲れた気分だった。
「もみじ、教室に帰りましょ」
「えっ、でもまだ少し時間あるし。案内するよー」
もみじとしては玲奈に学校を案内するのが楽しいらしく、ぐいぐいとアピールしてくる。
「別に急いで案内してくれなくても、段々と分かっていけばいいことよ。学食の場所と、図書館が危険だってことが分かっただけで十分だわ」
「そうかもしれないけど、でも‥‥…」
不満そうな顔をしてから、もみじが『そうだっ!』と声を上げる。
「だったら玲奈ちゃん、さいきょうのさいきょうスポット、行っちゃわない?」
「はい?」
「だから、さいきょうのさいきょうスポットだよ! ガクガクブルブル間違いなしの」
もみじが言っているのが、『最強の最恐スポット』だと玲奈はようやく理解した。
「ちょっと待って、もみじ、あなた何考えてるのよ」
ついさっきあんな怖い目にあったばかりなのに、さらに恐ろしい場所へと玲奈を連れていこうともみじは言っているのだ。
(この子、鬼!)
怖がる玲奈の反応を面白がって(質が悪いことに)もみじが語り出す。
「これはね、先輩から聞いた話なんだー」
おどろおどろしい語り口調だ。
「夜中、忘れ物を取りに来て、さあ帰ろうとしたら、何かカタカタ音が聞こえてきたんだって」
「止めて止めて」
玲奈が必死に拒むも、もうノリノリになってしまっているもみじは止まらない。(本当に質が悪い)
「何だかな~、おかしいな~って思いながら、先輩は音が聞こえてきた方に歩いていったんだってー」
かなり稲川淳二を意識していることは間違いない。
「そしたらそこは理科準備室で。やっぱり、何だかな~おかしいな~って思って。ちょと背筋が涼しくなったけど、でも先輩は勇気を出してドアノブを掴んで、ゆっくりと開いたんだって。ギイイイイイイって音がして扉が開くと、カーテンが全開にされて月明りの差し込んでくる理科準備室の窓辺には、骸骨の模型があって。なんとそれが! それが!」
テンションを上げ恐怖心をあおってから、もみじは半ば叫ぶようにして言った。
「カタカタ、動いてたんだって!」




