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異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
エピソード2 はじめての異文化登校
23/114

その5 廊下の2人

 もみじと玲奈は、仲良く廊下に立たされていた。


 丁寧にも、両手には水の入ったバケツを持たされている。地味に重い。手が痛くなってしまう。


「いやー、間違っちゃあなあ」


 もみじはヘラヘラと笑いながら呟いた。


「ルネッサンス時代の問題は、問い3だったんだね。わたし、慌てて問題の番号、間違っちゃったよ」


 隣でもみじの話を聞きながら、玲奈な猛烈な頭痛に襲われる。


(もうどこから突っ込んでいいのかわからないわね。いっそスルーしてしまおうかしら?)


 その方がずっとずっと楽だろう。


 だけど、廊下に立たされるという屈辱を受けている身としては、どうしても一言……いや、言えるだけ言っておかなければ気が済まなかった。


「もみじ、あなたが間違えたのは問題の番号だけじゃないわ。答えもよ。ルネッサンス時代の天才画家であり、また発明家でもあった人物は、レオナルド・ディカプリオではなく、レオナルド・ダ・ヴィンチなの。ディカプリオはハリウッド俳優の名前でしょ?」


「あ、そうだった! わたし、レオナルドって言ったら自然とディカプリオって言葉が出ちゃったんだ。つい流れで。ザビンチを知らなかったわけじゃないんだよ」


 言い訳がましくそんなことを言うも、ダ・ヴィンチをちゃんと言えたかどうかも怪しいところだ。だって明らかに『ザビンチ』って言っているし。


(これは、フランシスコ・ザビエルとごっちゃになってる可能性があるわね)


 追求してもヤブヘビになりそうだったが、それでも聞かずにはいられない。


「もみじ、問題よ。1549年に日本にキリスト教を伝えた宣教師の名前は?」


「サプライズ歴史問題だね!」


 何故か楽しそうにするもみじ。


「それぐらい、知ってるよ。だって小学校の教科書にも載ってたぐらいだから」


 そしてもみじは、堂々と自信を持って、誇らし気に答えた。


「フランシスコ・ダビデルだよ!」


(ああ、思った以上に駄目だわ。今度はダビデ像と一緒になってる)


 もみじと付き合ってまだ一日しかたっていないが、そこまでお馬鹿な子ではないと玲奈は思っている。


 ただ、慌てんぼうで、そして言葉が雑なのだ。


 ここ正解を教えてもいいが、きっとまた間違えることだろう。


 玲奈は歴史の授業を諦めて、さっさと話をもとに戻した。


「話が脱線したわ。何も私は歴史の授業をしたかったわけじゃないの。あなたの間違いについて指摘したかったのよ」


「だから、問い2と問い3を間違えちゃって」


「根本的に違うわ。そもそもとして教科をあなたは間違ったのよ。さっきは数学の授業だったのよ。世界史の答えを言ってどうするのよ。まあ、それも間違ってたけど。そしてさらに、一番の問題は!」


 玲奈は言葉を強くして言う。


「あのタイミングで発現したってことよ! 私、問題はもう解けていたんだから。あなたが発言しなかったら問題なく終わっていたの」


「ううう、ごめんなさい」


 もみじが申し訳なさそうな顔をする。


「よく考えれば、教壇に立ってるのがコッツンコツ先生なんだから、数学の授業なのは明らかだったよね。でも、わたし、玲奈ちゃんのピンチだと思って焦っちゃって! つい世界史の問題を答えちゃったんだ。レオナルド・ディカプリって」


「だからレオナルド・ディカプリは間違いよ。正解は――」


「うん、分かってる。レオナルド・ダビデ像だよね」


 もはや色々がごっちゃになってカオス状態だ。


「もう……いいわ」


 もみじが自分を助けようと咄嗟に行動してくれたことへの感謝が3割。残り7割はこれ以上話しているとこちらまで疲れそうだったから、玲奈なため息をついた。


「次からは余計なことをしないこと。それだけ約束して」


「うん、分かったよ。次からは、例え目を覚ました時に、玲奈ちゃんがピンチだったとしても、自分で切り抜けられるって信じて見守ることにするから」


「それ以前に、目を覚ましてって部分が問題よね。居眠りをしないようにするって発想はないの?」


「それは……難しい問題なんだよねー」


 深刻そうな顔でもみじは呟く。


「わたし、ちょっと暖かくなるとすぐに眠くなっちゃう質だから」


 そこで何かを思いつく。


「そうだ。先生に相談して、玲奈ちゃんの隣の席にしてもらおうかな? そしたらわたしが眠っちゃっても起こしてもらえるよね」


「拒否するわ」


 玲奈はきっぱりと言った。余計な荷物は背負いたくない。


「あー、もう! 玲奈ちゃんのいじわる~~」


「でも、もみじ。あの骨の先生って、何?」


 不信感を込めて、玲奈が言う。


「コッツンコツ先生のこと?」


「骨の先生なんて他にいないでしょ?」


 呆れたように呟く。


「無駄に生徒を怖がらせた挙句、廊下に立たせるなんてどうかしてるわよ」


「別にコッツンコツ先生は生徒を怖がらせたりしてないと思うけど……」


(そうだったわね。あの頭がグルグル回転するのも、この学校の生徒たちにとっては普通の光景なのよね)


 この認識の違いは、なかなか埋まらないんだろうなあと玲奈は思った。


「とにかく、今時生徒を廊下に立たせるなんてどうかしてるわよ。時代錯誤もいいとこよ。しかも丁寧に水の入ったバケツまで持たせて。あの先生、生徒をいじめるのが好きなんじゃないの」


「そんなことないよ!」


 もみじが強く否定する。


「コッツンコツ先生は確かに厳しい先生で、笑ったとこなんか見たこともないし。怒られた回数もすごく多いし、わたしなんてしょっちゅう廊下に立たされてるけど。それでも熱心ないい先生だよ。分からないところを質問に行くと、丁寧に教えてくれるし」


「本当に?」


「本当だよ。『こんなことも分からないのか』『君の頭は、スケルトンの私の頭よりも空っぽのようだね』って言われたりはするけどね」


(もみじだから平気にしてるけど、かなりの罵倒なんじゃないかしら?)


 とにかく、玲奈の中でもコッツンコツ先生への印象はこれで確定された。


(あの先生、大嫌い!)


 って。


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