その2 コツコッツ? コッツコツ?
その2 コツコッツ? コッツンコツ?
玲奈が向かった先にいたのは、きっちりとした背広を着て、眼鏡をかけたスケルトンだった。
「お早うございます」
まだまだスケルトンは怖かったが、玲奈は勇気を持って話しかける。
昨日、不良のリザードマンに襲われた時、ひとりのスケルトンがさっそうと現れ、秘めたる力を解放した挙句、何もしないままバラバラになってしまった。
ハッキリ言ってしまえば、何の役にもたたなかったのだが、玲奈ともみじを助けようとしてくれたその心意気だけは本物だった。
(どうして学校なんかに来てるのか分からないけど、ちゃんとお礼は言わなきゃね。それと、最初のお詫びも)
玲奈な深々と頭を下げた。
「昨日は助けに来てくれてありがとうございました。それと、最初に会った時に悲鳴を上げてしまってごめんなさい」
「………はあ?」
スケルトンが発したのは、困惑気味の声だった。
「君は一体、何を言っとるのかね?」
「何って、昨晩のことですよ。リザードマンを相手に、力を解放して。確か武闘派スケルトンの家系だとかで」
「ちょっとちょっと、玲奈ちゃん!」
慌てた様子のもみじが飛んでくる。ガウラも一緒だった。
「一体何してるの?」
「何してるのって、昨日の、私たちを助けに来てくれたお礼よ。後、最初に会った時に悲鳴を上げてしまったお詫び」
「それを言う相手はコツコッツお兄ちゃんでしょ?」
「ええ、だからコツコッツさんに」
「この人は違うよ! コッツンコツ先生だよ!」
「コッツンコツ……先生?」
「いかにも、私はコッツンコツだ。この学校の数学教師だが」
コツコッツさんならぬ、コッツンコツ先生は、骨の人差し指で眼鏡を押し上げた。
「すみません、コッツンコツ先生。人違いです。あはははは」
もみじが笑って誤魔化す。
「まあ、別にいいがな。彼女は例の転入生だろ? 眼鏡屋にでも行くべきではないか? 私を誰かと見間違えるなんて、黒板の文字が見えるか心配だからな」
皮肉のような言葉を残し、コッツンコツ先生は去っていく。
「行ってくれたか。コッツンコツ先生、堅物で厳しいからなあ。下手に怒らせると宿題をドカンと増やされるし」
「そうだよ、玲奈ちゃん。危ないところだったんだからね」
怒るもみじに、いまだ困惑気味に玲奈は尋ねる。
「ちょっと確認させて。今の人は、昨日会ったスケルトンのコツコッツさんではないの?」
「違うよ。コッツンコツ先生だよ」
「名前、同じじゃない」
「全然違うよ。コツコッツじゃなくって、コッツンコツだよ」
確かに違うが、微妙だ。とてつもなく微妙だ。全然違うなんてよく言えたものだ。
「顔だって体型だって違うのに、どうして間違っちゃうのかな~」
「もみじ、それ、本気で言ってるの?」
逆に効き返してしまう。
「そりゃ、服装が違うのは認めるわよ。眼鏡もかけていたし。でも、顔も体型もほとんど同じだったじゃない」
玲奈の見た限り、身長も肩幅も、大体同じだったような気がする。
逆を言えば、それぐらいでしか判断ができない。だってだって、骨なんだから。
「ううん、全然違うよ」
もみじは断言する。
「コッツンコツ先生は、コツコッツお兄ちゃんよりも鎖骨がちょっと細いんだよ! あと、舌骨がちょっと長いし! それに何より、顔が全然違うじゃん」
「そーだな。顔が違うような」
牙宇羅も納得している。
顔の違い。少なくも玲奈には少しも分からなかった。
「意地悪じゃなく、ちょっと聞かせて。もし、昨日のコツコッツさんが、今のコッツンコツ先生とまったく同じ恰好をしたとして、玲奈と斧炎離瑠くんには見分けがつくの?」
「もちろん!」
「当然だろ!」
2人の意見を聞き、玲奈は唖然とする。
「すごいのね」
ただただ、感心することしかできないのだった。