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異文化こみにけーしょん  作者: 作・夏井めろん 画・ピロコン
エピソード2 はじめての異文化登校
19/114

その1 初登校


挿絵(By みてみん)


 もみじの家での朝食は、なかなかのハプニング続きだった。


 まずは山田家特性の、本物の目玉が焼かれて上に乗った『トーストの目玉焼き乗っけ』


 当然、玲奈が食べられるはずがない。だってグロいし、キモいし、お腹を壊しそうだし。


 仕方がないので、もう1枚食パンを焼いてもらい、ジャムと一緒に食べようしたのだが、出てきたのはイチゴにしては真っ赤すぎるジャムだった。


「ねえ、もみじ、このジャムって」


「トロベリー吸血ネズミの血だよ」


 はい、NG! だった。


 他にも一軒、ブルーベリージャムのようだが、「ルーベリー中の体液だけど」でNG。


 さいこに現れたバター、これなら問題ないかと思われたが、


「メスのミノタウロスのお乳の濃厚バターだよ」


 でもって、NG!


 結局、砂糖をふりかけてトーストを食べることになったのだ。まあ、味はおいしかったが。


 玲奈が残した『トーストの目玉焼き乗っけ』は、もみじがペロリと平らげた。合計2枚のパンと、2つの目玉がもみじの胃袋におさまったことになる。


 腹痛を起こさないか心配したものの、もみじはいたって平気だ。それもそうだろう。


 ???の目玉は、ここ得葉素市ではごくごく普通の食材であり、その目玉焼きでお腹を壊す住人などほとんどいないのだ。


「ねえ、もみじ。今度、スーパーに一緒に行ってくれない? ひとりだと、ショックを受けて買い物もできそうもないから。それに、食材の説明も頼みたいし」


「うん、いいよー」


 とまあ、そんな約束を交わし、2人は家を出て学校へ通うことになった。


 いつもは遅刻の多いもみじだったが、今日は早起きをしたこともあり時間的余裕があった。玲奈と一緒に片道?分の道のりを歩く。


 その間、もみじはずっと喋りっぱなしだった、そのほとんどがどうでもいいことだったから、玲奈は逆に呆れてしまう。


(世の中、こんなにも下らなことを永遠と喋れる人間がいるのね)


 そうこうしているうちに、学校の校舎が見えた。犬が自分の尻尾を追いかけてくるくる回るといったくだらない話をしていたもみじが、校舎に気付き華やいだ声を上げた。


「玲奈ちゃん、見て見て、あれがわたしたちの学校、得葉素高校だよ」


「そうみたいね」


 戦場を前にしたような用で、玲奈はゴクリと喉を鳴らす。


「この学校には、魔界からの留学生が多いのよね」


「うん、わりといるよ。でも大丈夫、みんな優しい人ばかりだから」


 魔界との扉が開いてしまった関係で、この町は古くから魔界のモンスターとのつながりができてしまった。留学生が来ることも、滅して珍しくないことだろう。


「もちろん、逆だっているよ。こっちの学校から魔界の学校に留学する生徒。だけどね」


 もみじが小声で囁くように言う。


「魔界の学校って、周辺の治安がすごく悪いんだって。だから相当強い人でないと、向こうへの留学の許可は出ないんだって」


 でもすぐに、ニッコリと微笑む。


「あ、でも玲奈ちゃんは大丈夫だね。あんなに魔法が上手なら、魔界の学校にだって留学できるよ、きっと」


「お断りよ!」


 玲奈が強く拒絶した。モンスターが混じってるこの得葉素高校に通うことだってまだまだ抵抗があるのに、ほぼほぼモンスターだらけの魔界の学校になっか通えるはずがない。


「良かったあ。せっかく同級生になれたのに、すぐに別れ別れになっちゃうなんて悲しいと思ってたから」


「あら、もみじと私は同じクラスなの?」


「うん、何かそうらしいよ」


 もみじの返事に、玲奈は少しだけホッとした。もみじの能天気さには頭が痛くなることもあるが、それでも昨日一緒にピンチを切り抜けた中だ。ある程度、性格も分かってきたし、相談もできそうだ。


「私、本当に分からないことだらけどから。よろしく頼むわ、玲奈」


「うん、よろしく頼まれちゃうよ。玲奈ちゃん」


 もみじがドスンと拳で胸を叩き、強すぎたからとみせる。そんなおバカなもみじの背かなをさすりながら玲奈が、校門をくぐった時だった。


「おっす、もみじ。あと、西園さんだっけ」


 無遠慮な声がかけられる。顔を向けると、獣耳の生えたジャージ姿の少年がサッカーボール片手に立っていた。


(確か彼は、もみじの幼馴染の)


「???????牙宇羅だ。よろしくな」


 鋭くとがった牙をむき出しにして、牙宇羅は笑った。


「おはよう、牙宇羅くん。朝練の帰り?」


「そっ。1時限目の宿題、まだ終わってないんだよね。早く帰って誰かに移させてもらわねーとな」


「留学生も一般生徒と同じ教室で同じ勉強をするの?」


 玲奈の質問に、もみじも、牙宇羅もキョトンとした顔になる。


「何だって?」


「だから、留学生は特別なカリキュラムを組まれたりすんじゃないの?」


 玲奈の質問に、牙宇羅が笑いながら答えた。


「他じゃ知らねーけど、うちの学校じゃ留学生だって普通の生徒と変わりねーからな。教室も一緒なら学食もいっしょ。部活だって一緒なんだぜ。まあ、対等に勝負できるようハンデつけさせられるけどよ」


 そう言いながら牙宇羅は、自分の首輪を引っ張って見せた。


「それと、オレは留学生なんかじゃないからな」


「え?」


「オレは、正真正銘、日本人なの。もみじや西園さんと同じな」


 そんな馬鹿な話があるわけないと思った。だって牙宇羅はワーウルフで、その恐ろしい変身シーンだって昨日目にしている。


 そこで玲奈はひとつの可能性に気付いた。


「帰化してるのね」


「ピンポーン、大正解」


 牙宇羅がおどけた声を上げる。


「いろいろあって、小四の時に家族そろって日本人になったんだよな」


 そういったモンスターも少ないと聞き、ショックを隠し切れない玲奈だった。


「もみじとつるむなら、オレともよく合うだろう。よろしくな、西園さん」


 牙宇羅が右手を差し出す。握手を求めての行動だ。


「ああああ、牙宇羅くん! 早く教室に戻らないと、宿題のテスト写させてくれる人、見つからないかもしれないよ」


「いや、ちゃんと候補者が何人も」


「皆して風邪ひいちゃってる可能性だってあるし。ほら、急いで急いで」


 昨日も見せたもみじの行動の真意を、玲奈は薄々感じていた。


(もみじ、私とモンスターを触れ合わせなようにしているのね)


 クスリと笑ってから、もみじは牙宇羅に歩み寄った。


「西園玲奈よ。よろしくね。あと、昨日は本当にありがとう。あなたがあのトカゲ連中をいためつけてくれたおかげで気分がスッキリしたわ」


 平然と牙宇羅の手を握る。


「玲奈って呼んでくれていいわ。わたしも、もみじと同じで牙宇羅くんって呼ぶようにするから」


「そうか、ならありがたい。そうさせてもうらぜ。じゃあな、玲奈、もみじ」


 しっかりと握手をしてから、牙宇羅はその場を離れていった。


「玲奈ちゃん、今の……」


 驚いて言葉を失っているもみにじ、玲奈が少し照れ臭そうに言う。


「確かにまだモンスターは怖いわ。でもまだ彼は許容範囲よ。変身されたら無理だけど、普通にしていてくれれば、単なる獣耳と尻尾の男子だから。それにね」


 玲奈は静かに付け加えた。


「正直、必要はなかったけど、彼は昨日、私たちを助けに来てくれた。あの霧の中を抜けてよ。それはとても感謝しなくちゃいけないこと。だから、怖がるなんて失礼よ」


「玲奈ちゃん!」


 もみじが感涙する。少しだけモンスターたちに心を開いてくれたことが嬉しくてたまらないのだ。


「あとは、あの人にもお礼を言わなきゃね。私たちのために、文字通り体を張ってくれたんだから。


 そこで玲奈はある人物に気付いた。


「どうして彼がここに? まあいいわ」


 そう言うと、もみじをその場に残し速足でスタスタと歩き出した。



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