その9 KFCへようこそ
「ごめんね。まさかデスワームが、普通のペットじゃないなんて全然知らなかったよ」
ペットショップを出たもみじは、申し訳なさそうに言った。
(あんなのが普通のペットのはずがないじゃない!)
と声を大にして叫びたい玲奈だったが、もうそんな元気もなくなっていた。
それでも、もみじに勘違いされたままでいるのも何だか面白くなかったから、きっちりと説明しておくことにした。
「多分、全然気付いてないと思うけど、最初に見せてくれた、ケロベロス、オルトロス、ヘルハウンド、それからトイマンティコアも普通のペットじゃないから」
「ええええええ!」
やっぱり気付いていなかったらしく、もみじは目を大きくして驚いている。
「じゃあじゃあ、玲菜ちゃんにとって普通のペットってどんななの?」
「そうね。犬なら、チワワとかパピヨンとかトイプードルとか。猫なら、アメショーとかスコティッシュとかかしら? まあ、あなたは知らないかもしれないけど」
「ううん、知ってるよ!」
大きく頷いたもみじは、それからとんでもない言葉を口にした。
「そんな珍しい犬や猫が見たかったら、最初から珍しいペットが見たいって言ってくれれば良かったのに。そしたら、珍しいペットがいるお店に連れてってあげたんだよ。玲奈ちゃんが普通の、普通のって言うから、普通のペットショップにしちゃったよ」
(この町では、チワワとかパピヨンとか、アメショーなんかは、珍しいペットなのね。それよりも、頭がいくつもあったり、燃えていた璃、コウモリの羽根が生えていたり、ましてやうねうね蠢く虫の幼虫の方が、ポピュラーなのね)
つまり、この町を歩いていてペット連れの人とすれ違う時には、高確率で(玲奈にとっては)普通じゃない生物? を連れていることになる。
改めてこの町の恐ろしさを知り、玲奈は眩暈を覚えた。
「あっ、玲奈ちゃん。大丈夫?」
もみじが慌てて玲奈を支える。
「ずっと歩きっぱなしで疲れちゃったよね。それじゃ、どこかでお茶でもしようよ。おやつでも食べながら」
(違うのよ。疲れたのはあなたがおかしな場所にばかり連れていくからよ! 驚き疲れなのよ!)
と猛烈に抗議したいが、そんな気力もなかった。
この町に来る緊張のせいか、あまりお昼を食べられなかったこともあり、お腹が空いているのも事実だった。
「そうだ!」
もみじが何かを思いついたように声を出す。
「ここからならあそこが近いし、行こっ!」
玲奈の意見も聞かずに勝手に決めてしまう。
「大丈夫、普通のファーストフード店だから」
「その普通が当てにならないのよ」
玲奈は絞り出すような声で言った。
「あなたのことだから、どんなおぞましい食べ物を出す店か分かったものじゃないわ」
「そんなことないよ。本当に普通の食べ物だから。だってほら、あそこだよ」
もみじが指さした方向には、一見のファーストフード店があった。
『K・F・C』
という看板が出ている。
(KFCなら、確かに普通よね)
警戒心を少しだけ和らげた玲奈を、もみじがぐいぐいと引っ張っていく。
「さっ、行こ! 疲れた時こそがっつり揚げ物を食べなくっちゃ! 太るのを気にして美味しい物を食べなかったら、人生もったいないよ」
持論を口にしながら、もみじは玲奈と共に『KFC』の中へと入った。