49 直樹の精神
直樹は教会で蘇り、起き上がる。
「チクショ……ステータスさえ1じゃなければ……いや、剣術を知らないから勝てる見込みもないか」
直樹はため息を吐き、椅子に座る。
「俺は宿に辿り着く事すら出来ないのか? ははは……」
元の世界での直樹の死因は失血死。しかも頸動脈からの出血。死に至る速さは最速。直樹は圧倒的な恐怖、激痛、絶望感が凝縮された数十秒を味わっている。その為出血を伴わない死に関しては少しずつ恐怖が薄れている。
だが、確実に直樹の精神の崩壊は進んでいた。
「もう一日だけ泊まらせてもらうか? 考えが纏まるまで……ん?」
カタカタと直樹の左手が震える。
「え? なんだこれ」
よく見ると左手だけではなく、全身も小さく震えていた。
「な、なんだよこれ……ええ?」
直樹に精神異常の自覚はない。だが本来なら一生に一度しか体験しない筈の死。それを何度も経験するとなると、普通は平気ではいられない。
(何故震えている? 死が怖いからか? いや、俺は何度も死を経験した。確かに辛いが……耐えられるレベル。このくらいはもう耐えられる筈だ。それに今は安全、震えてどうする!)
直樹は強気な心で全身に力を入れた。直樹体の震えは徐々に小さくなり、やがて収まった。
「はぁ……何なんだよチクショウ」
次の瞬間、教会の扉が音を立てて勢いよく開いた。