16 モスキート戦その2
波の音、そして痒みと共に直樹は目を覚ました。
「痒っ……野郎俺の大切な血液を吸いやがったな」
直樹は手首をぽりぽりと掻きながら起き上がる。
「俺が死んでから生き返り、意識を取り戻すまでには少し空白の時間があるわけか……クソ、モスキートめ」
直樹は目を凝らして蚊の位置を探る。
「手を叩いて蚊を殺すのが可能でも、自分の手同士でぶつかるわけだからダメージを受ける……蚊と相打ちになる。だったら俺は蚊を『掴む』作戦を使おう」
蚊を掴んで握り潰せば、自身への攻撃判定を回避する事ができる。両手で叩いた場合は風を感知した蚊に逃げられる可能性があるが、片手で掴む場合はそのデメリットが存在しない。
唯一の問題点は、蚊を倒しても達成感を感じない事である。両手で軽快な音を立てて倒した場合は爽快感があるが、掴んだ場合はそうはならない。蚊は静かに死ぬのである。
「見えた! そこだっ!」
直樹は右手を素早く前に出し、蚊を掴んだ。
「よし!」
手を強く握り、蚊を圧殺する。なんとも短く、静かな戦いであっただろうか。
直樹が右手を開くと、体が潰れ、血が飛び出した蚊の死骸があった。
「くく、ははは! やはり俺の敵ではなかったな! ……一回死んだけどな。はぁ……」
直樹は見事に蚊を倒したが、蚊と戦って一回死んだという事実に落ち込んだ。