魔王の昼休み
「あのメガネいつか潰してやる……!」
「おぉおぉ、燃えとんのぉどうしたん?」
「タクト…。」
話しかけたのは俺の親友のタクト。癖っ毛な茶髪と大阪弁がトレードマーク。
なぜ大阪なのかは、親の大阪弁を聞きながら育ったかららしい。
タクトは俺と同じ大手企業の子息だが、本人は継ぎたがっていない、少々複雑な現状だ。
媚も売らず、いつもヘラヘラしているが、高校にして、初めて同等だと思えた相手になる。
「聞いてくれよ、今日の授業中さー」
「また授業サボったん?」
「うっせ、現在絶賛後悔中だ。それで裏庭で一人のメガネにあったんだよ。」
思い出すと、自然に眉が寄せられる。
メガメの奥で笑っているあの目……!
うがぁぁあぁ!
「へぇ……女子?」
「それが?」
ああぁ!あいつ女子だからって手を抜いたからアイツはあんなに調子乗ったんだ!
思わず頭を抱える。
「ついに和人にも春が来よったか…。」
「おい、そんなんじゃねーぞ!?アイツはオタクだ、ヤバイやつだ!というか何故この学園にいるんだぁぁ!?」
「何処ぞの息女だからやない?」
「あんなトップがいるかぁ!」
ぜーはー息を吐いていると、周りにいた人たちが西条様がご乱心よ!
と言っているのか聞こえた。
あまり騒ぐと会社のイメージを悪くするので、一旦冷静になる。すぐに憤ったが。
「あんっのメガネ、いきなり俺に落ちてきたと思ったら俺を魔王呼ばわりだぜ!?魔王はないだろう!?」
「和人に落ちて平然としてるとは……中々おもろいこみっけたなぁ?」
ケラケラ笑っているタクトを睨み、溜息をつく。
「しかもスマホを持ってきてゲームしてた…。」
「ほんま、笑える!」
「笑えねぇ!ちっとも笑えねぇ!」
少しは理解しろよ!と心から思う。
「挙句『うっしゃ…』なんでもない。」
「どうしたん?」
「なんか寒気を感じた。で、俺に気づいていながら、自意識過剰だとか、貴方のようなトップがこれくらいでとか、色々煽ってくるんだよ、チクショー!」
イライラしすぎて、机を叩く。痛かった。
拳をさすりながら、怒りをぶちまく。
「和人に反発するなんて今までいなかったんちゃう?」
「いや、それ自体はいいんだが、煽りがウゼェ!」
「煽るなんてほんま珍しい子やな。」
「あんなのが頭になったら会社潰れる。」
「落ち着け和人。」
「おい、大阪弁どこいった。」
「標準語も言うことあるんよ。」
俺の周りには変人しかいないのか……!
絶望していると、クラスの男子に呼ばれた。
「おい、西条女子が呼んでるぞ。」
また女子か……は?
「お前後でしばく。」
「何で!?」
何でかって……!
メガネを連れて来たからに決まってんだろーが!
引き攣った笑みで廊下に出る。
それに対し、メガネは満面の笑みだ。
「関わんな。」
「すみません、今回の体育祭の書類を提出しに来ました。」
無視しやがった…!
しかもこのメガネ、体育委員かよ!俺もそうだよ、委員長だよ!
うっわ、最悪。体育祭が終わるまで一緒とか。絶望感半端ねぇ……。
あと周りの奴があの子勇者だって囁いてるけど、此奴はどちらかと言えば悪魔じゃね!?
「あと、アンケートの紙ですが、出来上がってますか?」
「ああ。少し待て。」
先日とったアンケート用紙を取りに、教室へ戻る。
机からアンケートを出し、タクトに渡した。
「よろしく。」
「いや、何で俺!?」
「詳しい話は後でするから、とりあえずよろしく。」
「しゃあないか。後で絶対話せよ!」
「分かった。よろしく。」
サンキュー、タクト。約束は守る。
「そこまで嫌やんか…。結構可愛いと思うねんけどな…。」
あれが可愛いかったら全て可愛くなる。
しばらくクラスメイトと話していると、タクトが戻って来た。
大量の書類を持って。
「嫌がらせかよ!」
「いやぁ、あの人委員長だから渡しといてって言われたらな。ダメやったか?」
「これ百合組の役割の分だよ!」
最悪だ……。タクトに任せたのは失敗だったか。
「今すぐ返してくる。」
「頑張ってな〜。」
マジゆるさねぇ……。
ズンズン歩き、百合組で止まる。
ガラッとドアを開け、体育委員を出してくれるよう頼む。
「何でしょう?」
「おいメガネ。お前自分のクラスの分を渡しただろう!?」
「何のことでしょう?」
すっとぼけやがって…。
書類を突き付ける。
「これ。」
「あら?貴方様が関わるなと仰ったのでしょう?」
ぐ、と詰まる。
こいつそこまで見透かしてやったのかよ!
「という事ですさようなら。」
「あっ、こら!」
逃足がはや!
こうなったら格の違いを見せるしかない。
「明日までに片付けて余裕を見してやろうじゃないか……!」
俺は胸に決意した。